おっさんたちのワチャワチャアンサンブル劇をまとめた長澤まさみの七変化『スオミの話をしよう』
■スオミの話をしよう
〈作品データ〉
数々の映画、テレビドラマ、舞台の監督/演出、脚本を手掛けた三谷幸喜監督の久しぶりの新作は長澤まさみを主演にしたクライムコメディ。ある日、大富豪で詩人の寒川しずおの妻のスオミが失踪し、しずおは旧知の刑事の草野圭吾に捜査を依頼する。その草野はスミオの前の夫であり、しずおからスミオの様子を聞き、彼女の変貌ぶりに驚くが、そんな中で他にもスミオを知る男達が続々と集結する。スミオ役を長澤まさみが演じ、他西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎、戸塚純貴、阿南健治、梶原善、宮澤エマが出演。
・9月13日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
・上映時間:114分
・配給:東宝
【スタッフ】
監督・脚本:三谷幸喜
【キャスト】
長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎、戸塚純貴、阿南健治、梶原善、宮澤エマ
〈『スオミの話をしよう』レビュー〉
コロナ禍と2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の脚本に携わったこともあってか、映画監督作品としては『記憶にございません!』以来5年ぶりとなった三谷幸喜監督作品『スオミの話をしよう』。
おっさんとイケメンのワチャワチャの中で長澤まさみの七変化コメディエンヌっぷりとそれに付き合う宮澤エマを楽しむ映画で、舞台劇っぽさもあって三谷幸喜らしいクライムコメディに仕上がっている。
いなくなった女性に携わる男達のミステリーと言えば『キサラギ』を思い出すし、複数の人物が一つの出来事を違った角度で話す様は黒澤明監督の『羅生門』そのものなんだけど、この二つと決定的に違うのは現在進行系で事件が起こっている最中ということ。つまり、現夫の寒川しずおの家に元旦那4人が集まって、それぞれ違うスミオの人物像を語りながら、現在進行系で起こっている失踪事件を解こうとする。
失踪事件自体は落ち着いて考えて行動すれば至ってシンプルな事件なんだけど、坂東彌十郎が演じる寒川しずおが超ワガママ&偏屈で所々でセコい男であるのと、集まった5人のスオミの夫によるそれぞれ違った性格のスオミのエピソード回想録で見事にドタバタとしたコメディになっている。スマホやパソコンが電磁波アレルギーで苦手という割には購入した無重力マッサージ機の「あんま王Ⅳ」を好んで使ってたり、意味深そうで中身がまるでない言葉を吐きまくる寒川に、ボソリボソリと変な行動をする遠藤憲一が演じる魚山大吉に、変な言動でまとめる松坂桃李が演じる十勝左衛門、そして彼らにひたすら振り回される草野と宇賀神と小磯。こうしたおっさんとイケメンのワチャワチャを長い時間見るので、そこにハマるハマらないが映画を楽しめる鍵だと思う。
圧巻なのはやはり長澤まさみで、人によってまるで違うキャラを演じている。その中でも小林隆が演じる宇賀神の時の偽中国人のスオミは中国語が分からないとタモリの出鱈目中国語を見ているような気分になりながらも中国人っぽくも不思議と感じる。このそれぞれ違ったスオミの演じ分けは『コンフィデンスマンJP』のダー子の応用で、終盤のあるシーンはお見事。
どのキャラクターも言動がスフレケーキ並にフワフワなんだけど、長澤まさみが宮澤エマを相棒にして男達を手玉に取る映画と考えれば手応えがある。