懐古 アメリカ映画の1966年
昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
「1960年」を初回に、前回「1965年」まで6回にわたって当時の名作に触れてきた。
今回は「1966年」(昭和41年)の話題作を懐かしむ。
「バージニア・ウルフなんかこわくない」
監督:マイク・ニコルズ
夫婦間の偽りに彩られた日々の空しさと、凄まじいまでの愛憎劇を描いた舞台劇の映画化。
大学教授のジョージ(リチャード・バートン)が総長の娘であるマーサ(エリザベス・テイラー)と結婚して、25年目を迎えた。2人の間にはもう愛はなく、皮肉や軽蔑の応酬でマーサは夫を口汚く罵っている。生物学助教授のニック(ジョージ・シーガル)と妻のハニー(サンディ・デニス)が家を訪ねてきたことが引き金となり、ジョージ夫妻の亀裂はますます深まっていく...。
世界一の美女として、ハリウッドの女王の座を欲しいままにしていたエリザベス・テイラー(当時34歳)が、45歳のアルコール中毒の女性に扮している。
役作りのために10キロ近く体重を増やし、半白髪のカツラ、ウィスキーで潰れた声を張り上げる醜態を披露、結果、2度目のアカデミー主演女優賞を獲得した話題作である。
(最初は1960年の「バターフィールド8」)
登場人物は4人だけだが、演じた俳優4人ともアカデミー賞の受賞又はノミネートという快挙で、緊張感のあるドラマに仕上がっている。
「ミクロの決死圏」 監督:リチャード・フライシャー
ミクロ化された人間が体内に潜入し、外科手術不可能の脳出血患部を治療して戻ってくるという、奇抜なアイデアのSF映画。
アメリカへ亡命したチェコの科学者ベネス博士が、スパイ一味の車に撥ねられ、瀕死の重傷を負った。そのため、小型潜水艇に手術担当員たちを乗せ、これを細菌大に縮小して注射器で頸動脈に送り込むという、破天荒な治療法が試みられることになる。脳の出血を内部から治療しようというのだが、60分というタイムリミットを背負い、外科医たちは体内旅行に旅立つ。
この映画の最大の主役は、SFXを駆使して作り上げられた、見たことも無い驚異の人体内部の世界である。実際に医学博士の監修を受け、サルバトール・ダリがデザインに絡んだ不思議な世界だ。
潜水艇に乗込むメンバーとして、脳外科医役にアーサー・ケネディ、その助手役にラクウェル・ウェルチ、循環器専門医役にドナルド・プレゼンス、海軍大佐役にウィリアム・レッドフィールド、そして特別情報部員役にスティーヴン・ボイドが扮している。
ラストでは東側に通じていた裏切者の存在が明らかになるなど、一筋縄では終わらない。
60分を過ぎると元の大きさに戻るというなか、どうやって体外に出るのか?....
「ネバダ・スミス」 監督:ヘンリー・ハサウェイ
何と言っても ‘世界で最も好きな俳優スティーヴ・マックィーン’ が主演ということで本作を選出。
実在の西部の男ネバダ・スミスの若き日を描いたアクション西部劇だ。
1890年代のアメリカ西部。16歳の時、3人組の強盗に両親を殺されたマックス(スティーヴ・マックィーン)は、仇敵を求めて復讐の旅に出た。彼は流れ者の鉄砲鍛冶屋ジョナス(ブライアン・キース)から拳銃の扱い方を習う。決闘で一人目の殺し屋ジェシ(マーチン・ランドー)を倒し、別の殺し屋ビル(アーサー・ケネディ)が刑務所にいることを知った彼は、銀行強盗を働いて老保安官(ポール・フィックス)に捕まり刑務所に入る。だが、もう一人の殺し屋トム(カール・マルデン)の行方はまったく分からず、マックスの心は荒んでいく...。
共演陣がなかなか豪華で、上述のほかにも神父役のラフ・ヴァローネをはじめ、パット・ヒングル、ハワード・ダ・シルヴァといった個性派が出演、女優ではスザンヌ・プレシェット、ジャネット・マーゴリン、ジョセフィン・ハッチンソンといった顔ぶれ。
監督は数多くの西部劇やアクション映画で名を馳せたヘンリー・ハサウェイ。
大西部を映し出す風景が実に素晴らしく、アルフレッド・ニューマンの心に染みるテーマスコアもいい。
「おしゃれ泥棒」 監督:ウィリアム・ワイラー
巨匠ウィリアム・ワイラーとオードリー・ヘプバーンの名コンビによる小粋なコメディの傑作。
天才的なニセ絵描きシャルル・ボネ(ヒュー・グリフィス)の一人娘ニコル(オードリー・ヘプバーン)は、父の職業を知って悩んでいたが、父親のほうは気にするどころか、ますます仕事に精を出している。パリ一番の美術商の依頼で、ボネの邸宅に忍び込んだ私立探偵のシモン(ピーター・オトゥール)は、ニコルに発見されてしまうが、彼を泥棒と勘違いしたニコルから、逆に父が政府の依頼で出品している贋作のヴィーナス像を盗み出してくれと頼まれるのだが...。
この邦題は的を得ていると思う。
オードリーのファッションは勿論のこと、次々と登場するクラシック・カー(名車)の数々、冒頭のクレジット紹介のバックに流れるスコア、そして時代を偲ばせる「盗みのテクニック」までオシャレ感覚なのだから、観ていてとてもハッピーな気分に浸れる。
銀幕の妖精オードリー・ヘプバーン(1929.05.04 ~ 1993.01.20 / ベルギー生まれ)。
彼女の作品の魅力のひとつは、何と言ってもファッションの数々であろう。
本作でもシーンによって複数の衣装を披露し、なかでも紺色のコート(前に6ボタン、首にスカーフ?)は洗練された上品さが感じられた。
衣装担当はユベール・ド・ジバンシーで、「麗しのサブリナ」(54年)からオードリーとコンビを組んでいる。
相手役のピーター・オトゥール(1932.08.02 ~ 2013.12.14 / アイルランド生まれ)。
「アラビアのロレンス」(62年)で演じたロレンス少尉役のインパクトが強烈だが、本作同様「何かいいことないか子猫チャン」(65年)といったコメディや、「チップス先生さようなら」(69年)といったミュージカルも無難にこなしている。まさに器用な演技派俳優である。
この2人が乗るジャガー・Eタイプロードスターや、ロールス・ロイス・シルヴァークラウド(こちらはタクシーだったかな?)、オードリーが乗る赤の小型オープンカーもおしゃれでカッコよかった。
「グラン・プリ」 監督:ジョン・フランケンハイマー
ヨーロッパ各地を転戦するF1グランプリに命を懸ける男たちの運命を追った作品。
アメリカ人ドライバーのピート(ジェームズ・ガーナー)は、イギリスのスコット(ブライアン・ベドフォード)、フランスのサルティ(イヴ・モンタン)らとともに注目を集める花形レーサーである。だが、事故を起こしてチームを追われ、妻にも去られてしまった。傷心のピートに救いの手を差し伸べたのは、ホンダの矢村(三船敏郎)だった。日本チームに見込まれたピートは戦線に復帰し、次々とレースに優勝していった。そしてフォーミュラー・ワンの最後のレースであるモンツァのイタリア・グラン・プリを迎えることになるのだが...。
レース・シーンの撮影技術は当時としては画期的なもので、実に見ごたえがある。
この映画は2つのプロットが骨格を成している。
1つは言わずもがなのレースシーンだ。実在の世界的トップレーシングドライバーが数名出演し、画面狭しと展開するレースシーンは手に汗握る。
迫力あるエンジン音、地を這うカメラアングル、レース会場を捉えた見事な空撮、レース・シーンの撮影技術は当時としては画期的なもので、実に見ごたえがある。
もう1つは、死と隣り合わせで孤独なレーサーに寄り添う女性たち。
エヴァ・マリー・セイント、ジェシカ・ウォルター、フランソワーズ・アルディ、ジュヌヴィエーヴ・パージュらが、複雑で繊細な心理模様を巧みに演じている。
勇壮なテーマ曲、ソウル・バスによる分割画面も効果的だ。
三船敏郎は世界的に名が知れていたが、本作が初のアメリカ映画出演である。
「砲艦サンパブロ」 監督:ロバート・ワイズ
1920年代、植民地支配に対する抵抗が激化する中国・上海を舞台に、アメリカの覇権主義に疑問を投げかけた社会派スペクタクル。
外国の植民地支配に対する中国人の抵抗が激化する中、自国の権益と人命を守るために、揚子江に出動させられたアメリカの砲艦サンパブロ号。だが、艦の各部署が、低賃金の中国人労働者に任されているという矛盾を内部に抱えていた。新たに赴任した一等機関兵のジェイク・ホルマン(スティーヴ・マックィーン)は、中国人に対して友好的な態度をとるが、激しい排外運動の渦中では、それも受け入れられない。砲艦は中国人の支配下にあり、コリンズ艦長(リチャード・クレンナ)をもってしてもままならない。そんな折、ホルマンは、アメリカから伝道学校の教師としてやって来たシャーリー(キャンディス・バーゲン)と知り合い、彼女の魅力に惹かれる...。
映画そのものは娯楽性たっぷりで、相変わらずマックィーンの人間性がほとばしる。
ポー・ファン(マコ/マコ岩松)に機関室の動力の仕組みを教えるシーンや、同僚のフレンチー(リチャード・アッテンボロー)との語らいなど、ユニークな場面も多い。
だが、ポー・ファンは悲惨な立場に追い込まれる。地獄の苦しみを味わう。見るに見かねてホルマンが彼を天国へ逝かせる。...(見ていて目頭が熱くなる)
演じたマコは、日本人俳優(この時点で米国籍を取得しているが)としてアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされている。本作には坊主頭で出演した。彼は神戸出身だから、身近に感じる。
特筆すべきは、74年「エマニエル夫人」の原作者であるエマニュエル・アルサンが出演していること。酒場の女メイリーに扮し、アッテンボロー扮するフレンチーと結ばれるのだが、最後は身重ながら悲しい死を遂げる。
「わが命つきるとも」 監督:フレッド・ジンネマン
この映画は米国・英国の合作であるが、本欄で取り上げたい名作。
16世紀イギリスの歴史的事件を素材にしたロバート・ボルトの舞台劇を映画化。
16世紀初頭、イギリス国王ヘンリー8世(ロバート・ショー)は、王妃カテリーヌと離婚し、アン・ボーリン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)と結婚しようとしていた。離婚のためにローマ法王の許しが必要な国王は、高潔なる人格者の旧教徒トマス・モア(ポール・スコフィールド)に、法王が離婚を承認するように取り計らってほしいと、枢機卿(オーソン・ウェルズ)を通じて申し出る。だが、トマスはこれを拒絶する。1年後、大法官の座に就いたトマスは、秘書のクロムウェル(レオ・マッカーン)の陰謀により、孤立無援の闘いを強いられることになる。
映画はこの歴史的事件を、信念の人トマス・モアの人物像に焦点を当てて描いている。
フレッド・ジンネマン監督の歴史劇としての格調高い演出、そしてトップクラスの俳優たちが生み出した充実感も素晴らしい。
全般的に硬いイメージの古典劇だが、ジョン・ボックスの美術、エリザベス・ハッフェンデンの衣装も素晴らしく、まるで絵画をみているかのよう。
アカデミー主演男優賞を受賞したポール・スコフィールは、根っからの舞台俳優で、トーマス・モア役も舞台で3年間演じ続けていた。
1966年公開作には、上記以外にも「ハワイ」、「天地創造」、「アメリカ上陸作戦」、「プロフェッショナル」といった作品が記憶に残っている。
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投稿を表示アイキャッチ画像が「おしゃれ泥棒」に変更されたましたね!
大好きな映画です。何度も観たくなります。
他の作品は多分TVで見た気がするのですが、全然覚えていないので
きっと新鮮に見れると思います。
〖砲艦サンパブロ〗『グランプリ』は絶対見たことがない自信があります(笑)
観てみたいです!
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