マイケル・J・フォックスの「ニューヨーク無責任時代」『摩天楼はバラ色に』
■摩天楼はバラ色に
《作品データ》
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのマイケル・J・フォックスが主演のニューヨークを舞台にしたロマンティック・コメディ!カンザスの大学を出たブランドリーはマネー・ゲームで沸くニューヨークに行き、内定していた会社に入るが、入社して早々、会社は買収され、クビを言い渡される。職歴がないブランドリーは再就職に苦戦し途方に暮れるが、母親の遠縁に当たる叔父に大企業ペンローズ社を経営しているハワードを訪ね、どうにか彼の会社の配送係の仕事にありつく。主人公ブランドリー役をマイケル・J・フォックスが演じ、他ヘレン・スレイター、リチャード・ジョーダン、マーガレット・ホイットン、ジョン・パンコウ、クリストファー・マーニー、ジェリー・バマン、フレッド・グウィン、キャロル・アン・スージー、エリザベス・フランツ、ドリュー・スナイダー、スーザン・ケラーマン、クリストファー・デュラング、ビル・ファッガーバッケ、ジャック・デヴィッドソン、ジョン・ボウマン、マーク・マーゴリスが出演。
・公開日: 1987年6月20日
・配給:UIP(現・東宝東和)
・上映時間:110分
【スタッフ】
監督・製作:ハーバート・ロス/原案・脚本:A・J・カロザース/脚本:ジム・キャッシュ、ジャック・エップス・Jr
【キャスト】
マイケル・J・フォックス、ヘレン・スレイター、リチャード・ジョーダン、マーガレット・ホイットン、ジョン・パンコウ、クリストファー・マーニー、ジェリー・バマン、フレッド・グウィン、キャロル・アン・スージー、エリザベス・フランツ、ドリュー・スナイダー、スーザン・ケラーマン、クリストファー・デュラング、ビル・ファッガーバッケ、ジャック・デヴィッドソン、ジョン・ボウマン、マーク・マーゴリス
《『摩天楼はバラ色に』考察》
どうもサブスクの見放題にはないがTSUTAYAのレンタルにならある映画は80年代や1990年前後の作品に集中しているようだ。「なんでこの映画がサブスクにないの?」という作品がわりとあって、マイケル・J・フォックス主演映画『摩天楼はバラ色に』もそんな映画の一つで、この機会に見てみることにした。
・『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズは好きなのになぜか見なかった『摩天楼はバラ色に』
マイケル・J・フォックスと言えば80年代を代表する映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの主演俳優で、29歳でパーキンソン病を患い、以降も俳優業を続け90年代も主演作品は度々ある。
この『摩天楼はバラ色に』はひょっとしたらマイケル・J・フォックスにとっては『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズに次ぐ代表作品かもしれない。が、どういうわけか今日までこの映画を見るのを避けていた。
この映画が公開された1987年当時、たしかテレビではこの映画のCMがかなり流れていたけど、スカした邦題とコテコテなアメリカコメディ映画のようなテレビCMを見て、当時の筆者は小学6年生ながらかなり呆れてしまい、後にレンタルビデオ屋でリリースされてもまるで食指が動かなかった。いや、コメディだから避けたのではない。
強いて言えば
ロマンティック・コメディ、
「摩天楼はバラ色に」(※ニューヨークはバラ色に、と読む。念の為)という邦題、
そして大都会のニューヨーク
というカッコつけの三重奏に11、2歳の少年がドン引きした、
と思い返している。
『摩天楼はバラ色に』は世の中的にはマイケル・J・フォックスの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』での絶大的な人気もあってヒットしたけど、考えてみれば当時の日本はバブル時代真っ只中だったから、そりゃ相性抜群な作品である。筆者は当時小学生ということもあって、このバブル時代特有の空気が苦手で、だからこそこの映画を今日の今日まで避けて来たが、令和の今になって見てみた。何度目だよ、このフレーズ。
・まさかのアメリカ版『ニッポン無責任時代』
簡潔に書けば、
マイケル・J・フォックスがカンザスの田舎から大都会のニューヨークに出てアメリカン・ドリームをつかむコメディ映画、
でほぼほぼ説明がつきそうだが、当然ながらこれだと半分どころか1/3しか当たってない。
なんと、この映画、
アメリカ版『ニッポン無責任時代』じゃないか!!
もちろん、あくまでも感覚的なもので、中には『日本一のホラ吹き男』や『日本一のゴマすり男』の要素も見られる。
そのぐらい
マイケル・J・フォックスが演じるブランドリーが『「無責任男」シリーズ』の植木等ばりに人たらし、ゴマすり、嘘やタイミングの良さで切り抜けていく話である。
上記の「作品データ」ではさわりのあらすじしか書かなかったが、この映画の肝はブランドリーが途中でたまたま入った空き室の重役室で電話を取って勝手に応対して架空の重役「カールトン・ウィットフィールド」に成りすまし、ある時は配達係のブランドリー、ある時は重役カールトン・ウィットフィールドになる。社長のハワードにはブランドリーとして面がわれているのでウィットフィールドとしては立ち振る舞いが出来ないのあれやこれやで切り抜ける、というオフィスドタバタコメディ。
この鍵を握るのはハワードの妻ヴェラと、ヘレン・スレイターが演じる美人重役クリスティ。ある意味、ブランドリーの戦法は「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」に近いが、マイケル・J・フォックスの甘い童顔マスクと人たらしな性格で社長夫人のヴェラに上手く取り入り、後半はこれが功を奏す展開になる。この部分が策略的なら男女は逆だがマリリン・モンロー主演の『百万長者と結婚する方法』にも通じるが、この作品では打算はなくあくまでも天然というのもポイント。
これに対してクリスティにははじめはかなり拒絶されるけど、徐々に変わる。こう見ていくと、『「無責任男」シリーズ』の植木等とは当然ながらかなり違う……と言いたかったが、『「無責任男」シリーズ』の団令子や浜美枝もこのヘレン・スレイターに近いから、やっぱり似ている。
・童顔&163cmのマイケル・J・フォックス
ただ、マイケル・J・フォックスの童顔なマスクと163cmの低身長は微妙な不釣り合い、ミスマッチを感じる。ガキっぽいというか、コメディ映画とは言えあまりにも嘘っぽく見える。低身長でもカッコいい会社重役とかマフィア、偉い人とかはいっぱいいるが、童顔で低身長のマイケル・J・フォックスがニューヨークのホワイトカラーの企業戦士としてスーツを着ていると…なんか違う。
下手すると七五三や親戚の正月の集まりの背伸びしたおめかしっぽくも見える。
けど、この童顔&低身長のおかげで何万人も従業員がいるという大企業ペンローズ社ではそこら辺の企業戦士と同化している。これが高身長だと目立つからブランドリーとウィットフィールドの一人二役が不可能だったりする。
ちなみに、先程からやたらと比較している植木等は身長165cm。
えっ?マイケル・J・フォックス、植木等よりも身長が低かったのか。
あと、この映画が作られた・流行った時代背景として1987年10月19日のブラック・マンデー直前のニューヨークだったこともある。同時代の映画にオリバー・ストーン監督作品『ウォール街』があるが、あの映画は正攻法で証券マンのストーリーを描いているし、後のマーティン・スコセッシ監督作品『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の序盤でも「ブラック・マンデー」直前のニューヨークが描かれている。
つまり、時代を切り取ったロマンティック・コメディで、これにナイト・レンジャーによる主題歌「The Secret Of My Success」(この映画の原題でもある)やパット・ベネター、バナナラマ、ロジャー・ダルトリーとモロにザ・80'sなサウンドでより映えている。
あとマイケル・J・フォックスだけでなく、ヒロインのヘレン・スレイターも80年代半ばで『スーパーガール』として有名になった俳優で、中盤までのお堅い企業ウーマンっぷりはお見事。特に前半に何度かある給水器で水を飲むカットのエロさが絶妙で、これは撮影のカルロ・ディ・パルマの上手さと言えよう。
それとこの映画のキーマンになるマーガレット・ホイットンの存在も欲求不満な熟女っぷりがよく演じられて印象に残る。彼女は後に『メジャーリーグ』に出てくる女オーナー役でも印象深い。
これ、当時の評論家らの評価も賛否両論だったんじゃないかな?悪くはないんだけど、不向きな人はとことん毛嫌いしそうな。
個人的には時代の空気とドタバタな展開は概ね悪くはないんだけど……マイケル・J・フォックスとヘレン・スレイターのロマコメとしては良いんじゃない、で落ち着けたい。
何よりもアメリカ版『ニッポン無責任時代』だし(笑)。