時代を超えた楽曲と言葉と玉ねぎヘアーが見事な桜田ひより『大きな玉ねぎの下で』
■大きな玉ねぎの下で

〈作品データ〉
爆風スランプの80年代のヒットバラード曲「大きな玉ねぎの下で 〜はるかなる想い」をモチーフにし、昭和63年〜平成元年と令和の2つの時代の行き違いの恋模様を描いた恋愛映画!大学4年生の堤丈流は夜間営業のバーでバイトをしていて、そこの職場日誌を通じて昼間営のスイーツ店で働く看護学生の村越美優と知らず知らずの内に日誌越しに意気投合していたが、丈流の母親が入院する病院で二人は合う度にウマが合わないままでいた。そんな中で、丈流の母は高校時代に友人の明日香を通じて三浦海岸に住む高校生の府川大樹と文通をしていたことを思い出していたが、その文通は大樹の友人の虎太郎が代筆をしていた。主人公・堤丈流役を神尾楓珠、ヒロインの村越美優役を桜田ひよりが演じ、他山本美月、中川大輔、伊東蒼、藤原大祐、窪塚愛流、瀧七海、伊藤あさひ、休日課長、和田正人、asmi、飯島直子、西田尚美、原田泰造、江口洋介、サンプラザ中野くんが出演。
・2月7日(金)より丸の内TOEI他全国ロードショー
・配給:東映
・上映時間:115分
【スタッフ】
監督:草野翔吾/脚本:髙橋泉
【キャスト】
神尾楓珠、桜田ひより、山本美月、中川大輔、伊東蒼、藤原大祐、窪塚愛流、瀧七海、伊藤あさひ、休日課長、和田正人、asmi、飯島直子、西田尚美、原田泰造、江口洋介、サンプラザ中野くん
公式HP:https://tamanegi-movie.jp/
《『大きな玉ねぎの下で』レビュー》
「なぜ今、爆風スランプ?」という疑問はとりあえず置いといて、今の40、50代の方なら一度は聴いたり、カラオケで唄ったことがある「Runner」で有名な爆風スランプのバラード曲「大きな玉ねぎの下で 〜はるかなる想い」をモチーフにした神尾楓珠&桜田ひよりW主演の恋愛映画『大きな玉ねぎの下で』。個人的には「大きな玉ねぎの下で」という曲自体は好きで気になったので見てみたら、手紙や職場日誌(交換日記)の行き違いとバラード曲「大きな玉ねぎの下で」を上手く使った恋愛映画で、数々の恋愛映画の要素を盛り込んだこともあって、意外にも響いた!

映画は大学4年生の堤丈流を主人公にした令和6年と、高校生の大樹と虎太郎がメインになる昭和63年〜平成元年の2つの時代が舞台になるが、軸はあくまでも令和6年のシーンで、平成元年前後は令和時代版の登場人物の過去回想になるが、ともに手紙と職場日誌を使った行き違いの恋模様が描かれている。

お気にポイント①バージョン違いの楽曲「大きな玉ねぎの下で」
どちらの時代もまだ見ぬ相手への連絡手段として手紙/職場日誌というアナログなアイテムを使いつつ、書き手が身近な同僚や友人を代役に立てたり、偵察させたりバディを使うことで行き違いや勘違いを起こして関係がおかしくなる。
この二つの時代のアナログな文章のやり取りの中でキーになるのが「大きな玉ねぎの下で」という曲になるが、昭和・平成は爆風スランプ版、令和はasmiが演じるシンガーソングライターのa-riが歌うバージョンというふうに時代に合わせたアーティストにプレイさせ、さらに軸になるイベントとしてそれぞれのアーティストの日本武道館でのライブがあり、「大きな玉ねぎの下で」の歌詞に合わせてそこでの出来事がクライマックスとなる。この「大きな玉ねぎの下で」を異なるバージョンで複数回聴かせる手法は『パッチギ!』における「イムジン河」の使い方にも通じ、楽曲の良さを存分に活かしている。
令和の時代での大学生の丈流と看護学生の美優との関わりをメインのエピソードに据えているが、この二人の流れは「嫌い↔嫌い」から始まる恋愛で、これは『或る夜の出来事』や『恋愛小説家』、『猟奇的な彼女』など、古今東西のロマコメの王道の展開と言うよう。


お気にポイント②時代に合わせたコミュニケーションツール
そこに職場日誌を使った昼と夜のまだ見ぬ相手へのコミュニケーションを行う辺りはタイの恋愛映画『すれ違いのダイアリー』のようである。ただ、この間に丈流と美優の間もいくらか距離は縮まっているが、そこは令和らしくLINEやチャットSNSといったツールを使っている。
方や昭和・平成では当時一部で流行っていたラジオ雑誌の文通コーナーを介して大樹&虎太郎と明日香&今日子が三浦海岸〜秩父市といった遠距離の手紙のやり取りをやっていて、非常に時代の香りが感じられる。そこには韓国映画『イルマーレ』でのやり取りも仄かに彷彿させる。
この二つの時代の異なるコミュニケーションツールにとある共通サムシングがあり、そこが『イルマーレ』や『すれ違いのダイアリー』に通じる技を感じた。

お気にポイント③巧みな空間演出
また、大樹&虎太郎がラジオ・邦楽好きの放送部だったり、明日香がスクーターに乗ってる田舎のヤンキー娘という設定も上手く使っている。この放送部に置いてある小道具がこの時代らしく上手い演出である。

方や令和では昼間はスイーツ店、夜はバーと一つの店舗をシェアリングしたり、そこでの虎太郎と仲良くなる客の職業、大学の講義の様子、何かとちょっと洒落た居酒屋に集まるなど、コロナ禍が落ち着いた令和らしさをそこここに描いている。


また、それぞれの時代で「病院」も人が集まる共通する場所になっているが、病室やナースステーションの雰囲気など、それぞれの時代らしさが感じられる。


お気にポイント④成長著しい桜田ひより
キャストでは令和時代のヒロイン・美優を演じた桜田ひよりの成長が著しい。

映画を見る前は手応えがイマイチだった『交換ウソ日記』のヒロインということもあったので、少々不安があった。『交換ウソ日記』はごく普通の女子高生恋愛映画だっただけに個人的には感じるものがいまひとつなかったが、本作でのちょっとしっかり者の看護学生役というのが思いの外ハマっていた。よく考えたら『交換ウソ日記』で文字通り交換日記をやってた桜田ひよりが『すれ違いのダイアリー』よろしくな職場日誌をやっているのがエモく、『交換ウソ日記』のリベンジ(?)と考えると感慨深い。看護学生or新米看護師らしい怒ったり、笑ったり、喜んだり、落ち込んだりと感情表現が豊かで、おかげで終始飽きずに見られた。さらに付け加えると、映画のタイトルに合わせてやたら「おのののか」のような玉ねぎヘアーが目立ったが、これがものすごくしっくりきていて、ある意味、そんな玉ねぎヘアーの彼女を見る映画でもある。

これに加えて、asmiが演じるa-riとDJをやっていた江口洋介やちょっとボンクラな就活生の両親役を演じる原田泰造&西田尚美や、ひょっこりとした大物ゲスト的な飯島直子、さらに隠れキャラなサンプラザ中野くんなど、平成を彩ったベテランたちの活躍も楽しめる。


昭和・平成の時代の終盤の展開にかなりの無理がある展開があり、ここだけが唯一残念なポイントではある。しかしながら、単なる歌詞の再現だけでは終わらせず、二つの時代の異なるすれ違いのラブストーリーを見せたのはお見事で、高橋泉の脚本というか脚色もお見事で、楽曲の素晴らしさにも劣らないストーリーだった。爆風スランプはもちろん、asmiが好きな方も見た方がいい映画で、
「Runner」や「大きな玉ねぎの下で」が流れる昭和末期と平成のはじまり、コロナ禍が落ち着いた令和といった時代を感じて欲しい。
