2025年に観た映画(41) 「毛虫のボロ」

№41
日付:2025/9/24
タイトル:毛虫のボロ
監督・脚本:宮崎駿
劇場名:土星座(三鷹の森ジブリ美術館)
パンフレット:あり(¥500)
評価:8
ジブリ美術館オリジナル短編アニメーションの10作目にあたる最新作(といっても公開は2018年)。原作・脚本・監督は宮﨑駿氏。上映時間14分20秒。
孵化したばかりの毛虫の子ボロが外界の日常に揉まれる様子が、宮崎監督らしい着想と観察眼で描かれた作品。冒頭からその映像にくぎ付けとなりました。
ボロが暮らす世界は様々な生命がいっぱいで危険もいっぱい。ポニョが初めて外界の海に飛び出した時のように、いやそれ以上にその荒波に翻弄されるボロの様子が、愛らしくも時にリアルさとキモさも失わず、その演出に新鮮な驚きも感じさせられる。そのミクロな世界が最後は我々人間の視界にまで引き戻されることで、どこか懐かしさを伴う日常の“あるある”と結び付き、我々が暮らすこの世界そのものへの愛おしさが増すような、そんな作品。うちの裏庭にもうようよ生息する虫たちを見る目が優しくなってしまいそうです。
家に帰ってから2016年11月に放送されたNHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」を観返しました。「風立ちぬ」公開後に引退宣言をした宮崎さんが、長年温めてきたボロの企画を実現する為にC.G.と悪戦苦闘する様子が克明に記されている貴重なメイキング映像。2015年当時、C.G.に興味を示した宮崎さんが、いざこのデジタルツールで自分の頭の中にあるイメージを具現化しようとすると、まったく思い通りの映像にならない。絵コンテだけでなく、レイアウトのレベルまで宮崎さん本人が詳細に設計図を作成しながらも、満足のいくアウトプットに仕上がらない。一体どんなインプット情報が足りないのか。当初はこの試みを楽観視していた関係者が徐々に追い込まれてゆく過程が生々しい。番組でC.G.ディレクターとして登場していた櫻木優平氏は、結局作品のクレジットからも外れていました。
最終的に出来上がった作品は間違いなく素晴らしい傑作短編アニメでした。少なくともボロの描写に対するC.G.の適用は非常に限定的なものにならざるを得なかったのでは。あれから10年、今ならどこまで宮崎作品の制作ツールとして人の手に取って代わる事が出来るのか、ちょっと興味あります。

- ものがたり
- 対談 養老孟司 × 宮崎駿
- プロダクション・ノート 奥井敦(撮影監督)/吉田昇(美術監督)/中村幸憲(C.G.作画監督)
- クレジット
