親と子の＜心の距離＞を描く衝撃作！ヒュー・ジャックマン主演『The Son／息子』

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その斬新な表現スタイルで初監督作『ファーザー』が絶賛され、第93回アカデミー賞脚色賞を受賞したフロリアン・ゼレール。彼の最新作であり、家族3部作の第2部である『The Son／息子』がいよいよ3月17日（金）に公開されます。

今回は、先行試写にて作品を鑑賞した筆者がひと足早くその見どころをお届け。また、試写会ではフロリアン・ゼレール監督がリモート登壇！その貴重なお話や監督からのメッセージもご紹介します。

映画『The Son／息子』あらすじ

敏腕弁護士として政治家にも頼りにされ、再婚した妻と生まれたばかりの子供と充実した日々を過ごしていたピーター（ヒュー・ジャックマン）。ある日、前妻のケイト（ローラ・ダーン）から同居している17歳の息子ニコラスの様子がおかしいと知らされ、息子からは「父さんと一緒にいたい」と懇願される。息子の願いを聞き入れ一緒に暮らし始めるピーターだったが、息子との心の距離はなかなか埋まらずにいた…。

▪『ファーザー』に次ぐ家族3部作の第2部

初監督作『ファーザー』では認知症とそれを支える家族がテーマとなっており、認知症を患った人の頭の中やその世界の見え方を観客が「体感」する映画として話題になりました。本作はそのファーザーに次ぐ家族3部作の第2部として、監督のフロリアン・ゼレールが自身の戯曲を原作として映画化。完成した脚本に惚れ込んだヒュー・ジャックマンが自ら名乗り出て主演と製作総指揮を務めました。

「メンタルヘルス3部作」とも言われる第2部の今作では、「うつ病」を軸に決して他人事ではない誰にでも起こりうる出来事として、心の問題や家族の在り方について描いています。

▪家族だからこその難しさ

元妻から息子の様子がおかしいと知らされ、息子に会いに行くピーター。そこで「父さんと一緒にいたい」と息子に懇願されたピーターは、戸惑いつつも妻の同意を得て息子のニコラスと一緒に暮らし始めます。

息子を理解し力になりたい。目の前の人生と向き合えるよう背中を押したい。親であればそう思うのは当然のこと。ピーターもそんな思いで息子との新生活をスタートさせますが、その思いは息子には届かず心の距離は離れていくばかり。

SOSを出す息子を助けたいという強い気持ちや愛だけではどうにもならないことがある。この作品は、「心の問題」において時に愛だけでは解決できないことがあることを観る者に突き付けてくるのです。一見厳しいようにも思えますが、心の問題を考える上ではそのことを理解しておく必要があると、この作品は示しているのかもしれません。

▪父親としての苦悩・息子としての苦悩

「なぜ人生に向き合おうとしないのか？」転校したはずの高校に息子が登校していないと知り、ピーターは息子をそう問い詰め、激しい言い争いになります。父親として息子を理解できないことへの苛立ちや怒りを息子にぶつけてしまう。ただ、父親であるピーターは同時に息子でもあり、自らも父親との関係に悩んだ過去があるのです。自分が父親に一番言われたくなかったことを父親になった自分が目の前の息子に言ってしまう…この作品では、養育態度が世代間で継承される「世代間遺伝」についても描かれています。

ピーターの父親を演じたのは前述の「ファーザー」で認知症患者を演じアカデミー賞主演男優賞を受賞した名優アンソニー・ホプキンス。今作でも少ない出演シーンでありながらその演技は印象的でした。

▪ぜレール監督が伝えたかったこと

試写会後にリモート登壇されたフロリアン・ゼレール監督。この作品で描かれているような心の問題には必ずと言っていいほど羞恥心や罪悪感、無知が伴い、それらの感情が邪魔して重要な問題をオープンに語る機会が失われているとおっしゃっていました。そして、身体的な疾患と同様に語られるべきことであるとも。

心の問題は決して他人事ではなく、誰にでも起こりうる出来事なのです。この作品が、メンタルヘルスの問題を他人事ではなく自分事として捉え、困難な状況にどう対処していくべきかを考えるきっかけになることを期待していると監督は言います。この監督のお話は、普段心理士として働く筆者としても非常に共感できる内容であり、ゼレール監督の強い思いが伝わり胸が熱くなりました。