イギリス人のアレックス・ガーランド監督による現代アメリカの黙示録『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
■シビル・ウォー アメリカ最後の日
《作品データ》
『エクス・マキナ』や『MEN 同じ顔の男たち』を手掛けたアレックス・ガーランド監督最新作は現代のアメリカを舞台に、アメリカ19州の米連邦政府離脱後の国内の内戦を描いたディストピアアクション!ベテラン戦場カメラマンのリーと記者のジョエルはカオスと化したニューヨークの街中で出会い、14か月間メディアの取材に応じていないホワイトハウスの大統領に直撃インタビューを行うべく、老記者のサミーと写真家のジェシーを連れて、ワシントンDCへ。しかし、州道が寸断されているため、ピッツバーグからウェストバージニア州へ、シャーロッツビル経由で迂回して、1400kmの旅をすることに。リー役をキルスティン・ダンスト、ジェシー役を『プリシラ』のケイリー・スピーニーが演じ、他ヴァグネル・モウラ、スティーヴン・ヘンダーソン、ニック・オファーマン、ソノヤ・ミズノ、ジェシー・プレモンスが出演。
・2024年10月4日(金)より、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー!【PG12】
・上映時間:109分
・配給:ハピネットファントム・スタジオ
【スタッフ】
監督・脚本:アレックス・ガーランド
【キャスト】
キルスティン・ダンスト、ケイリー・スピーニー、ヴァグネル・モウラ、スティーヴン・ヘンダーソン、ニック・オファーマン、ソノヤ・ミズノ、ジェシー・プレモンス
原題:Civil War/製作国:イギリス、アメリカ/製作年:2024年
公式HP: https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/
〈『シビル・ウォー アメリカ最後の日』レビュー〉
『エクス・マキナ』や『MEN 同じ顔の男たち』で斬新で奇妙なスリラー、ディストピアを見せてきたアレックス・ガーランド監督の最新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。フィクションでありながら、非常に生々しい戦場カメラマン目線で
内戦を現代戦場映画&ロードムービーの手法で描いた戦場映画である!
これまでにもアメリカ映画において、ローランド・エメリッヒ監督作品の『ホワイトハウス・ダウン』やアーロン・エッカート主演作品の『世界侵略:ロサンゼルス決戦』等でフィクションながら「戦場状態のアメリカ」を舞台にしたアクション映画というのはあったが、本作はこれらとはちょっと違う。いわゆるフィクションでのアメリカ合衆国で起きた内戦を取材する戦場ジャーナリスト達らをメインキャラとした映画であり、彼らの見聞録を、ロードムービーの手法とブライアン・デ・パルマ監作品『リダクテッド 真実の価値』やキャスリン・ビグロー監督作品『ハートロッカー』のような2000年以降の戦場映画のテイストを絶妙にブレンドした新感覚の戦場映画である。しかも、銃弾飛び交う中を取材する戦場カメラマン&ジャーナリストの目線で、彼らの命がけっぷりは見ていてヒリヒリし、それが各戦闘シーンの度に起こるので面白い。至近距離での戦いは『ハートロッカー』や『アメリカン・スナイパー』で見られるような静寂と激しい戦闘を交互に絡めた緊迫感あふれる戦闘シーンになっているので、フィクション作品ながら『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はこれら戦場映画に匹敵する作りになっている。
また、中継地のピッツバーグ、ウェストバージニア、シャーロッツビルにおける戦闘数日後の雰囲気は、かつてアレックス・ガーランド監督が脚本を手掛けた『28日後…』の雰囲気、香りに近いものがある。基本的に静寂に包まれ、一部破戒された施設やゴロゴロ転がる屍体の中での現在進行の緊迫がある恐怖はまさしく『28日後…』の応用と言えよう。
ロードムービーの手法について詳しく触れると、ニューヨークからワシントンDCまでの道程をピッツバーグからウェストバージニア、シャーロッツビルという迂回ルートで回り、これらの地における出来事を「アメリカで起こっている内戦の風景」として見せる。このやり方はヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』や『ランド・オブ・プレンティ』で見せたアメリカの風景やジム・ジャームッシュ監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』において現代のデトロイトの様子を見せるなど、こうした名匠達の手法を応用し、これをさらに血生臭く、グロ描写にも容赦ない演出で見せる。
本作のジャーナリストのチームらによる戦争・戦場の当事者でも被害者でもない取材サイドの目線はアレックス・ガーランド監督によるイギリス人、且つ(アメリカにとっての)外国人目線のアメリカであり、そこがドイツ人目線でアメリカを舞台にしたロードムービーを作り上げたヴィム・ヴェンダース監督に通じるものがある。
これらにシルバー・アップルズの「Love fingers」や70年代ニューウェーブのスーサイドの「Roket USA」と「Dream Baby Dream」、中盤の山道のシーンでの80年代ヘア・メタルのスキッド・ロウの「Sweet Little Sister」といった様々なジャンルのポップスをセレクトした絶妙な音楽センスと、『パットン大戦車軍団』や『國民の創生』、『駅馬車』のオマージュといったような映画マニアをニヤつかせる演出など細部まで見逃せない。アレックス・ガーランド監督は『エクス・マキナ』や『MEN 同じ顔の男たち』とは全く違うジャンルながら、新たなるディストピアを作り上げた。