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2025/04/25 16:40

懐古 アメリカ映画の「1973年」

昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。

 

「1960年」を初回に、前回「1972年」まで13回にわたって当時の名作に触れてきた。  

今回は、オカルト・ブームの火付け役となった「エクソシスト」や、ノスタルジー・ブームを呼び起こした「スティング」が登場した「1973年」(昭和48年)の話題作をご紹介したい。

 

 

「スティング」 監督:ジョージ・ロイ・ヒル

 

30年代のシカゴを舞台に、ギャングの大親分を詐欺師軍団があの手この手で騙し抜く痛快コメディ。この年のアカデミー賞・作品賞を受賞した。

シカゴの下町を根城に、ケチな詐欺をはたらいていたフッカー(ロバート・レッドフォード)ら3人組のチンピラは、大組織の手下と知らず一人の男をカモって大金を手にする。怒った組織はリーダー格のルーサー(ロバート・アール・ジョーンズ)を殺害した。殺害犯がニューヨークの大親分ロネガン(ロバート・ショー)の手下だと知ると、フッカーは詐欺師のゴンドーフ(ポール・ニューマン)の元に身を寄せ、ロネガンへの復讐を誓う。ゴンドーフは昔の詐欺仲間を集め、競馬のインチキ・ノミ屋を開いてロネガンを待ち受けるのだが...。

 

本作は「明日に向って撃て!」(69年)のジョージ・ロイ・ヒル監督が、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの主演コンビと再び組んだ傑作だ。

 

ストーリーは7プロット(しかもクラシカル)で構成され、時代考証に優れた衣装デザインや音楽など、古き良き時代の雰囲気に満ちている。

 

何にも増して、ラストの鮮やかな ‘どんでん返し’ 、この映画は観客に、 ‘騙されることの快感’ を教えてくれた。

 


 

「エクソシスト」 監督:ウィリアム・フリードキン

 

悪魔に取り憑かれた12歳の少女と、悪魔祓い師の神父の壮絶な闘いを描き、オカルト映画ブームの火付け役となった恐怖映画。

人気女優クリス(エレン・バースティン)はワシントンでの映画撮影のために、12歳の娘リーガン(リンダ・ブレア)とともにロケ現場近くに家を借りていた。ところが、この家は夜になると屋根裏から奇妙な物音が聞こえ、リーガンはベッドが揺れると訴える。更にリーガンは悪魔に取り憑かれたように、想像を絶する言動を繰り返す。やがて、古生物学者でありカトリックの神学者でもあるメリン神父(マックス・フォン・シドー)が、悪魔祓い師として悪魔と対決するのだが...。

 

まるで地獄絵図だ。

リーガンの首が360度回ったり、苔のはえた長い舌を蛇のように出し入れする。十字架を自分の股間に突き立てる。さらに罵声や隠語の数々といった想像を絶する言動や形相など、ショッキングな描写の連続である。

 

リンダ・ブレアが発する隠語や、獣のような恐ろしい声は、彼女本人ではなく、「オール・ザ・キングスメン」(49年)でアカデミー助演女優賞を受賞したマーセデス・マケンブリッジである。

上述以外の出演者は、リー・J・コッブジェイスン・ミラーバートン・ヘイマン等。

 

レビュー広場にも記したが、実際に起きた奇妙な出来事、不幸な出来事について。
①本作の撮影が始まると早々に、マックス・フォン・シドーの兄弟、そしてリンダ・ブレアの祖父が 

 死亡している。
②カラス神父を演じたジェイスン・ミラーの息子がバイクにはねられて重傷を負い、エレン・バース

 ティンは背中を痛めた。
③小道具係がジョージタウンの家のセットを建造中に親指を切断した。
④原因不明の出火で上記③の家のセットが夜に全焼、再び建造するために6週間も撮影が中断した。
⑤悪霊・バズズの3メートルの模型が、イラク・ロケのための輸送中に行方不明になり、香港で発見

 された。
これらの出来事はたんなる偶然だったのか、知るのは悪魔か、それとも神のみか。
 


 

「アメリカン・グラフィティ」 監督:ジョージ・ルーカス

 

当時29歳のジョージ・ルーカスが、自らの思い出を重ね合わせて綴った、青春映画の象徴的作品。

1962年の夏、北カリフォルニアの小さな町。高校を卒業した文学青年カート(リチャード・ドレイファス)とスティーヴ(ロン・ハワード)は、東部の大学へ入るため、明日旅立つ予定だ。だがスティーヴは恋人のローリー(シンディ・ウィリアムス)との別れに悩み、カートも自分の将来について不安を感じている。2人は最後の夜を楽しもうと、テリー(チャールズ・マーチン・スミス)、ビッグ・ジョン(ポール・ル・マット)らと共にお気に入りの車を飛ばし、ガールハントへと繰り出した。カーレース、喧嘩、恋人との別れ、それぞれの思いを胸に、やがて旅立ちの朝がやってくるのだが...。

 

時代が60年代初頭という古き良きアメリカの最後の年代に設定され、全編に流れる約40曲のオールディーズもノスタルジックだ。

 

後に「スター・ウォーズ」(77年)で有名になるジョージ・ルーカスの出世作というだけでなく、数多くの無名新人俳優たちをスターにするきっかけとなった記念碑的作品でもある。

上述の俳優のほかに、ボー・ホプキンスハリソン・フォードキャンディ・クラークらが出演、更に、ママス&パパスのジョン・フィリップスの娘、マッケンジー・フィリップスも出演している。

 


 

「燃えよドラゴン」 監督:ロバート・クローズ

 

アメリカと香港の合作映画だが、本欄のアメリカ映画として取り上げた。

ブルース・リー本作の完成後すぐに急逝)の名前を伝説にしたカンフー映画の最高傑作。

少林寺拳法を学ぶ青年リー(ブルース・リー)は、米国情報部から、南シナ海に浮かぶ要塞島で行われる武道トーナメントに出場を要請された。要塞島の支配者ハン(シー・キエン)は、リーの少林寺の先輩だったが、武術を悪用し、しかも島内で麻薬を密造密売しているらしいのだ。リーは一度は断ったが、妹(アンジェラ・マオ)を死に追いやった宿敵オハラ(ロバート・ウォール)がトーナメントに出場すると知り、世界各国の武道家がひしめく要塞島に向かう。島へ向かう帆船で、リーはアメリカから来た武術家ローパー(ジョン・サクソン)や黒人の空手名人ウィリアムス(ジム・ケリー)と知合う。

 

驚異的なアクションと鍛え抜かれた筋肉で一世を風靡したブルース・リーは、32歳の若さで死去した(1940.11.27 ~ 1973.7.20)。 本作が1973年末に日本公開された時点で、既にリーは謎の死を遂げており、ミステリアスな伝説に拍車をかけた。

 

007/ドクター・ノオ」(62年)を彷彿とさせる展開は、007シリーズからの引用であろう。(悪役ドクター・ノオが、ハンの原型で、片手が義手のところも同じ

ハンの1番の手下であるボロ(ボロ・ユン/ヤン・スエ)という筋肉隆々の男が登場するが、そう、彼は日本のテレビ番組「Gメン75/香港編」などに出演していた中国人俳優で、一度みたら忘れられないいかつい顔と、ボディビルで鍛えた肉体が印象的だ。

 

最高の見せ場は何といってもクライマックスで、全面鏡張りの部屋で、リーとハンが死闘を展開する。ここにリーの奇声が組み込まれ、ラロ・シフリンのテーマ曲がミックスされて、最高潮の場面となる。

 


 

「ダラスの熱い日」 監督:デヴィッド・ミラー

 

アメリカ戦後史の最大のミステリー、ケネディ大統領暗殺事件を題材に、謎の真相にドキュメンタリー・タッチで迫った社会派サスペンス。

バージニア州にある元軍人ロバート・フォスター(ロバート・ライアン)の邸宅に、元CIA高官ジェームス・ファーリントン(バート・ランカスター)、テキサスの石油王ハワード・ファーガソン(ウィル・ギア)、そして右翼の退役将校ウィリアム・ハリディ(ジョン・アンダーソン)たちが集まっていた。ケネディ大統領をホワイトハウスから閉め出すには、暗殺しかない、というのが彼らの結論である。同じ頃、コロラド州レッドロックスの谷では、プロの狙撃者たちによるライフル銃の狙撃猛訓練が始まっていたが、彼らには目的は知らされていなかった。一方で、犯人として仕立て上げられるために用意されたのが、リー・ハーヴェイ・オズワルド元海兵隊員(ジェームス・マッコール)だったが...

 

1963年11月22日、晴天の午後、テキサス州ダラスの街は陽光あふれていた。
大統領を一目見ようと、パレード・コースを埋める群衆。
魔の三角形にパレードが進んんだ瞬間、白昼を切り裂く銃弾の音が響き渡る...

 

多くの白黒実写フィルムと、現在進行形のカラー映像との組み合わせも効果的であるし、ランディ・エデルマンの郷愁を誘うテーマ音楽も歴史を感じさせる。


ラストシーンに意味深なセリフがある。
事件から数日後、ロバート・フォスターに掛かってきた電話は、部下のティム(コルビー・チェスター)からのものだった。その電話の内容は、 ‘ジェームスが死んだ...心臓発作で。パークランド病院でだ...’
ジェームス...バート・ランカスター扮したジェームス・ファーリントンである。
首謀者4人のうちの主要人物でさえ、闇に葬られたのか...誰の手によって?...
そう感じざるをえないシーンだ。

そしてエンド・クレジットの前に、18人の顔写真とともに字幕が流れる。
その文面は次のとおりである。(そのまま引用)
大統領とオズワルドの死後、3年間に重要証人18人が死んだ。6人は撃たれ、3人は交通事故、2人は自殺、1人はノドを切られ、1人は首に空手チョップ、3人は心不全、2人は自然死。
ロンドン・サンデー・タイムズ専属の某保険計理人の統計では、彼らが’67年2月末までに死亡する確率は、実に10京分の1だったという

 


 

「セルピコ」 監督:シドニー・ルメット

 

警察内部にはびこる腐敗や汚職に敢然と立ち向かう刑事の姿を描いた社会派ドラマ。実話である。

希望と理想に燃えて警察官となったセルピコ(アル・パチーノ)は、同僚たちの収賄やサボタージュなど、日常化されたニューヨーク市警の腐敗を目のあたりにした。麻薬係に転属されたセルピコは、ヒッピー風のスタイルで麻薬の売人や中毒者たちを追い始めるが、どこへ行ってもワイロが飛び交い、それを拒絶するセルピコへの周囲の眼は冷たい。彼は友人を通じて市長に報告するが、取り合ってもらえず、最後の手段として、警察の現実をマスコミに訴える...。

 

アル・パチーノはフランク・セルピコ本人と一緒に数週間を過ごし、下調べを十分行った後、撮影に臨んだという。本作出演時の彼は33歳で、72年「ゴッドファーザー」、74年「ゴッドファーザーPARTⅡ」の間に挟まれたように公開されたのが、本作と「スケアクロウ」である。

映画は実にシンプルな構成で、監督は、社会派ドラマを撮らせたら抜群の切れ味をみせる硬派シドニー・ルメット。映画に不必要と思われる ‘付け足しの演出’ が一切なく、単刀直入にストーリーの核心に突き進んでいく手法がいい。


アル・パチーノ扮するセルピコの存在を際立たせるためか、共演陣はジョン・ランドルフジャック・キーホービフ・マクガイアコーネリア・シャープら、地味な俳優で固めている。
 


 

「追憶」 監督:シドニー・ポラック

 

1930年代から50年代にかけての、学生時代に知り合った1組の男女の愛の軌跡を綴った恋愛ドラマ

大学のキャンパスで知り合った、学生活動家のケイティ(バーブラ・ストライサンド)と優等生のハベル(ロバート・レッドフォード)は、その後は別々の道を歩んでいたが、第二次世界大戦中に再会する。海軍大尉になっていたハベルとケイティは愛の生活を始め、除隊後、2人は結婚した。ハベルはケイティの勧めで創作活動に入り、40年代の終わりにはハリウッドで脚本家として名を上げる。幸福な生活が続き、ケイティは妊娠した。たが、共産主義者への迫害が進むハリウッドで、ハベルは次第に自信を失っていった...。

 

本作は、底辺に「マッカーシズム」(反共産主義に基づく社会運動)という流れがある。紆余曲折の歴史によって生まれた「赤狩り」を、この場でどうこう言うつもりもないが、アメリカという国が生んだ悲劇の一つなのだろうか。
バーブラ・ストライサンド演ずるケイティは、反マッカーシズム運動に力を入れるが、レッドフォード演ずるハベルは、脚本の創作意欲が失せてしまう。
ケイティは別れることによって、ハベルがブラックリストから外されるかもしれないと思い、願う。

 

ファニー・フェイスにして才女のバーブラ・ストライサンド、「ファニー・ガール」(68年)と並び、彼女の代表作といっていい。
いつのアカデミー賞授賞式だったか、素晴らしい歌声で、本作の主題歌「The Way We Were」を歌っていた。

その彼女も83歳である。

 


 

同年の他の作品では、「ダーティ ハリー2」、「さらば冬のかもめ」、「ペーパー・ムーン」、「スケアクロウ」、「ペーパー・チェイス」、そして米仏合作だが「パピヨン」といった作品が思い浮かぶ。

 

次回は「1974年」の名作・傑作を振り返りたい。

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1 件の返信 (新着順)
Stella
2025/04/25 23:55

「パピオン」(ダスティン・ホフマン)いいですね。


趣味は洋画
2025/04/26 22:15

Stella 様

米仏合作だが「パピヨン」...そう書いたのですが、
やはり「仏」という文字は見逃されてませんね。(笑)

‘懐古’ シリーズでアメリカ映画を追っていますが、フランス映画も大好きです。
例えば、シモーヌ・シニョレの「帰らざる夜明け」(71年)はまた再見したい1本ですし、
「悪魔のような女」(55年)は、DISCASさんで新たに取扱いがOPENとなったのですが、
如何せん、在庫枚数がたった1枚なので、果たして観られるかどうか分かりません。

アニー・ジラルドの「パリのめぐり逢い」(67年)に至っては、ずっとDISCASさんの入荷待ちです。
フランシス・レイのメロディーも忘れ難く、当時を偲ばせます。

Stella
2025/04/26 22:29

パリのめぐりあい、入荷まちできるんですか?(でも品薄な作品は、なかなか回らなそうですね。)