2024年に観た映画(2) 「ポトフ 美食家と料理人」
「料理がテーマの映画のおすすめ人気ランキング」とか「料理映画人気ランキング」で紹介される作品って、料理そのものに真摯な作品が意外と少ないと感じます。例えばその手のランキング上位に登場する「幸せのレシピ」は私も大好きな映画ではありますが、料理映画としては何も見るべきものがない。そもそも仏料理の店に伊料理のシェフを雇い入れるような設定がいかにもアメリカ映画らしい。
私が劇場で観た中でこれぞ料理(人)が主題といえる映画を挙げてみました。今回観た「ポトフ 美食家と料理人」もまた、これに該当する作品でした。
地方の寒村で細々と暮らす年老いた姉妹の生い立ちをナレーションで解説する淡々とした進行に、観る側も忍耐を強いられるのですが、後半、そんな心配を見事に払拭する展開が待っていました。
俗世に惑わされることなく神と父親の教えを守り続けてきた姉妹に仕える一人の女性、バベットが生み出す奇跡。そして神の思し召しに導かれるように集いし人々に訪れた至福のひととき。
食と信仰という人類にとって普遍的な二つのテーマを、映画の普遍性へと昇華させたこの作品。終わり良ければ全て良し。最後の最後に感極まり、涙が溢れました。
姉妹の永年にわたる信仰心と善行がもたらしたこの奇跡の一夜に村人たちが享受した至福。"日常の極上"を超越した贅沢を堪能した後に彼等に訪れるものとは。
良く出来た寓話のようでもあるこのお話が拠り所とする美徳が、この姉妹が人生を通して拒絶してきた世界の中で育まれたものである点、アイロニカルでもあります。
国の重要無形文化財、所謂人間国宝に認定されるのは芸能および工芸分野に限られていますが、これが食の分野にまで広がったらいの一番に認定されるのがこの人じゃないかと思われる「すきやばし次郎」店主、小野二郎さん。彼とお店の関係者を通じて、至高の鮨が生み出される舞台裏を追ったノンフィクション。
料理人が到達(本人にとっては途上)したある種の極みが鮨という食べ物にどう結実した上で客の前に供されているのか。85歳(当時)の小野さんの鮨にかける情熱とひたすらストイックな行動理念が、かつての背番号51の姿とダブります。
「大変な下準備は全て弟子任せで、私は(つけ場で鮨を握るという)一番オイシイところだけ」と笑う二郎さん。しかしながらその全ての作業に厳しい目配りが施され、二郎さんが納得する仕事に仕上がっている。店舗を幾つも持ち、プロデューサー気取りの料理人が蔓延る中、職人として店を守る/味を守る真摯な姿が胸を打ちます。
ポトフ 美食家と料理人
本作も紛れもない料理及び料理人の映画。なにしろ大半のシーンが料理をしているか食べているかのどちらかなのですから。バロック絵画風の光差し込む美しい色調で繰り広げられる、料理という名の創作活動。さすが美食の国フランスと思える容赦ないその工程描写にただただ圧倒されます。
美食家の実業家ドダンと、料理人のウージェニーが共同作業で生み出す至福のガストロノミー。2人の関係はパトロンと芸術家であり、作曲家と演奏家であり、ドダンの求愛行為も最高の一皿を生み出す彼女の才能なしには成立し得ない。そしてそれはウージェニー自身の喜びでもある事を、彼女の究極の問いかけから観客も知る事となる。
原題は「ドダン・ブーファンの情熱」。確かにドダンの美食への飽くなき探求心こそが本作のテーマであり、邦題は色々誤解を招きかねない。物語の展開上も妥当性に欠けている気がしました(「ポトフ」が余計です)。
№2
日付:2024/1/6
タイトル:ポトフ 美食家と料理人 | LA PASSION DE DODIN BOUFFANT
監督・脚本:Tran Anh Hung
劇場名:シネプレックス平塚 screen3
パンフレット:あり(¥950)
評価:6
そして本作の主人公は間違いなくこの人、天才料理人ウージェニー
料理監修を担当した三ツ星シェフのピエール・ガニェールが、凡庸な料理しか作れないユーラシア皇太子のお抱えシェフとして登場
Recette №6 洋梨のベル・エレーヌ
<CONTENTS>
・MENU 友人たちとの午餐会
・Recette №1 鯉の卵のオムレツ
・Recette №2 ブイヨン
・MENU ウージェニーのための晩餐
・Recette №3 グリーンピースのヴルーテ
・Recette №4 牡蠣のキャビアとミモザエッグ添え
・Recette №5 若鶏のドゥミドゥイユ風
・Recette №6 洋梨のベル・エレーヌ
・Recette №7 ポトフ
・イントロダクション
・シノプシス
・インタビュー ジュリエット・ビノシュ(ウージェニー)
・インタビュー ブノワ・マジメル(ドダン)
・コラム 赤坂洋介(「ピエール・ガニェール」エグゼクティブシェフ)
・コラム 梶谷彩子(お茶の水女子大学基幹研究院研究員)
・午餐会で語られるキーワード
・コラム 門間雄介(ライター/編集者)
・インタビュー トラン・アン・ユン(監督・脚本・脚色)
・スタッフ/キャスト・プロフィール
・クレジット
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投稿を表示「ポトフ」投稿されていたのですが、私も投稿しました。(前に観た「バベット・・」は単品レンタル待ちをしています)。確かに、うんちくを語る作品は少ないですね。「大統領の料理人」とかはうんちく感あります。