「ボーはおそれている」「ミッドサマー」「ヘレディタリー」アリ・アスターの世界
「意味わかんない」と評判の「ボーはおそれている」ですが、アリ・アスターのこれまでの作品を振り返るとわかりやすくなります。
「ヘレディタリー」「ミッドサマー」と、アリ・アスターが描いてきたテーマは一貫して「家族の恐怖」です。
アリ・アスター自身、「ボーはおそれている」は「ヘレディタリー」「ミッドサマー」と同じテーマを持つ作品であり、「非公式な3部作」と言えるものだと述べています。
「ヘレディタリー 継承」
は、オカルティストだったおばあちゃんの陰謀で、家族が全員悪魔教のいけにえにされちゃうお話です。(まとめすぎ?)
「ミッドサマー」
は、妹の無理心中で家族を失ってしまった主人公が、悲しみに共感してくれる新たな擬似家族を得るけれど、それは実は最悪なカルトで、いけにえにされちゃうお話です。(まとめすぎ?)
普通は、家族というのは「絶対的に安全な場所」なんですよね。
外で怖い目にあっても、家に逃げ帰ることができれば安心。愛情あふれるお父さんやお母さんに囲まれて、恐ろしいものから守ってくれる。それが家族。
ホラー映画においても、家族は「逃げ帰るべき目標の場所」として扱われることがほとんどです。
それなのに……そんな「最後の安全地帯」であるはずの家族が、この世でいちばん怖い場所になってしまうというのは、とてつもなく怖いことですよね。逃げ場がない。
というわけで、
「ボーはおそれている」
も基本的に同じ話です。「いちばん怖いのは家族」という話。
今回怖いのはママ。ボーが生まれた時からすべてのことを決定し、ボーから判断力や思考力を取り上げ、愛情と恐怖でボーの人生を支配する、残酷な神のごとき存在のママ。
そんなママに支配された世界を、ボーの主観で体験していくのが今回の映画です。
ボーにとって、人生はまるごと全部が恐怖の世界です。
何しろ、誕生の瞬間から悪夢が始まりますからね。
不気味な心音と歪んだノイズ、苦痛に喘ぐママの悲鳴、「赤ちゃんが死ぬ!」という叫び声。産まれた瞬間にホラーの世界。いきなりトラウマを植え付けられるという。
そんな人にとって、世界はどんなふうに見えているのかということを、3時間みっちりと体験することができる。強烈なトラウマ体感ムービーです。
「ヘレディタリー」「ミッドサマー」ときた「家族の恐怖」の、集大成的な作品と言えるんじゃないでしょうか。映画館でどっぷり浸りましょう!
ブログで「ミッドサマー」の時系列考察記事を書いています。よかったらこちらもどうぞ。