【蔵出しレビュー】映画マニアを心酔させた至極のロマンチック・コメディ!『今夜、ロマンス劇場で』
※7月26日から公開の浜辺美波主演、武内英樹監督作品『もしも徳川家康が総理大臣になったら』にあわせて、武内英樹監督の過去作品のレビューをUPしました。尚、文章は公開当時のものを一部加筆・訂正したものです。
■今夜、ロマンス劇場で
《作品データ》
『君と100回目の恋』の坂口健太郎と『海街diary』の綾瀬はるかによるファンタスティックなラブストーリー。映画製作・配給の京映の第3助監督の健司が映画館ロマンス劇場で映画「お転婆姫と三獣士」を見ている際に落雷のショックで、映画の中のお姫様・美雪が健司の前に実物として現れた。健司役を坂口健太郎、美雪役を綾瀬はるかが演じ、他本田翼、北村一輝、中尾明慶、石橋杏奈、西岡徳馬、柄本明、加藤剛が出演。監督は『テルマエ・ロマエ』の武内英樹。
・丸の内ピカデリー他全国ロードショー中!
・配給:ワーナー・ブラザース映画
・公式HP:http://wwws.warnerbros.co.jp/romance-gekijo/
《『今夜、ロマンス劇場で』レビュー》
映画の世界から飛び出した俳優・女優とのラブストーリーって、その設定からまるでウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』のような邦画だと思った『今夜、ロマンス劇場で』。
予想通り、ズバリ、和製『カイロの紫のバラ』を堂々とやってのけたロマンチックコメディで、『カイロの紫のバラ』要素はもちろんだが、これに『ローマの休日』や『オズの魔法使い』、『ニュー・シネマ・パラダイス』などあらゆる名画の要素が散りばめられ、
昭和の映画撮影所と映画館のノスタルジーの香りで包んだ、坂口健太郎&綾瀬はるかの必殺の一本だった!!
ストーリーは病院に入院している老人が若い頃に書いた映画の台本を聞かせる形で展開し、そこから昭和35年の映画撮影所と映画館を行き来する助監督の青年の不思議なラブストーリーへと移る。綾瀬はるか演じる美雪はモノクロ映画の世界の高飛車なお姫様で、その高飛車ぶりに振り回される健司がなんとも面白い。やや内気で小心者の健司と豪快な美雪の恋愛は女性上位の恋愛としては現代的で、実際のキャリアも加味すると坂口健太郎と綾瀬はるかというキャスティングはぴったりである。
加えて、『テルマエ・ロマエ』の武内監督が手掛けているので『テルマエ・ロマエ』同様、無茶な設定を脚本力や色彩の豊かさ、笑いなどでシャットアウトしている。美雪がいた色のないモノクロ映画の世界観と現実のカラフルさを演出、ストーリーにふんだんに活かしている。そのカラフルさは昭和35年のレトロなカラフルさと境内のお祭や藤が咲き乱れるシーンといった日本特有の美などあらゆる角度で表している。
根本のストーリーはやっぱりウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』の部分が大きく、作中で時折紫ならぬ赤いバラを見せるのはその所以かも。スクリーンから出てきた美雪が生きるすべはネタバレになるので書けないが、映画の序盤からその伏線は細かくなり、終盤これが分かると脚本の凄さをじんじんと感じる。
これに『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンを意識した仕草やファッション、ヘアスタイル、劇中劇「お転婆姫と三獣士」の構図と外に出てくる虹に『オズの魔法使い』の陰を味わえ、さらには柄本明演じる映画館の館主のエピソードには『ニュー・シネマ・パラダイス』にも通じる。
そもそも健司の名字のマキノも日本の映画創世期の大監督・マキノ省三やマキノ雅博といったマキノ一族だったりするし、マキノロングショットとまではいかなくとも、なめ回すようなパンによる映画撮影所の風景の良さもレトロな日本映画っぽさが伺える。つまり、映画が好きなら好きなほどいくらでも投影出来る要素が散りばめられている。
よく考えたらタイトル元はロバート・アルトマンの遺作『今宵、フィッツジェラルド劇場で』とも取れ、その要素も見られる。ファンタスティックなラストはそれとエミール・クストリッツァの『アンダーグラウンド』のラストにも通じ、映画マニアを唸らせる。さらには故・淀川長治氏の「どんな映画にも必ず一つは良い所がある」という言葉をさりげなく主人公に言わせ、映画ファンならあらゆる所にずーんと来る映画になっている。
綾瀬はるかファンだけではなく、映画が好きな人ならハマる確率が非常に高い。