DISCASレビュー

かずぽん
2025/05/12 09:32

はだかの女王


【ジョセフィン・ベイカーのちりめんビブラートが耳に心地よい】

 

(1934年・仏・92分・モノクロ)
監督:マルク・アレグレ
原題:ZOUZOU

本作を観るきっかけは、紹介文に「ジャン・ギャバンとジョセフィン・ベイカ―が共演したミュージカル」とあったからだ。ジャン・ギャバンがミュージカル?と新鮮な驚き。
彼の父はミュージック・ホールの役者で、母は歌手だったので、ギャバンはそのような環境の中で自然に歌や芝居を覚えていったようだ。
本作の主役はジョセフィン・ベイカ―で、彼女はセントルイス出身のジャズ歌手で女優。ダンサーとしても一流だったようだ。


孤児の女の子ズーズーは、やはり孤児の男の子ジャンと共に、サーカス「シルク・ロマリン」のオーナーであるパパ・メレ(ピエール・ラルケイ)に育てられた。ズーズーは道化師カカオの娘、ジャンはメレの朋輩(ほうばい)の子だったが、二人は兄妹として育てられ、サーカスでは双子として紹介されていた。
 
場面は変わって、成長した二人。ジャン(ジャン・ギャバン)は子供の頃の夢が叶って船乗りになり、ズーズー(ジョセフィン・ベイカ―)はサーカスで失敗したメレと一緒にトゥーロンで暮らしていた。そして除隊したジャンと一緒に一家はパリに引っ越しする。
パリでは、ズーズーは未亡人ヴァレの洗濯屋で働き、ジャンはミュージックホールの舞台の照明係として働く。そのミュージックホールには、バーバラ(イラ・メエリー)という主役女優がいたが、バーバラは恋人と駆け落ちしてしまい、舞台に穴をあける。ひょんなことからズーズーの才能が見いだされることになるのだが・・・

ズーズーが務める洗濯屋で、バーバラを真似た彼女のパフォーマンスは同僚たちにも大いにウケていた。そして、ズーズーが出来上がった洗濯物をミュージックホールに届けに行くと、コーラスガールたちがズーズーにコスチュームを試着させ、その姿を照明係のジャンに見せにいく。すると彼は、幕の下りた舞台に上げてくれた。そこでのズーズーのパフォーマンス(無邪気で明るい動きの影絵)は、見ているだけでも楽しかった。
ズーズーの本格的な舞台で、大きな鳥かごの中で歌う「ハイチ」は、故郷のハイチへの郷愁を切なく歌う内容だった。この時の彼女の歌声について私が思ったのは、小鳥の囀り(さえずり)のような彼女の高音が、とても心地よいということ。どのように表現してよいのか分からず、「ちりめんビブラート」と書いたけれど、正式には何というのかは知らない。
そう言えば、ジャン・ギャバンが歌う場面は、ズーズーが働くランドリーの娘クレア(イヴェット・ルボン)とジャンがダンスを踊るシーンにあった。この日を境に二人は恋に落ちるが、クレアはズーズーがジャンを兄としてではなく恋人のように愛している事を知っており、友情と愛情の板挟みに苦しむことになる。
この物語終盤には、殺人の容疑者としてジャンが逮捕されるという事件も起き、ズーズーの証言で無罪が証明されるも、ズーズーの恋は失恋に終わるという結末は、健気であるだけに切なかった。
 

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