【蔵出しレビュー】ヨルゴス・ランティモス監督による不穏とやや変態染みた異世界の中世イギリス『女王陛下のお気に入り』
※9月27日から公開のヨルゴス・ランティモス監督最新作『憐れみの3章』にあわせて、ヨルゴス・ランティモス監督の過去作品のレビューをUPしました。尚、文章は公開当時のものを一部加筆・訂正したものです。
■女王陛下のお気に入り
《作品データ》
『ロブスター』や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスの最新作は、18世紀初頭のイギリスの王室を舞台にした重いドラマ! 元貴族だが落ちぶれたアビゲイルは従姉に当たるアン女王の幼なじみで側近のサラを頼りに女王の下女として雇ってもらい、あることをきっかけにアビゲイルはアン女王の側近の一人に加わることに。アビゲイル役を『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンが演じ、アン女王役にオリヴィア・コールマン、サラ役にレイチェル・ワイズが出演。
・公開日:2019年2月15日【PG12】
・配給:20世紀フォックス映画
・公式HP:http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/
《『女王陛下のお気に入り』レビュー》
『籠の中の乙女』、『ロブスター』、『聖なる鹿殺し』と独特な異世界を作り上げる“鬼才”ヨルゴス・ランティモス監督の待望の最新作は、実在したイギリスの女王を取り上げた作品と聞き、「まさか『エリザベス』や『ヴィクトリア女王 世紀の愛』みたいな糞真面目な史実ドラマをやっちゃうの……」と不安をちょっと抱いたが、流石はヨルゴス・ランティモス監督。
いい意味で期待を裏切り、ヨルゴス・ランティモス監督らしく不穏とやや変態染みた異世界の中世イギリスを見せつけてくれた!
一応、アン女王を演じたオリヴィア・コールマンが主演ではあるが、真の主演はエマ・ストーンが演じたアビゲイルで、彼女の下女から女王のナンバー2を狙う成り上がりストーリーと見るとかなり面白い。この成り上がりっぷりがどことなく『バリー・リンドン』に重なっても見える。
構図としては痛風持ちでルックスも悪いけどカリスマ性がある女王、頭がキレッキレで実務も取り仕切るナンバー2のサラ、知恵と周囲の外堀埋めと悪意で虎視眈々とナンバー2を狙う成り上がりのアビゲイル、この3人の不条理・怨念ドロドロのドラマとなっている。
糞尿まみれた汚い地面・泥やアヒルのレース、子供代わりのウサギ、畳の廊下などこれまでの中世ヨーロッパの史実映画にはない描写が面白いし、女王があらゆる意味で醜く描かれる辺りも新鮮。女王が醜ければ醜いほど映画は面白く、ヨルゴス・ランティモス監督らしい異世界を形成する。さらに、泥の風呂に入ったり自慰のシーンやレズシーンがあったりするなど変態性もたっぷり。
こうした目に見える変態性と、上記の女王とダブル側近の泥々人間ドラマという二重の汚さで不条理のドラマを形成する。エンディングでかかるエルトン・ジョンの曲の心地よさが半端なく、この上ないカタルシスで心に染み渡る。
女王がサラやアビゲイルと仲良くする辺りや中世のデフォルメなんかはソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』らしいし、不穏なドラマは『アマデウス』や上記でも挙げた『バリー・リンドン』に通じるものがある。