テレビドラマ「渥美清の泣いてたまるか」を『男はつらいよ』生誕前夜として見る(その3)
■渥美清の泣いてたまるか vol.3
第五話「二人になりたい」
《作品データ》
昭和41年4月17日から昭和43年3月31日まで、およそ2年間にわたりTBS系列で毎週日曜日午後8時 から午後8時56分まで放映された渥美清(青島幸男、中村賀津雄)主演の1話完結形式の連続テレビドラマ。麻生商事の総務課で働く主人公・小森一平は社長室に呼び出され、社長から孫のシゲジをヨーロッパ旅行の間、預かるように告げられる。早速シゲジをアパートにつれて帰り妻・チヨと共に面倒を見るが贅沢三昧で育ったシゲジにチヨは苦戦し、ある日いたずらに耐えかね実家に帰ってしまう。主人公・小森一平役を渥美清が演じ、他広瀬みさ、左卜全、原泉、佐藤友美、初井言榮が出演。
・放映日:1966年5月15日
・製作:国際放映、TBS
【スタッフ】
監督:下村堯二/脚本:橋田壽賀子
【キャスト】
渥美清、広瀬みさ、左卜全、原泉、佐藤友美、初井言榮
第六話「浪花節だよ人生は」
《作品データ》
昭和41年4月17日から昭和43年3月31日まで、およそ2年間にわたりTBS系列で毎週日曜日午後8時 から午後8時56分まで放映された渥美清(青島幸男、中村賀津雄)主演の1話完結形式の連続テレビドラマ。己のDV癖が元で妻・加代子に逃げられた主人公・平山繁三は上京し、かつてお世話になった飯場に戻り、工事現場で働く。歓迎会で浪人生の堀川と揉めたりするが娘のヒロミが飯場の親父さんの慶子と馴染んだりし飯場の生活に慣れるが、一方で繁三は夜な夜な新宿に出て、元妻・加代子がラーメン屋で働いていると聞き繁華街で探す。主人公・平山繁三役を渥美清が演じ、他柳川慶子、春川ますみ、早川保、松村達雄、小松方正が出演。
・放映日:1966年5月15日
・製作:国際放映、TBS
【スタッフ】
監督:高橋繁男/脚本:山根優一郎
【キャスト】
柳川慶子、春川ますみ、早川保、松村達雄、小松方正
《『渥美清の泣いてたまるか』第五話&第六話考察》
テレビドラマを書く上で全話まとめて書くか、収録DVDごとで書くか迷ったが、この『泣いてたまるか』は渥美清が出演する以外はストーリー、登場人物、キャストが総入れ替えという完全一話完結形式。これはその前の時間帯で放映していた『ウルトラQ』も同じなので、連続ドラマという形式そのものがまだ確立してなかった可能性が非常に高い。なので、各DVDごとでやろうかと。
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さて、今回の第五話・第六話だがどちらも夫婦絡み、子供絡みのエピソードと共通点があり、五話は商事会社のサラリーマン、六話は飯場に寝泊まりする工事現場の作業員といった職種で働く。比較的ブルーカラー系の仕事が多い渥美清の主人公だが、五話では珍しくホワイトカラー職で働く。このため五話では他のエピソードみたいに上司にも跳ねっ返る主人公とは違い、社長や課長の命令に忠実なサラリーマンを演じているし、この上司に忠実というのが夫婦仲をおかしくしている。
この五話に出てくる社長のお孫さんのシゲジ少年だが、これがえらく生意気。一平の妻チヨがすき焼きを作っても「肉が硬い」とか、朝食ではミートパイが食べたいなど言い、チヨを困らせる。まだファーストフード店が日本になかった時代なのでハンバーガーやハッシュドポテトではなくてミートパイというのがこの時代らしい。食事だけでなく、寝室の壁をルージュで落書きしたり、忙しい夫婦に「オタマジャクシが欲しい」とダダを捏ねたり、なかなかのクソガキっぷりを発揮。
その点、六話に出てくる繁三の娘・ヒロミも繁三に露店で売っている亀(100円)をねだるが、基本的には寝泊まりする飯場で出されるご飯には文句は一切言わないし、比較的従順。これは五話のシゲジが超お坊ちゃん育ち、六話のヒロミがシングルファザーで、しかも不安定な飯場に住み込みなど苦労しているなど、育ちの違いもあるかと思える。
それと偶然なのか六話は飯場で寝泊まりする工事現場の作業員というある意味ブルーカラーのど真ん中のような仕事をしている。子供絡みのエピソードは三話からの流れだが、五話と六話の職業が極端に違うのは偶然というよりは反動でそうなったように見えてならない。
さらに六話では繁三が繁華街で元妻を探している中で、中華屋のメニューサンプルに「本中華そば80円」というのがあって、しかも「高い」とつぶやいて、屋台の50円の中華そばを食べていた。たしか三話では出前のラーメンが120円だったけど、あれは出前だからか?それと、中華料理屋の中華そばを本中華そばと言うけど…これは中華そば=素人のラーメン、本中華そば=中華料理屋のラーメンという認識でいいのかな?そう考えると、三話に出て来た出前のラーメン=120円というのも、店なら80円、出前なら120円ということかな?あ、それなら新宿駅近くで露店で売ってた亀が100円というのが微妙だよね。ま、露店商のおじさんも地べたに座りながら適当に打ってたから深く考える必要はなく、おそらく1食ありつければOKという100円だったのかも。細かいが、こうして当時の経済事情が見えるのは面白い。
それと、六話はほんの一部、新宿駅西口でロケをやっていたようだが、駅舎の真ん前やその少し周辺だから当時の様子が分かりにくい。あくまでもそこが新宿と分かればいいからその演出でいいんだけど、もう少し映して欲しかった。あと、繁華街も一部ロケという感じだったけど、モノクロで雑に撮ってるから分かりにくい。その4年後の昭和45年に公開された和田アキ子の主演映画『野良猫ロック』でカラーということもあって、駅周辺や「カメラのさくらや」辺りまでは分かる。ちなみに、「泣いてたまるか」の他のエピソードは地名は出してはいないが、ロケは青葉台周辺で行われていたと言われている。
脇役に関しては第五話の主人公の妻役を演じた広瀬みさと第六話の飯場の親分の娘役の柳川慶子といったマドンナ格の女優が光る。マドンナではあるが使い方は『男はつらいよ』のさくらポジションで、恋人というよりは主人公を支える女といった辺りか。五話に出演した広瀬みさは昭和44年には惜しくも結婚引退をしているが、パッと見の感じは若い頃の岡田奈々に近い。六話の柳川慶子は演じた役がチャキチャキした感じなので倍賞千恵子に近い雰囲気である。
他、六話の飯場の親父さん(親分)役に『男はつらいよ』の二代目おいちゃん役の松村達雄が演じ、いい感じを出している。
ということで、この『泣いてたまるか』は現段階では夫婦もの+渥美清と子供の絡みを見せた人情ヒューマンドラマになっている。それと令和の今見るには昭和40年代の日本の風景を考察するのに丁度いいのかも。