2023年に観た映画(40) 「ゴジラ-1.0」
ゴジラの咆哮に魂震えた前作から7年。東宝さんがこのキラーコンテンツをいつまでも遊ばせておく訳がない。そして日本映画界におけるVFXの第一人者でもある山崎貴監督のゴジラ映画への登板は、ある意味今の時代の“エース”登場とも言えます。
私がこれまで劇場で観賞した山崎監督作品は最新作を含め計5本。それまでの彼の作品を一言で表すと、「卒がない」という言葉が一番ピッタリくる。どの作品も手堅く仕立て上げていて、観に行ってそこそこの満足感を得られる一方で、心に残る作品かというと少々微妙・・・そんな印象です。
「Returner リターナー」(2002年)
山崎貴監督第2作。人類滅亡の歴史を書き換えるために未来からやってきた少女と凄腕の裏社会の仕事人が、悪に立ち向かう痛快SFアクション。タイトル通り、いろんなものをリターンさせるお話。
小学校の図書館に置いてあったジュブナイル系のSF小説。作者も作品名も覚えていないけれど、その筋書きとワクワクしながら読み耽った記憶だけが残っている。この作品の世界観はそんな感じ。小学校の視聴覚室とかで観賞したら、ずっと心に残りそうな。
筒井康隆にターミネーターにマトリックスにE.T.にと、どこかで読んだり観たりしたようなモチーフだったりシーンだったりキャラクターだったりがふんだんに登場するにもかかわらず、それを微笑ましく受け入れる事が出来るのは、話の展開やアクション・シーンが小気味良くてちゃんと楽しめるから。岸谷五朗さんのキレたボス役も堂に入っている。時をかけると佳作が生まれるという、日本のタイム・リープ物のクオリティの高さを本作も証明しているのだ。
これまで観た山崎監督作品の中で一番好きかも。「ゴジラ-1.0」を鑑賞後、20年振りに観返して改めてそう思いました。
「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)
「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(2008年)
先日観たBSの番組で、山崎監督は本作を担当するのが「嫌で嫌でしょうがなかった」と語っていらした(笑)。でも本シリーズの大成功で山崎監督の名前は世に知れ渡る事となりました。
東京下町の住人達が織りなす人情味溢れるエピソードの積み重ね。これを現代劇でやってしまうと何も心の琴線に触れないような気がするのですが、何故昭和33年だと許せてしまうのか・・・・?
何か昔を懐かしむ人の性(さが)のようなものを巧みに利用しているようで、何となく釈然としない気もしつつ、やっぱり良く出来ているなと感心もするし号泣もする。堀北真希ちゃんの素朴で優等生な演技が光っていました。
続編も、ハートウォーミングな人間ドラマがレトロな時代に繰り広げられることで、その世代以降の人が観てもどこか憧れにも似た情景に引き込まれてしまう。
落語の古典の如きオーソドックスな人情話の一つ一つとそれを演じる役者の存在感と共に、どちらの作品においてもVFX(Visual Effects)技術の貢献度合いが半端ない。あざとくなく自然に、ちゃんと脇役として立場を弁えていながらもアピールを忘れず。山崎貴監督及び白組の手腕を感じます。
テレビのスイッチを入れたらいきなり力道山が空手チョップを見舞っているといったシーン(普通そこから観始めるか?)もあったりして、東京湾から上陸したゴジラの前を電車が走っているようなケースと同様、その浅はかなる演出にテンションが下がったりもしましたが、全体を通じその真面目な人情劇に、笑って涙もしました。
続編で個人的に出色だと感じたのがオープニングとエンディング(エンドロール含め)。1作目があまりにベタな導入シーンを展開したのに比べ、「こうきたか東宝!」的なオープニングと、東京タワーからの夕日のシーンと郷愁をそそる8mmカメラ撮影風のエンドロール。遊び心とその演出の上手さに唸らされました。当時山崎監督はこのオープニングの製作過程で、「(「ゴジラ」映画は)まだその時期じゃない」事を悟ったそうです。
三部作の最後、3D作品だった「ALWAYS 三丁目の夕日'64」は観逃してしまった。ちょっと後悔。
「SPACE BATTLESHIP ヤマト」(2011年)
2011年の元旦に観た本作。
TVシリーズと劇場版「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」までの物語、つまりはアニメ版が最も光り輝いていた頃の2作品をベースに実写化した本作品。いたるところにアニメ版の名台詞がちりばめられています。
ただ残念ながら、TVシリーズの地球救済劇と「さらば~」の自己犠牲の精神とを上手くひとつに纏めた・・・とはいきませんでした。
監督がそれまでで最も"壮大なシーン"の演出に迫られた筈の本作ですが、ややもすると"ちゃち"な印象を拭えない。戦闘シーンしかり、艦内のやりとりしかり、地球防衛軍の記者会見のシーンしかり・・・エキストラの人数も足りてない?
アニメでは1年≒2クール掛けて再び地球に戻ってきたからこそファンの涙を誘ったであろう沖田艦長の台詞も、TVシリーズを生き抜いた後の再出撃の中で散り行く戦友が発した惜別の台詞も、どれもこれもスベッた感を拭えない。原作をリスペクトしているからこそ大事に再利用してくれた事自体は正解の筈ですが、138分の本作品の中にちゃんと根付かせる事が出来ていません。古代と森雪との関係含め、クルー同士の人間模様を実写として描ききれなかったのが悔やまれます。
木村拓也は、彼のダンディズムが新たな魅力を持った古代進像を生み出していて(←キムタク贔屓)、彼が波動砲を発射するお姿はとても凛々しかった。
一方で森雪は・・・残念でなりません。沢尻エリカ嬢がこの役に抜擢されたと聞いた時は、これ以上相応しい女優さんはいないと思った私です。彼女がその気になれば、スキャンダルなど吹き飛ばす可憐な森雪像を演じる事が出来た筈。それが事務所とのトラブルで流れてしまい、黒木メイサさんに変更になったのは、返す返すも残念。他のキャラクターにはあれだけ原作そっくりに演じる役者さんを配する事にこだわっていながら(真田役の柳葉さんなんて瓜二つ)、何故黒木メイサだったのか(峰不二子役はドンピシャだったんですけどね)。
という訳で、頑張りは認めるものの、本作では"卒のなさ"も少々綻んだ結果、満足度は中の下に終わりました(一緒に観に行った娘(当時8歳)はラスト号泣してました)。
「ALWAYS 続・三丁目の夕日」でチャレンジし、まだその時期ではないと一度は封印した山崎監督が、満を持して挑んだ本作。「そっち系の映画監督として、ゴジラは本丸のひとつ。いつかは手掛けてみたいもの」とも語っていらっしゃいました。
怪獣映画と人間ドラマの両立がこの手の作品の重要成功要因ですが、本作において山崎監督はゴジラを主役の座から降ろしてしまったかの如く、特攻帰りの敷島(神木隆之介)に重たい十字架を背負わせた上で、彼が過ごす3年間を描き続ける。今回ゴジラは敷島にとっての復讐の産物でしかない。
関東一円が焦土と化した終戦直後から僅か2年での復興の様子は、敷島家の様子からしか窺い知ることが出来ないし、ゴジラの出演シーンが限られる中で奴が蹂躙する街並みの描写も非常に限定的。
結果ゴジラが街を破壊する事で得られるカタルシスを、私は十分に感じることが出来なかった(どうしても前作と比較しちゃいます)。
そして第一作へのオマージュなのは分かりますが、この非常時にゴジラの目の前を電車が走っていたりとかするのは、「ALWAYS 三丁目の夕日」でTVを点けたら力道山が空手チョップを見舞っているシーンと同じくらいリアリティに欠けていて、少々興覚めです。
とはいえ、VFXを駆使した映像のダイナミズムとゴジラの迫力は、もはや着ぐるみと特撮には戻れない“進化”を感じます。ゴジラ映画を撮る上での最難題事項でもある筈の「ゴジラ殲滅作戦」も、前作の“歯医者さん作戦”よりは理に適っている気がする。色々と突っ込みたい箇所はあるものの、この作品でのゴジラとの向き合い方や落とし処(結末)は、さすが山崎監督といった感じ。国を挙げてのゴジラ退治ではなく、先の大戦を生き延びた者達による、祖国を守るもう一つの戦い。その相手となったゴジラに対し果敢に挑む姿は、どこか懐かしくもオーソドックスな、少年ジャンプの「友情・努力・勝利」の方程式のようでもあります。
本作の出来には監督ご自身かなりの手応えを感じていらっしゃる様子。日に日にリピート意欲が高まってもいます。たしかに凄まじいまでの真っ当さを感じた。ただ驚きはなかった。
数年後には再び製作されるであろう昭和のキャラクターを用いた東宝怪獣映画。時代と共に歩む大変さも伺い知れますが、その商品価値は作り手次第でまだまだ健在な気がしました。
№40
日付:2023/11/6
タイトル:ゴジラ-1.0
監督・脚本:山崎貴
劇場名:シネプレックス平塚 screen7
パンフレット:あり(¥1,100)
評価:6
<CONTENTS>
・ストーリー
・インタビュー 神木隆之介
・インタビュー 浜辺美波
・インタビュー 山田裕貴
・インタビュー 青木崇高
・インタビュー 吉岡秀隆
・インタビュー 安藤サクラ
・インタビュー 佐々木蔵之介
・インタビュー 飯田基祐
・インタビュー 田中美央
・山崎貴監督インタビュー1
・ゴジラ映画史
・ゴジラ造形の歴史
・ゴジラ襲来ポイント
・山崎貴監督インタビュー2
・山崎監督によるゴジラデザイン画
・プロダクション・ノート
・VFXディレクター 渋谷紀世子インタビュー
・VFXメイキング
・音楽 佐藤直紀インタビュー
・スタッフ・プロフィール
・クレジット
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投稿を表示「結果ゴジラが街を破壊する事で得られるカタルシスを、私は十分に感じることが出来なかった」。このコメントに大いに同感。怖いゴジラはOKでしたが、もっと東京を、そして日本をぶっ壊して欲しかったです。銀座を襲い、私の学生時代まではあった懐かしの「日劇」を壊すシーンは良かったですね(某ベテラン俳優も瞬間、映りますし)。
でも、物語の軸となる人間ドラマは「戦争」「敗戦後」のニオイを大きく漂わせながらも何だか薄っぺらくてペンペラ、ちょいとねぇ・・・何の事前情報も無く見た為、NHK朝の連ドラ「らんまん」を見終わったばかりの私としては神木隆之介と浜辺美波のカップルに「え、またかょ~」と、まぁ、ビックリいたしやした。
最後、ゴジラが海の藻屑として消えて行く時に、戦った男達が艦上から揃って“敬礼”するじゃないですか?あれは何に対しての「敬礼」なんでしょうか。私には「ただの雰囲気カット、敬礼した方がカッコウつくし、てぇ事で・・・」としか思えませんでした。伝わるものが無かったもので・・・私がアタマ悪いからなんでしょうね・・・ムムム、残念。
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