「ザ・ホエール」(2022)
【文学史に残る名作を大胆にアレンジ】
今年私は映画・小説共米国作品を主に選択しており、本作レンタルへ至る航路もメルヴィルが著した「白鯨」(岩波文庫刊・八木敏雄訳)再読を振出にジョン・ヒューストン監督の映画版鑑賞を中継したうえで辿り着いた
鯨の生態に関する記述などを含め「事典」のような独特の構成を持つ叙事詩的海洋冒険小説から派生した父と娘の物語とも云うべき内容(舞台劇原案)は創作の観点で考えて大変興味深いアレンジだ
片脚を奪った白鯨への私怨に駆られ狂信者の如く振る舞う船長エイハブに当たる人物はこの作品では幼い自分を捨てて恋人の「男」へ走った父親に対し複雑な念を抱く17歳の娘エリーである。そしてそのパートナーを失った心痛がもとで過食に陥り身動き取れぬほどの巨体と変わり果てた父親チャーリーが白鯨に相当し、思春期真っ只中で素行不良のエリーに手を焼く母親がエイハブの言動を問題視する航海士スターバックの役どころとなるだろう。尤も実際は鯨でも悪魔でもないチャーリーには人間らしい感情が存在するわけでそれがストーリー上の大きな鍵になっている
チャーリーの身に生じた極度の肥満をひとつの災いと捉えると何となく旧約聖書におけるヨブの話を想起させなくもない(「ヨブ記」には鯨に似た海獣レビヤタンも登場する)。但し如何なる災いに遭おうと神への強い信仰を捨てなかったヨブと一切神に頼ろうとしなかったチャーリーの間には大きな隔たりを感じるが
物語の終盤、文章力養成セミナーにてオンライン講師を務めるチャーリーは「正直に書け」のメッセージで最後の授業を締める。彼の言葉に従い率直に記すなら、実は私にもエリーと同年齢の娘がいる(彼女が5歳の時に離縁して以降別々に暮らすが、年1回位は顔を合わす)。そんなことも影響してか映画の結び部分は尚更琴線に触れ幾筋もの涙が頬を伝った。春には高3となる娘は某大学の文学部英米文学科合格を目指し受験勉強に励むらしい。いつか「白鯨」や「ザ・ホエール」についてお互い語れれば幸いに思う
★★★★★★★☆☆☆
(2025-12)
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投稿を表示はじめまして。素晴らしいと思いました!