
アカデミー賞・主演賞のお二人
アカデミー賞主演男優賞は
エイドリアン・ブロディ

監督ブラディ・コーベット
製作国:アメリカ、イギリス、ハンガリー
時間:215分
前半100分、後半100分。

間にインターミッション15分。幸せな家族写真と共にがカウントダウンされる、というかつてない経験が出来る、今作品。上映時間の割には登場人物は多くない。私の中では、3人。
要所要所でニュースが差し込まれるが、ここがミソ。アメリカの経済状況が映し出される。

ブルータリストとは?
「ブルータリズム」の建築家という意味。1950年代に見られるようになった建築様式で、コンクリートの打ちっぱなしみたいな外観。

そこから温かみは感じない。家庭的なものを感じない建物、器。いかにもドドーン、と建物ですっと主張しているので、何かしらのメッセージも建物から感じる。このブルータリズムの建物を排除したがる、トランプ大統領。というのも、2020年にトランプ大統領(当時)はブルータリズム建築を槍玉に上げ、連邦関連の建物は「美しい建築」にしなければならない、としたのです。翌年、バイデンがこの大統領令を取消しましたが、コーベット監督はブルータリズムが今日も「人々をいら立たせる」からこそテーマにしたかったと説明しています。

差別と疎外感
ホロコーストを生き延びて、アメリカに渡ったラースロー(エイドリアン・ブロディ)が最初に目にした自由の女神が逆さまな事も、この辺が関係しているのか。母国ハンガリーでは大学教授をする程のエリートだったラースローも、移民としてアメリカに来てしまえばただの人。しかもまだ妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪のジョーフィアとは、いつ会えるかわからない。いとこを頼って家具屋に勤めた事で、実業家ハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアーズ)と出逢う。

そのままアメリカンドリームとなるかと思いきや、商業主義との闘いや、つきまとう移民としての差別、というのがこの物語の面白さと暗さ。ラースローが感じる、何処にいても「よそ者」として扱われる疎外感。前半、弱者であった移民のラースロー。後半、芸術家としての顔を出し才能を発揮し始めると、アメリカ人達が受け入れなくなる。
『お前はいつまでも可哀想なホロコーストの生き残りでいろ』
アメリカ人が移民を対等ではなく、下に見て安心したいのを感じる。偉大なるアーリア人、強い大国アメリカ。あまりにリアルなので、思わずラースロー・トートという建築家が実在していたのかと思うほどだが、この作品はフィクション。(え、ここで言う?)

パトロンと芸術家、恩人と移民、プロテスタントとユダヤ教。
しかし強く浮き彫りになったのは、アメリカという国だった。ラースローがハンガリーに帰らず、イスラエルを選ぶのは、やはりそこがユダヤ人ということなのだろうか。
アカデミー賞主演女優賞は
マイキー・マディソン

監督:ショーン・ベイカー
製作国:アメリカ
時間:139分
好きだなぁ、こーゆー体張って演技される俳優さん。アカデミー賞でめちゃくちゃ賞獲りましたね『アノーラ』アノーラ役のマイキー・マディソンがやっぱり良かったよね。確かに露出も多めだし、セックスしてるシーンは沢山あるけど、あんなんガキ超えて猿やろレベルの描写なんで、1つもエロくないです。喘いでますが、ありゃアニー(アノーラの事)の演技でしょう。あ、キレてないですよ。
まずはシンデレラストーリー
のっけからセックスワーカーの表裏を赤裸々に見せられるので、楽しい。性を売りにして媚びてるようで、裏ではキモいおやじだと客の悪口言わないと、やはり心のバランスは保てないものだ。そんな時、若くて金払いの良いロシア人イヴァン(マルク・エイデルシュテイン)の相手をする事で、運命が変わる。

親が富豪で自分では何も生み出してないくせに、彼はゲームとパーティが人生の全て。

でも親に反抗して、大人として見て欲しい気もしている。それをアニーによって実行してみたのだろう。期間限定で契約彼女生活がスタートする。しかし、アニーにしたら良い迷惑。リッチなイケメンがベガスでプロポーズ。本気にしちゃうじゃん、だって、女の子だもん(アタックNo.1)このイヴァン役のマイク・エイデルシュテインが、ティミーを幼くしたみたいで好みではある(好みなんかい)が、なんせ筋肉が無いのはおととい来やがれである。

シンデレラストーリーの先へようこそ
体同様、精神的にも経済的にもお子ちゃまのイヴァンが逃げ出した時、お目付け役のトロスとガルニク、イゴール(ユーリー・ボリソフ)そしてアニーの珍道中は楽しくて、何度も吹き出した。そんなひと時も、イヴァンとの再会からはひたすらに悲しく切ないものとなる。アニーが浴びせられる言葉は、自分が言われたようでチクリと刺さるが、イゴールの思いやりとアニーが思い切り言い返した言葉に、少しだけスッキリ。エスコートガールのアニーは、どうしても性的な敷居が低くなっている。

語りたいラストシーンが秀逸
雪が車に降り積もる事で、外から目隠しになりながらのシーン。この作品の中でも1番色気とエロさがあった。だからと言って決して下品じゃない。何故だかまるで初めてのように見え、1番素敵な濡れ場だったと思う。それは処女喪失のような痛みと苦しみの先に、新しい事が見えるようだった。本当なら、イヴァンに殴りかかりたかったんだろうな。あの時アノーラに受け止めてくれる相手がいて、本当に救われた。
音楽無しで始まるエンドロールも凄く良いし、私はもう涙が止まらなくなってしまった。
