注目は「アタック25」の児玉清!昭和の山岳サスペンス『黒い画集 ある遭難』
■黒い画集 ある遭難
〈作品データ〉
松本清張原作の「黒い画集」第1話「遭難」を伊藤久哉、香川京子主演、石井輝男脚本、『サラリーマン忠臣蔵』を手掛けた杉江敏男監督で映画化した山岳サスペンス映画。銀行勤めの江田は登山経験が豊富な岩瀬と登山未経験者の浦橋と一緒に8月30日に北アルプスの鹿島槍ヶ岳の登山に行くが、思わぬ悪天候や視界不良で遭難し、疲れ等が元で体調不良だった岩瀬が昏睡した後、黒部渓谷へ滑落死を遂げる。それからしばらく経ったある日、岩瀬の姉・真佐子と従兄弟の槙田が江田を訪ね、遭難現場に慰霊登山をしたいという申し出があり、江田は槙田と二人で鹿島槍ヶ岳に登山をすることに。主人公・江田役を伊藤久哉が、岩瀬の姉・真佐子役を香川京子が演じ、他和田孝、児玉清、土屋嘉男、松下砂稚子、天津敏、那智恵美子が出演。
公開日:1961年6月17日
時間:87分
配給:東宝
【スタッフ】
監督:杉江敏男/脚本:石井輝男
【キャスト】
伊藤久哉、香川京子、和田孝、児玉清、土屋嘉男、松下砂稚子、天津敏、那智恵美子
〈『黒い画集 ある遭難』考察〉
昭和30年代半ばに公開された松本清張原作の『黒い画集』シリーズは全部で3作あるが、内容・設定・登場人物、さらには監督や脚本などスタッフもそれぞれ違う。が、どれも90分前後の尺、主人公はその先も出世の見込みがある40歳前後の中間管理職で妻子持ち、バッドエンドなど意識的な共通設定もある。この『黒い画集 ある遭難』は主人公の家庭こそは触れていないが、やはりそこそこの地位の中年男性が主人公で、主人公のある悲劇をサクッと描いている。
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『黒い画集 あるサラリーマンの証言』と同様にU-NEXT等で配信されてないため、見るのは10年以上ぶり。後半の雪山登山と終盤の展開のインパクトから雪山映画の印象があったが、前半の鹿島槍ヶ岳の登山シーンは8月30日の晩夏の登山だったのでイメージが違ったが、判断ミスや悪天候から遭難するシーンは後の映画にはなるがシチュエーションこそは大分違うが吹雪や雪がない『八甲田山』の遭難シーンに通じるものが感じられた。
それと鹿島槍ヶ岳までの寝台列車での移動も昭和30年代らしい。同じ松本清張原作で野村芳太郎監督作品『張込み』でも結構しんどそうな“寝台列車”ではない夜行列車での移動シーンがあったことを覚えているから、江田のわざわざ“寝台列車”にした気配りが分かる。
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この『黒い画集 ある遭難』は7割が登山シーンになるので、他の『黒い画集』シリーズ作品みたいに家庭事情やサラリーマンの社内でのポジションや年収とかには触れない、サラッとした山岳サスペンスなので、より昭和30年代の東宝のプログラムピクチャーっぽく、いかにも二本立てのメインの方のサスペンスといった具合いである。
見所としては前半のよもやの事故と、後半の野郎二人での登山シーン。後半の登山は一見、亡くなった岩瀬の慰霊登山のようでいて途中から様相が変わる。それもじわじわチクチクとくるのがいい。
が、他の『黒い画集』シリーズと比べると明らかにキャストが弱い。『黒い画集 あるサラリーマンの証言』は小林桂樹主演だし、『黒い画集 第二話 寒流』なんか池部良主演だけでなく、新珠三千代や丹波哲郎、志村喬など大御所まで出ているのに比べると、伊藤久哉の頑張りや香川京子の存在感などもあるが、どうしても小作感が否めない。
主演こそは伊藤久哉で岩瀬の姉役の香川京子がこの作品では看板俳優になるが、後世のボクらの世代にとって一番の目玉は岩瀬役の児玉清。
後に
「パネルクイズアタック25」の司会を36年やったあの児玉清である。
あの「アタック25」のおじさんの若き日の活躍が見られる。それも寝台列車から登山で徐々に体調を崩す演技は注目。
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本作は後の『クライマーズ・ハイ』や『劔岳 点の記』、『岳』などの山や登山がメインになる映画や、最近なら金子修介監督作品『ゴールド・ボーイ』やパク・チャヌク監督作品『別れる決心』での崖や山頂でのサスペンスシーンなど、後世の作品にも影響を与えている。その一方、山頂付近のシーンは黒澤明監督作品『醜聞 スキャンダル』の冒頭の山頂でのシーンにも通じるものがある。
『黒い画集』シリーズ3作の中では主人公がさほど黒くはない、登山が趣味という中年サラリーマンでイノセントな男なので、改めて見ると他の2作とは一線を画しているような気もするが、全体的に暗い雰囲気のバッドエンド作品という点から、やはり『黒い画集』シリーズに相応しい作品である。