懐古 アメリカ映画の1969年
昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
「1960年」を初回に、前回「1968年」まで9回にわたって当時の名作に触れてきた。
今回は、人類が初めて地球以外の星に足跡を残した、アポロ11号月面着陸の年「1969年」(昭和44年)の話題作を御紹介したい。
「明日に向って撃て!」 監督:ジョージ・ロイ・ヒル

19世紀末の西部史に名高い実在の二人組の強盗、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの逃避行を、哀愁とユーモアをこめて描いた名作。
ブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)とその相棒サンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)は、アウトロー集団を率い、同じ列車を往復で襲うという画期的な計画を成功させ、大金をせしめた。だが、鉄道会社の執拗な追手から逃げきれず、遂にボリビアへ脱出を決意する。キッドの恋人エッタ・プレイス(キャサリン・ロス)を伴い、3人でボリビアへやって来たが、想像とははるかに異なり、再び強盗で生計を立てようとするのだが...。

アメリカン・ニュー・シネマ台頭の中から生まれた傑作西部劇だが、独特な雰囲気とムード、これが実にいい。
ポール・ニューマンは、悪知恵のはたらく飄々とした憎めないキャラクター。
一方、ロバート・レッドフォードは髭面の短気なガンマンで、都会的な二枚目から脱皮に成功。
その2人に愛される教師役のキャサリン・ロスは、新進女優ながら旬の魅力を発揮している。
バート・バカラックの名曲「雨にぬれても」は、ポップな曲調の中にノスタルジックな雰囲気が取り入れられており、本作の象徴でもある。(アカデミー賞・歌曲賞受賞)

「イージー・ライダー」 監督:デニス・ホッパー

旧来のハリウッド作品とは異なり、マリファナ、人種問題、ベトナム戦争など、当時のアメリカの抱える問題点を余すところなく、鋭敏に時代を捉えた作品。
メキシコからマリファナを密輸して、ひと儲けしたキャプテン・アメリカ(ピーター・フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)は、大型改造バイクで放浪の旅に出た。途中、飲んだくれの弁護士ジョージ(ジャック・ニコルソン)を拾った彼らはニューオリンズへ向かうが、野宿しているところを村人たちに襲われれてしまう...。

約30万ドルの低予算で作られたこの映画は、若い世代に強烈にアピールし、2600万ドルの収益を上げる大ヒットとなった。
何と言ってもステッペンウルフの名曲「ワイルドで行こう」をはじめとするロックナンバーが、当時の若者たちのハートをとらえたことは言うまでもない。
カレン・ブラック、ルーク・アスキュー、ホイト・アクストン、ロバート・ウォーカー・ジュニアらが共演している。

「真夜中のカーボーイ」 監督:ジョン・シュレシンジャー

虚飾に満ちた大都会の底辺から抜け出そうともがく2人の若者たちの友情を、爽やかなロマンティシズムで描いた秀作。 第42回アカデミー賞・作品賞受賞。
富と栄光を手に入れようと、テキサスからニューヨークへやって来たジョー(ジョン・ヴォイト)は、憧れの大都会が冷たい孤独と混沌に満ちていることを知る。肺を病んでいて足の不自由なラッツォ(ダスティン・ホフマン)と知り合ったジョーは、傷ついた心を寄せ合うように、助け合って生きる。そして、太陽の輝くフロリダへ行きたいというラッツォの夢が、ようやく叶うときがやって来るのだが...。

この映画はイギリス人のジョン・シュレシンジャーが撮ったアメリカン・ニュー・シネマである。
大都会ニューヨークの荒廃した現実が、イギリス人の目を通して描かれ、アメリカの病巣を痛烈な皮肉をもって暴いていることが、作品の所々に表れている。
共演はブレンダ・ヴァッカロ、シルヴィア・マイルズ、ルース・ホワイト、ポール・ベンジャミン、といった面々。
軽快な主題歌「うわさの男」と、ハーモニカを巧みに使ったジョン・バリーの音楽も、この名作を忘れ難いものにしている。

「ワイルドバンチ」 監督:サム・ペキンパー

20世紀初頭の動乱のメキシコを舞台に、西部のならず者たちの壮絶な生と死を描いた大型アクション西部劇。時代の波に取り残された無法者たちの滅びの美学を描いた作品でもある。
パイク・ビショップ(ウィリアム・ホールデン)をリーダーとする5人組の強盗団ワイルドバンチは、戦利品を抱えてメキシコに逃走する途中の小さな村で、マパッチ将軍(エミリオ・フェルナンデス)の率いる野盗の掠奪を目撃する。マパッチは米軍輸送列車を襲撃してくれれば、1万ドルを提供するとパイクに持ち掛け、パイクたちは銃器や弾薬を強奪する。列車強盗を成功させたパイクたちだが、マパッチの裏切りも予測していた。マパッチは渋々報酬を支払ったが、ダッチ(アーネスト・ボーグナイン)とエンジェル(ハイメ・サンチェス)が交渉に向かった時に問題が起きる...。
西部劇というジャンルそのものの行く末を暗示しているような映画で、主要メンバーは時代の流れに取り残されたという思いを抱くアウトローたちである。
類をみない壮絶な銃撃シーンは、血しぶきが飛び、死体の山が築かれる実にリアルな描写。
だが、ワイルドバンチの決断に至る過程をみれば、単なる暴力礼賛でないことは一目瞭然。
老年のガンマンの悲哀を交えて描く本作は、スローモーションを多用するペキンパー独特の凄まじくも美しい暴力描写が大反響を呼んだ最高傑作。
ウォーレン・オーツ、ベン・ジョンソン、ロバート・ライアン、エドモンド・オブライエン、ストロザー・マーチン、L・Q・ジョーンズ、ボー・ホプキンスら、西部劇ファンには堪えられない面々が顔を揃えている。

「宇宙からの脱出」 監督:ジョン・スタージェス

人類の夢と希望を託し打ち上げられた宇宙船の故障で、沈黙の宇宙に取り残された飛行士達の不安と恐怖、そして救出作戦の緊迫した様子や宇宙計画の非情な現実を描く。
テキサス州・ヒューストン。アメリカ航空宇宙局(NASA)から宇宙船アイアンマンが打ち上げられた。プルエット船長(リチャード・クレンナ)、ロイド(ジーン・ハックマン)、ストーン(ジェームス・フランシスカス)の3名の宇宙飛行士が乗組んでいる。NASAでは最高責任者のキース(グレゴリー・ペック)や、ドハティ大佐(デヴィッド・ジャンセン)ら、多くのスタッフが見守っている。アイアンマンは無事に大気圏外へ突入し、宇宙ステーションとドッキングした。彼らは惑星間飛行の訓練のため、7ヵ月ステーションに滞在する予定だ。だが5カ月経過した時点で、乗組員たちは無重力状態での生活が限界に達し、疲労からミスが起こるようになる。NASAは3人の帰還を命じた。船長らはアイアンマンに乗込み、帰還のための自動逆噴射の操作を行うが、機器が反応しない。これを知ったNASAは騒然となる...。

当時はアメリカとソビエトの宇宙開発競争の最中だったが、冷戦下とはいえ、相手国の窮状には助け船を出していたのかもしれない。
又、本編では巨大ハリケーンの接近が、意外な状況変化をもたらすのだ。
クレジット1位はグレゴリー・ペックだが、彼が主役というわけではない。
グレゴリー・ペック扮するキースと、デヴィッド・ジャンセン扮するドハティが、宇宙飛行士救出を巡って、激しい口論を展開するシーンがある。思わずドハティに肩入れしてしまう。
デヴィッド・ジャンセンといえば、米TV「逃亡者」の医師リチャード・キンブル役があまりにも有名だ。
本作は実に解りやすく、当時ここまでリアル感を出せているのも素晴らしい。
「アポロ13」(95年)と双璧を成す宇宙パニック・サスペンス映画だ。

「華麗なる週末」 監督:マーク・ライデル

この映画はスティーヴ・マックィーンにしては珍しいコメディ系ドラマだが、「マックィーン・ワールド」の貴重な1本に変わりはない。つまり、孤高で精悍なマックィーンとは対照的に、優しくて素朴な魅力を感じさせるマックィーンに出会えるのだ。
1905年、ミシシッピー州ジェファーソン。ボスと呼ばれる老名士(ウィル・ギア)が、町で最初の車を買った。美しい黄色の新車「ウィントン・フライヤー」は ‘黄色い乙女’ と云われた。ボスの使用人ブーン(スティーヴ・マックィーン)が車の世話を任された。ある日、ボスをはじめ家人らが親戚の葬儀で留守の際、ブーンはボスの孫で11歳になるルーシャス(ミッチ・ヴォーゲル)を唆し、一緒にメンフィスへドライブする。車の後部座席には黒人の使用人ネッド(ルパート・クロス)が隠れており、3人での旅立ちとなった。彼らはメンフィスで娼館に着き、ブーンは旧知の女将(ルース・ホワイト)に挨拶した後、馴染みの娼婦コリー(シャロン・ファレル)に会った。無知なルーシャスが戸惑うなか、別行動していたネッドが競走馬を連れてくる...。

コメディの要素を感じる楽しいシーンが目白押しである。
ブーンらがメンフィスに向う際、泥水でぬかるんだ悪路に遭遇する。これはケチな男の悪戯だが、タイヤが空回りして抜けられなくなったところへ馬車で助け舟を出し、金をせびるというもの。
マッウィーンが全身、泥だらけになっての演技、ちょっと可哀そうな気もする。
そして後半、競馬のシーンが出てくるのだが、見るからに走れそうもない馬に、ネッドが ‘ある仕掛け’ を施す。それが何かを知ったとき、ヘエ~~、そんな物で...と苦笑してしまう。
名優バージェス・メレディスがナレーションを担当している。

上述以外の作品では、「ハロー・ドーリー!」、「勇気ある追跡」、「ひとりぼっちの青春」、「サボテンの花」、「雨のなかの女」、「アリスのレストラン」といった作品が思い浮かぶ。
次回は「1970年」を振り返ってみたい。
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投稿を表示はっきり言って、この「イージー・ライダー」は、映画が公開された1969年当時に若者であった人しか理解、感動できないのではと思うくらい、ストーリー的には面白くもなんともありません。ストーリーはあるように見えて、ほとんどないに等しいですし、ヒッピーはすでに絶滅した存在だから、今更分からないし、アッと驚くラストも腰が引けるし、難解だと思う人も少なくないはず。当時のハリウッドはメジャーと言われる大手のほとんどが倒産寸前の状態でした。当時作られていた映画と言えば、歴史大作か西部劇かミュージカル。そんな絵空事の映画に若者は見向きもしなくなっていたのです。つまり時代に合った映画をハリウッドは誰も作っていませんでした。これでは映画産業が落ち目になるのは当然でしょう。そんな中、この映画は超低予算で完成し大ヒットしました。大金をつぎ込んだ大作よりも、若造のド素人映画に観客をもっていかれてしまったのです。これを契機として、新人たちがハリウッドにどんどん入ってくることになりました。経営難に陥っていた映画会社の多くは、こうした若い映画監督たちによって救われたのです。こうして、1970年代前半のハリウッドは、経営的には傾いていたのですが、作品の品質は史上最高の黄金期となったのです。スピルバーグなど、後の優秀な映画監督たちの多くが、この映画の大成がきっかけでハリウッドに食い込んでいったことを考えると、この「イージー・ライダー」がいかにエポックメーキングだったかがわかります。凄いことをしでかした映画だったんだなと思いながら、この映画を再見していると、感動もひとしおでしたね。
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投稿を表示アメリカンニューシネマにどこか憧憬があり、映像や音楽にそそられました。
アメリカンドリームの涯とか、幻滅があり、虚無感が逆に心地よさというか、安堵さがありました。あの時代の空気でした。
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投稿を表示世の中の流れでしょうか、1969年の作品はパンチのある映画が多いですね。男らしさのアピールを感じます。
興味深いです!