My Favorite Woody Allen PART2
2010年以降の作品は欠かさず観ていますが、何しろ基本ミニシアター系でしか上映されないのと、あまりパッとしない邦題なので、アレン監督作品だと気付かずに観逃がしてしまいそうになる事もしばしば。いっそのこと必ず邦題のアタマに「ウディ・アレンの~」と付けてくれたらと思っちゃいます。
多作でありながらも佳作を輩出し続ける最近の作品から、お気に入り3本をご紹介します。
④恋のロンドン狂騒曲(2012年)
「ミッドナイト・イン・パリ」がオスカーにノミネートされたおかげでしょうか(作品賞を含む4部門にノミネートされ、オリジナル脚本賞を受賞)。前年に製作され日本未公開だったこちらの作品も後追いで同じ年に公開。
ロンドンを舞台にした作品は「タロットカード殺人事件 」も面白かった。そして本作品もアレン節満開の小気味よい佳作。私的には、こちらこそオスカー各賞にノミネートされてもよさそうなものなのにと思ってしまいました。
老夫婦(アンソニー・ホプキンス&ジェマ・ジョーンズ)に訪れた突然の破局に始まる、その娘夫婦(ジョシュ・ブローリン&ナオミ・ワッツ)も巻き込んだ4者4様の人間模様。監督の鋭い洞察力に裏打ちされた人物設定の下、軽妙洒脱を装いながら最後には呻らされるような展開に、これぞ映画、さすがウディ・アレンと膝を打つ。平易な会話劇は日本人にも優しく、ジョークも切れてる。
この作品の入り口と出口に登場する「マクベス」の台詞と「星に願いを」の調べが、白日夢の始まりと終わりを告げる合図のようでもありました。
⑤ブルージャスミン(2014年)
第86回アカデミー賞において3部門(主演女優、助演女優、脚本)にノミネートされ、主人公ジャスミン役のケイト・ブランシェットがオスカーを受賞した本作。アレン監督が描く世界の愛すべき住人達がいつも以上にありふれた男女の色恋沙汰を展開する中で、セレブな生活が破綻した現実を受け入れられずひとり異邦人の如く抗う姿を異次元のテンションで熱演。
全てを失い崩壊気味のジャスミンが得た起死回生のチャンス。目の前に降りてきた蜘蛛の糸にしがみつく彼女を待ち受ける現実と、そんな予定調和の裏にアレン監督が用意していた真実。
ウディ・アレン監督作品を観ると、決まってある種の余韻が残り続ける。好きな作家の作品を読み終えた後の感覚に似ている。実際彼の作品は常に文字通りいつも通りのフォントで始まり、いつも通りの文体で終わる。たまたま彼にとってベストな表現手段が"映画"だった為、タイプを打ち込むのに比べれば色々と面倒くさい完成までの一連の作業を極々シンプルに済ませるプロセスを確立し、創作活動への支障を極力減らしているのではなかろうか。その結果、極めて作家性の高い作品が継続して発表されるという好循環を生み出しているようにも思える。
そしてこの監督がこれだけ多作でいられるもう一つの理由は、その題材が市井の人間模様、それも色恋模様にある事が大きい。今回も愚かな人間の営みを程好い距離感と愛ある視線でどこかシリアスに、それでいてコミカルに、そしてシニカルに描いていた。
ノーベル文学賞ってのがもう少しその対象範囲を広げてくれたなら、映画界初の栄誉に輝くのはこの人しかいないと、そんな気にもさせてくれました(本人絶対ストックホルムになんか行かないだろうけど)。
③レイニーデイ・イン・ニューヨーク(2020年)
ウディ・アレン監督が久し振りに地元で撮った本作は、地方大学のミス・キャンパスを連れ立ってニューヨークに戻った主人公ギャツビーが、自分探しをするプチ・ロードムービー的作品。恋人に振り回されながら雨のニューヨークを巡る展開は「ミッドナイト・イン・パリ」の主人公のようでもあり、それだけでも楽しめる。
アレン節ともいえるシニカルな会話劇はどの作品にも共通していながら、「ブルージャスミン」や「男と女の観覧車」のように救いようのない人間模様の作品もあれば、「世界中がアイ・ラヴ・ユー」や「マジック・イン・ムーンライト」のようなロマンティックなお伽話的作品もある。本作は後者に属します。でもって断然こっちの方が好みです。
頭脳明晰な成金一家のボンボンでありながら、母親の敷いたレールに反発するやや神経質そうな青年役をティモシー・シャラメがいい味出して好演。彼女の恋人、アリゾナ出身の美人大学生(エル・ファニング)は、訪問先で映画関係者(監督、脚本家、人気男優)に次々と色目を使われる役回り。
つまりは、場所も業界もアレン監督が熟知したホームタウン中のホームのお話。これが面白くない訳がない。
後味の良い作品・・・だったのですが、本作がアレン監督の過去の養女への性的虐待疑惑の再燃を理由に全米での公開が中止になってしまった。養女ディラン・ファロー自身の告発を機に、出演者グリフィン・ニューマン(ギャツビーの前の大学の友人で学生映画監督のチョイ役で出演)やレベッカ・ホール(脚本家の妻役)が本作出演への後悔と今後のアレン監督との絶縁を宣言し、ギャラを寄付。主役のティモシー・シャラメ、恋人役のエル・ファニング、セレーナ・ゴメスも出演への後悔の念やTime's Up基金への寄付といった行動に走ってもいました。
そんな騒動も影響したのか、2020年に製作された「サン・セバスチャンへ、ようこそ」の日本公開は今頃になってしまった。長年にわたって年1本ペースで作品を撮り続けてきたウディ・アレン監督ですが、最近はそれも叶わず。御年88歳の彼の新作をあと何本観ることが出来るのか、ファンとしてはヤキモキしてしまいます。