懐古 アメリカ映画の1970年
昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
「1960年」を初回に、前回「1969年」まで10回にわたって当時の名作に触れてきた。
今回は、アメリカ映画の新旧の流れが交錯した年と言われた「1970年」(昭和45年)の話題作を御紹介したい。
「大空港」 監督:ジョージ・シートン
1970年代の幕開けは、ダントツの全米興行収入ナンバーワンに輝いた、この「大空港」。
猛吹雪で機能のストップした空港を舞台に、極限状態の中で様々な人々の不安と希望が交錯する。


リンカーン国際空港は猛吹雪に覆われていた。ゼネラルマネージャーのベーカースフェルド(バート・ランカスター)は、空港の機能維持のため奔走していた。その時、着陸したトランスグローバル航空のボーイング707型機が誘導路から脱輪し、積雪の中に車輪を落としてメイン滑走路を塞いでしまった。ベーカースフェルドはこの処理を、トランスワールド航空のベテラン整備士で保安主任のパトローニ(ジョージ・ケネディ)に任せる。一方、離陸するローマ行のトランスグローバル航空2便には、ヴァーノン・デマレスト機長(ディーン・マーチン)が乗務していた。2便は猛吹雪をついて離陸したが、その後、大変な問題が発覚する。失業中で精神を病んでいるD・O・ゲレロ(ヴァン・ヘフリン)という土木技術者が、自分の生命保険金を妻のイネス(モーリーン・ステイプルトン)に残すため、爆弾をアタッシュ・ケースに仕込んで搭乗しているというのだが...。

家庭を顧みないベーカースフェルドは、妻シンディ(ダナ・ウィンター)と離婚寸前で、航空会社の地上勤務社員ターニャ(ジーン・セバーグ)と恋仲になっている。
デマレスト機長も妻サラ(バーバラ・ヘイル)がいるにもかかわらず、同じ2便のクルーでもある客室乗務員のグエン(ジャクリーン・ビセット)と関係をもっている。
そこに無賃搭乗常習犯の老女エイダ・クォンセット(ヘレン・ヘイズ)や、ベテラン税関職員ハリー(ロイド・ノーラン)等を絡ませ、刻々と迫るエンディングに向けて、各々の人間模様を鮮明に浮かび上がらせている。
中でも保安主任のパトローニを演じたジョージ・ケネディの存在感が際立ち、滑走路を塞いだ機を、葉巻を加えながら移動させるシーンは、まるで機体に執念が乗り移ったかのようで素晴らしい。
そして、不安そうなモーリーン・ステイプルトンの表情は、演技とはいえ、忘れることができない。
「パットン大戦車軍団」 監督:フランクリン・J・シャフナー


第二次大戦の英雄ジョージ・S・パットン将軍の栄光と失意が交錯する生涯を、ダイナミックに描いた伝記的戦争映画。
偏屈で孤高で激情家で、利己的な愛国主義者として知られたこの人物を、名優ジョージ・C・スコットが見事に演じきり、アカデミー賞の作品賞と主演男優賞を受賞した。(尚、スコットは主演男優賞の受賞を拒否している/後述)
1943年のアフリカ戦線。米軍はロンメル将軍率いるドイツ軍に苦しめられていた。そこに着任したのがジョージ・S・パットン将軍(ジョージ・C・スコット)である。彼はブラッドリー少将(カール・マルデン)を副官に任じ、直ちに兵士たちに厳しい訓練を課した。やがてロンメルを敗退させ、息の根をとめる。だが、イギリス軍のモントゴメリー大将(マイケル・ベイツ)や欧州連合軍司令官アイゼンハワーと対立し、司令官の任を解かれる。その後、パリ解放、バルジの戦いで名誉を回復するが、反ソ連の感情を露わにしたため軍を追われる。過激な言動ゆえに、栄光と失意が常に背中合わせにあるパットンの人間像が描かれる...

主演男優賞の受賞を拒否したジョージ・C・スコットは、 ‘俳優たちを競争させることは堕落だ’ というのが理由で受賞式も欠席。授賞式については ‘2時間のけばけばしいショーに過ぎない。金儲けのためにサスペンスを盛り込んだ大衆向けの展示だ’ と評している。
又、 ‘私はアカデミーを攻撃するのではない。関わり合いになるのを好まないだけだ’ とも述べている。
因みに、本作の脚本(共同)を手掛けているのは、無名時代のフランシス・フォード・コッポラである。
「ある愛の詩」 監督:アーサー・ヒラー


世界的な大ヒット作となった、古典的且つ正統派の純愛メロドラマ。
公開当時、 ‘愛とは決して後悔しないこと’ と言う名セリフが話題となった。
ニューヨーク。富豪の御曹司で弁護士を夢見るオリヴァー(ライアン・オニール)と、イタリア移民の貧しい家庭に育った女子大学生のジェニー(アリ・マッグロー)は、大学の図書館で出会って恋に落ちた。オリヴァーは地位や財産のことしか頭にない父親(レイ・ミランド)に勘当されるが、ジェニーと2人だけの結婚式を挙げ、2人は慎ましいながらも幸せに暮らしていた。ところがある日、不治の病がジェニーを襲う...。

哀しくも美しい愛の名作ではあるが、これはスタッフ、キャスト、時代の風潮など、あらゆる要素がうまく整合して誕生したといえる。
職人肌のアーサー・ヒラー監督が、ライアン・オニールとアリ・マッグローから迫真の演技を引き出している。過度に飾らず、すっきりとした演出が功を奏したのだろう。
フランシス・レイの甘美な音楽も印象的で、この映画の象徴を成している。
「M・A・S・H」 監督:ロバート・アルトマン
朝鮮戦争下の移動陸軍病院(通称MASH)の軍医たちを主人公に、戦争を痛烈に風刺したブラック・コメディの傑作。


朝鮮戦争の最前線にある移動陸軍病院に、型破りな3人の軍医が着任した。ホークアイ(ドナルド・サザーランド)、デューク(トム・スケリット)、そしてトラッパー(エリオット・グールド)である。腕は達者だが、規則も規律もまったく気にしない彼らは、早速、従軍牧師や歯科医を手なづけ、気楽な生活を始める。ある日、セックスの猛者と評判の大尉が突然不能になり、自殺すると騒ぎ出した。3人の軍医は彼のために最後の晩餐会を開き、美人婦長のディッシュ中尉(ジョー・アン・フラッグ)に彼の看病をさせる。やがて軍医らは、融通の利かないバーンズ少佐(ロバート・デュヴァル)や、グラマーな女性将校ホーリハン(サリー・ケラーマン)らを相手に、戦争とは違った戦いの場を見出していく。

当時、真っ只中であったベトナム戦争への皮肉をたっぷり込めて作られており、シニカルで悪趣味ともいえるほどの笑いの中に、痛烈な反戦のメッセージが隠されている。
生々しいシーンや、上品とは言い難いジョークは理解と許容の範囲を超えているという声もあるが、この映画は ‘心ない映画’ ではない。
非道で無礼な言動の裏で、退廃や偽善を暴きながら立派に行動しようとする軍医は、勇敢な人物としても描かれている。
「ファイブ・イージー・ピーセス」 監督:ボブ・ラフェルソン
仕事や家庭など、一切のしがらみからドロップアウトした一人の中年男の彷徨を描いたニュー・シネマの異色作。


有名な音楽一家出身のボビー(ジャック・ニコルスン)は、今はカリフォルニアの油田で働きながら、酒場のウェイトレスのレイティー・レイ(カレン・ブラック)と同棲している。故郷と身分を捨てたものの、姉のティタ(ロイス・スミス)から、父親が脳卒中で倒れたと聞くと、すぐさま飛んで帰った。兄夫婦(ラルフ・ウェイト/スーザン・アンスパッチ)やティタら家族は、ボビーに対して相変わらず優しかったが、そうされればされるほど、ボビーの気持ちは不安になっていく...。
そもそも ‘ファイブ・イージー・ピーセス’ とは、初心者向けのピアノ教則本を示しており、ピアノを習っていたボビーが、簡単な曲さえ弾けないほど自堕落になってしまったということらしい。

ボビーの反骨精神が各所に見てとれ、特に、レストランでメニューにありもしないサラダトーストを出せと迫る場面や、交通渋滞の中で車から飛び出して、ピアノを載せたトラックの荷台に飛び乗り、喧騒と混乱のただ中で、静かにピアノを奏で始めるシーンなどは、ニュー・シネマの中でも出色の場面であろう。
前年、「イージー・ライダー」(69年)で注目を集めたジャック・ニコルソンが、この作品の奥行きのある演技でますます評価を上げ、名優への道を進んでいくきっかけとなった作品でもある。
「キャッチ22」 監督:マイク・ニコルズ
戦争に嫌気がさした兵士の行動を通して、戦争そのものをパロディ化したブラック・コメディ。


第二次世界大戦下、地中海の小島にある米軍基地に本拠を置く爆撃機の射手ヨサリアン(アラン・アーキン)は、長引く戦争に辟易しており、何か口実を作っては前線を退くことばかり考えていた。そこで彼は、奇行を繰り返すことで頭がおかしくなったと周りに思わせ、それを理由に休養しようと企む。ところが、いつの間にかヨサリアンは、負傷兵の幻覚に悩まされるようになる。
奇想天外な映像や挿話を積み重ねる手法で、戦争の狂気を伝えているが、豪華な俳優陣が顔をみせているのも特徴的。
軍の隊長キャスカート役のマーチン・バルサム、副官のコーン中佐役のバック・ヘンリー、怪しげなヤミ屋をやっている中尉役のジョン・ヴォイト、ドリードル将軍役のオーソン・ウェルズ、タップマン従軍牧師役のアンソニー・パーキンス、ダンビー少佐役のリチャード・ベンジャミン、更に、マーチン・シーンやハリー・ディーン・スタントン、サイモン&ガーファンクルのアート・ガーファンクルまで出ているのだ。

監督はマイク・ニコルズだが、彼ほど様々なジャンルの作品を手掛けた人も珍しい。
シリアスドラマ「バージニア・ウルフなんかこわくない」(66年)、青春映画「卒業」(67年)、サスペンス・スリラー「イルカの日」(73年)、喜劇「おかしなレディ・キラー」(75年)、社会派映画「シルクウッド」(83年)、ヒューマン・ドラマ「心の旅」(91年)等々。
そして、パロディとはいえ戦争ものの本作、無いのは西部劇とミュージカルくらいか。
同年のほかのアメリカ映画では、「いちご白書」、「L・B・ジョーンズの解放」、「シャーロック・ホームズの冒険」、「燃える戦場」などが懐かしい。
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投稿を表示「ある愛の詩」は、名作だと言われるだけあって、恋愛映画として非常によく出来ていると思います。ジェニーとオリヴァーが知り合った頃の言葉のやりとりは、今の若者は絶対にやっていないだろうなと思わせる知的なものに溢れています。恋のかけひきというやつですね。恋人になってからの二人のデートのシーンは、惚れ惚れするくらいロマンティックですね。夏より冬のシーンが多く、スケート場で遊んだりと、雪と戯れたりする二人の姿は、ほんとに素敵です。あんな無邪気なデートをしていたのは、やっぱりひと昔前のことなのかなと思います。この映画に流れるフランシス・レイのテーマ曲を知らない人はいないのではないでしょうか。それくらい有名なメロディで、映画のムードとピッタリの名曲だと言えますね。この曲が流れ出したら、もう涙を流さずにはいられなくなりますね。今の若い観客が観ると、時代遅れ的なものを強く感じてしまう部類の映画かもしれません。でも、時代錯誤的な要素というのは、映画を遜色させるものでは決してないと思います。なぜなら、この映画には力強いテーマが存在しているからです。「愛とは決して後悔しないこと」。この言葉に感動しない人はいないでしょう。ジェニーがオリヴァーに対して、そしてオリヴァーが父に対して言う、この普遍的な永遠の名セリフは、映画史の中で今でも燦然と輝いていますね。
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投稿を表示1970年の洋画、懐かしいですね。1970年代の初頭のアメリカ映画界は、いわゆる”アメリカン・ニューシネマ”ブームで、体制批判的なテーマの映画が横溢している中にあって、この映画「大空港」は、ハリウッドらしいスペクタクルとドラマを蘇らせた作品ですね。
アーサー・ヘイリーの原作の小説「AIRPORT」は、1968年から1969年にかけて、アメリカだけでも400万部を売り尽くした大ベストセラーの映画化作品。
オールスター・キャストで描かれる、スペクタクルと赤裸々な人間模様。
この映画の面白さが、スリルと抜群のスペクタクルだけにとどまらないのは、そういった名優たちの演技を通して、一人一人の人物を克明に描き上げ、見事な存在感を持たせているから。
しかも、カメラは一人の俳優だけを追うのではなく、画面には、常に二重三重の人物が描き込まれていく。
1940年代から活躍するハリウッドの巨匠、ジョージ・シートン監督の実に厚みのある名演出が、この映画の粋を味わわせてくれますね。
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投稿を表示1970年もなかなか興味深いラインナップですね。
「大空港」は文句なく面白かったです。ハラハラしました。
見たことがない作品もあるので、見てみたいです!
ところで、作品と作品の間に「区切り線」を入れるととても読みやすくなりますよ。
右上の点が三つあるところをクリックすると、”区切り”というのが出てきます。
それをクリックするとラインが入ります。
お試しあれです(#^^#)