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私の好きな映画

じゅーん バッジ画像
2024/04/05 00:13

オッペンハイマーの言う「破壊者」とは

我は死なり、世界の破壊者なり

第96回アカデミー賞受賞

作品賞・作曲賞・撮影賞・編集賞

監督賞:クリストファー・ノーラン

主演男優賞:キリアン・マーフィー

助演男優賞:ロバート・ダウニー・Jr

上映時間:180分

 

ープロメテウスは人類に火を与えた事で、死ぬまで拷問され続けたー


オッペンハイマーの伝記ではあるが…


ストーリーとしては、時系列バラバラ方式を採用しているが、それほど難しくはない。ただ、人の名前が多く、登場の出入りも激しいので、パンフレットの購入は必須。簡単に言えば、物理学者が研究を兵器に利用される事で、政治的にも巻き込まれて行く様と、原爆投下後に想像以上の後悔と良心の呵責に苛まれる、人間ドラマ。


男同士の嫉妬と確執


興味深いのは、ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)の執念深い嫉妬による、オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)との確執を主軸に置いている点だ。しかもストローズは学者ではない。「卑しい靴のセールスマン」と言われてプライドでも傷ついたか。初対面から空回り。

戦後アカ狩り、いわゆるソ連のスパイを探す言葉だが、そこに目を付けオッペンハイマーを吊し上げる事に成功。公聴会のその裏側で画策する策士を、見事にロバート・ダウニー・Jrは演じている。

映像ではカラーとモノクロを使い分け、この仕組まれたアカ狩り公聴会はモノクロ、他はカラーで描いていた。


彼を取り巻くのは科学だけではない


またオッペンハイマーの人間らしさとして、女性遍歴が側面として描かれていたのも面白い。

メンヘラ爆発のジーン(フローレンス・ピュー)とは、お互いマッパ(真っ裸)で椅子に座って話したり、聴聞会ではこれまた裸のおピューが嫁キティ(エミリーブラント)の妄想として登場していた。体を張るおピュー、素晴らしい。


原爆と政治に翻弄されていく


そして、原爆を作り出していく様は、時系列そのままで描いてくれたので、非常に感情が乗っかっていく。当時ドイツでは、ヒトラーがユダヤ人を迫害しており、それはアインシュタインも例外ではなく、彼は国を捨てアメリカへ渡っていた。実は物理学って、ドイツが先端を行っていたんですねぇ。このままじゃ、ドイツが先に原爆を作ってしまう!と焦るオッペンハイマー達。陸軍グローヴスから「マンハッタン計画」を打診され、街ごと作ってガンガン優秀な科学者を集めて、見事に作り出すのです。大量殺戮兵器を。しかし既にヒトラーは自殺し降伏。ドイツに原爆を投下する必要もなく、学者達の間でも不必要な兵器の製作に疑問の声が沸く。この時のオッペンハイマーは、科学者の顔ではなく政治家の顔になっていたのかもしれない。「日本に使う」

いくつかあるターニングポイント。彼がルビコンを渡ってしまったのはどこなのだろう?

当時の日本なんて、放っておいても降伏せざるを得ない状況のはず。しかし、アメリカは何故か降伏してこない日本が恐ろしかったし、パールハーバーの屈辱が国中に渦巻いていた。私たちも今、イスラム(IS)の自爆テロを見ると理解出来ず、ひたすらに恐ろしさを感じるが、きっとそれをアメリカ人は、当時の日本人達に見たのではないだろうか。

強大でリスクの大きい科学技術の暗喩として用いられる、冒頭のプロメテウスのギリシャ神話。これが後半のオッペンハイマーと重なっていく。原爆を投下し、広島と長崎の様子を目の当たりにしてからのオッペンハイマーは、ひたすらに苦悩し、その後研究を進めるよう言われた水爆は反対派に転じる。


破壊したものは


アインシュタインとの会話。原爆を使用すると空気中での連鎖反応で、日本だけでなく世界を破壊するのではないかと不安を口にする。しかし、実際には起きなかった。でも彼はその戦い方を変えた。結局は核を使う事を人類に教えてしまい、世界の破壊者となった事には変わりなかったのだ。

科学の進歩と共に、倫理観についても議論されるべきだろうと思う。クローンなどもそうだが、神の領域とされるものは特に。

あの時日本に欲しかった、戦争をやめる勇気。

アメリカに欲しかった、原爆を使わない勇気。

お金も倫理観も宗教も、何もかも戦争を止められない現実が、今もある事が悲しい。

 

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3 件の返信 (新着順)
LOQ
2024/04/06 14:49

すみません、小舅的指摘ですが、

モノクロなのは、赤狩り公聴会ではなく、
ルイス・ストローズがアイゼンハワー大統領から商務長官に指名されて、議会の公聴会です。
オッペンハイマーが国家機密に触れる資格を赤狩りで問われるシーンはカラーだったと記憶してます。
立場が変わり、モノクロシーンで資格を問われるのはルイス・ストローズのほうで、デヴィッド・ヒル( ラミ・レミック )にかつての悪事を暴露されます。

でもほんとややこしいんだからこの映画。(笑)
話がこんがらがってきますよね。 ( ^^


じゅーん バッジ画像
2024/04/07 08:41

ストローズ目線が全てモノクロという解釈になる、でいいですかね?オッピーが赤狩りで問われた所を聴聞会と思っていて、そこはカラーでしたよね。私の頭の中では一応区別出来ていますが、そこを文章にするのが出来ていませんね笑
ご指摘ありがとうございます😊
今回はノーラン作品として、そこまでややこしくはなかったので、非常に分かりやすい部類かと思いました!

はじめ バッジ画像
2024/04/06 11:09

じゅんさんが『破壊』に対する言及もすごく考えられますね。僕は『分裂』に着目しましたね。様々な人の捉え方が見れて、まだ頭のどこかで考えています。笑


じゅーん バッジ画像
2024/04/06 11:49

どの人のレビューやコラムを読んでも、ネタバレには当たらず。いつもなら観る前には薄目になる皆さんの投稿を、じっくり読んでから観に行くという、異例の作品でした!人それぞれ着目点や感じ方が、被爆国日本人でも違うので、これが世界の人なら更に違うのだろうと思いましたね。それも含めて受賞作品、意味がある素晴らしい作品でしたねー!

かこ
2024/04/05 08:05

じゅんちゃんの記事待ってたよ👍✨


じゅーん バッジ画像
2024/04/05 08:58

ありがとう😊
これはこんな文章でも残しておかないと、と思っちゃう映画だったよ。