ついに上映開始!黒沢清監督作『Chime』
第74回ベルリン国際映画祭公式招待作品、黒沢清監督の『Chime』
現地では全上映回が満席になるほど熱狂的に迎えられたそうだ。
黒沢ファン待望の『Chime』がついに、ミニシアターStrangerの配給で、8月2日から上映が開始された。そこで今回の記事は、公開初日のスペシャルトーク付きイベントに参加し、感じたことを執筆したいと思う。
目次
1.あらすじ、キャスト
2.レビュー
①3つの恐怖要素
② 不安を煽る場所
③ 様々な不快音
3.作品のまとめ
4.トークイベントの内容
1.あらすじ、キャスト
メディア配信プラットフォーム“Roadstead”のオリジナル作品第一弾として手掛けた中編不条理スリラー。
料理教室の講師として働いている松岡卓司。
ある日、レッスン中に生徒の1人、田代一郎が「チャイムのような音で、誰かがメッセージを送ってきている」と、妙なことを言う。
事務員の間でも、田代は少し変わっていると言われているが、松岡は気にすることなく接していた。 しかし別の日の教室で、田代が「僕の脳の半分は入れ替えられて、機械なんです」と言い出し、それを証明するために驚くべき行動に出る。
田代の一件後のある日、松岡は若い女性の生徒・菱田明美を教えていた。淡々とレッスンを続ける松岡だったが、丸鶏が気持ち悪いと文句を言う明美に彼はなんと!松岡の身にいったい何が起きたのか。料理教室で、松岡の自宅で、ありふれた日常に異様な恐怖がうごめき始めたのだった。
[チャイム公式より引用]
スタッフ
監督、脚本:黒沢清
撮影:古屋幸一
編集:山崎梓
美術:安藤秀敏
音楽:渡邊琢磨
キャスト
吉岡睦雄
小日向星一
天野はな
安井順平
田畑智子
渡辺いっけい
上映時間:45分
2.レビュー
①3つの恐怖要素
監督もおっしゃっていたように、本作では殺人、警察、幽霊を3つを恐怖として描かれている。作中で起きる殺人はかなり残酷だ。
しかし犯人は淡々とした様子で犯行に及ぶため、黒沢作品に慣れていないとギャップを感じるだろう。
執拗にターゲットを追い詰めたり、自ら首を刺すなど、グロテスクで攻撃的だ。当然ながら血も流れる。その際できる血だまりについての面白いエピソードを、後半のトークイベントレポに記載しているので、ぜひ読んで頂きたい!
(これには場内驚きの声があがった)
犯人にとって警察は怖い存在であり、殺人事件を捜査する警官役は渡辺いっけいだ。
セリフが少なくても彼が事件現場に現れる、という設定だけでも場が締まり、事件解決へ向かうと印象付ける。しかし事件を捜査するシーンはほぼ意味を成さない。監督の意図は事件解決ではないからだ。
幽霊は、文字通り幽霊だ。
私たちには見えない、本当に幽霊なのかもわからないのだ。次々に起こる不気味なできごとに対して、脳内で勝手に作られた正体不明の何か、だと思われる。
②不安を煽る場所
その場所というのは、本作の舞台である料理教室、松岡の自宅、松岡が転職のため関係者と会う飲食店のことだ。
不安を煽るとした理由は、松岡自身や、関わる人物が得体の知れない恐怖や不安に取り憑かれているように思えたからだ。
まず料理教室が入るマンションは狭く薄暗い、階段はすれ違うのがやっとだ。事件が起きても料理を教えていても、松岡は心ここにあらずといった様子で、綺麗に並べられた調理器具が余計に不安を煽る。
自宅には、先輩が事業を始めるため融資したいから20万ほど貸してほしい、と親に頼む中学生の息子、綺麗好きに見えるが実はガサツな妻がいる。筆者には家族二人がクレイジーに感じるのだが、松岡にとっても不安要素になっていたに違いない。そして邪魔な対象でもある。
転職先の関係者と会う飲食店では、自身を猛アピールする松岡の姿が見られる。
先方が示す、料理も含めた経営方針を全く聞かず無関心、自己アピールも二転三転していく。ここでも自らとった行動が不安を高めていく事となった。
③様々な不快音
これも監督がおっしゃっていたが、音には相当拘ったそうだ。
料理教室で絶えず聞こえる電車の音、
料理教室を終えマンションから出るときのモスキート音のような不快音、妻が食事中に突然始めるビールの空き缶を捨てる音。
さらにもう一つ、タイトルにもなった頭のなかで聞こえるチャイムだ。
実はぼんやりとしていて、ハッキリ聞こえる訳ではない。ただ、それが聞こえる人を悩ます一つの原因という事は分かる。筆者にはそのチャイムが「CURE キュア」のように、催眠術をかけているように思えた。
そして終盤、玄関からハッキリと聞こえるチャイム。これまでの恐怖や不安が、具現化して姿を見せるか否かはネタバレになるので伏せるとして、松岡が不安から解放されるシーンだと監督は言う。
そのときに鳴り響く爆音は、映画「関心領域」の音のように不気味だ。何故爆音になったのかは、こちらもトークイベントレポに記載している。
3.作品のまとめ
主人公を演じた吉岡睦男さん、実際にお会いしてみると、穏やかでハンサムだ。
松岡という役は料理人でもあるが、冷たくて無表情、自分のことになると陽気になるが、また残酷な性格が顔を出すと言った不安定で難しい役だ。しかし吉岡睦男さんの存在感が大きく、演技で映画に奥行きを与える俳優だと感じた。
実際に料理レッスンも受けたそうだ。家では玉ねぎのみじん切りばかりをしていたら、奥様から玉ねぎ臭いと言われ、みじん切りの冷凍が量産されたというユニークな裏話も披露してくれた。
映画館での上映を願っていたが、まさかこんなに早く叶うとは思ってもみなかった、とおっしゃる黒沢清監督。
恐怖と不安がレイヤーされていく様子や、自分を上手く解放できない様子は、生きづらさを表現しているようで、45分だが見応えがあった。またラストシーンでは、誰もがその先が気になる内容になっている。
恐ろしいシーンが続けざまに並らぶ本作のことを"変な映画"と表現されていたので、それを念頭に鑑賞したらより楽しめるはずだ。
4.笑いが絶えなかったトークイベント
◆ベルリン映画祭で上映されたことについて
黒沢監督
今年のベルリン映画祭で上映されたことは非常に嬉しいことだった。ベルリンは他の映画祭と比べると客層がおとなしく、真面目な作品が多いなか、本作のような不気味な物語は新鮮だったと思う。友人からは一番面白かったと言われた。
◆主演に吉岡睦男さんを抜擢した理由
黒沢監督
吉岡さんはピンク映画からTVドラマまで幅広く活躍されていますが、あるとき、吉岡さんの演技を偶然見かけて、この人すごいな、追い詰められたようなギリギリの演技をする素晴らしい俳優だなぁ、と気になる存在だった。
そこでプロットが完成した時点で、主演は吉岡さんしかいない、とすぐにオファーした。
吉岡さん
主演のオファー受けたときは、
喜び、疑心暗鬼、狂信乱舞という感情が押し寄せてきた。嬉しいことに変わりはないが、今まで廃人や生き埋めの役を経験したので、信じられなかった。
◆タイトルについて
黒沢監督
タイトル模索中のとき、「料理人」にするか迷っており、川村プロデューサーに案を聞いたら「チャイム」はどうか?と提案された。
それを受けてプロットを少し書き直し、チャイムの音を付け加えた。その結果、物語全体に筋が通り、上手くまとまった。
◆演技指導について
黒沢監督
希望通りの演技を求めるときは、演者さんに参考作品を示すこともあるが、今回はそれに匹敵する作品がなかった。ただ唯一、松岡が死体を埋めたあとに橋を走るシーンは参考になるものを示した。その作品は、
「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」でマーゴット・ロビーが悪と戦闘する際の全力疾走をイメージとして伝えた。
吉岡さん
走り方以外でもアドバイスを受けたが、
様々なスタイルの監督がいるなか、黒沢清監督は常に冷静で威圧感がない。そばに来てくださり、俳優へリスペクトをしながらアドバイスをしてくれた。
◆音について
黒沢監督
音には相当こだわった。
終盤の爆音については、とにかく変な映画に仕上げたかったので、怖い音だとホラー、クラシックだとアートのイメージが付いてしまう。
曖昧さがハッキリしてしまうので、あえて常識が破壊された音を音楽担当の渡邉さんにオーダーした。
八方塞がりの主人公が抑圧から解放された様子をより強調できたと思う。因みに渡邉さんは次作の「Cloud クラウド」にも参加している。
◆ポスタービジュアルについて
黒沢監督
主人公が、作中で描かれるシーンとは逆向きに歩く様子がポスターとして採用されているが、実は2テイク目を撮るために戻っているところで、演技ではない。逆じゃない?と気づいたがそのまま採用した。
吉岡さん
ポスターに映る私はスタート地点に戻るのに疲れています。
◆美術、技術面について
黒沢監督
人を包丁で刺すシーンがあるので、当然、血が出る。血だまりなどは掃除が大変なので、美術スタッフが血だまりに見えるプラスチックの板を用意してくれて、カットが掛かったらプラ板を回収するだけで済んだ。とても画期的なアイテムだった。
料理教室の生徒が自ら首を包丁で刺すシーンは、細心の注意を払った。刃が引っ込むオモチャの包丁を制作、腕にパイプを通して、刺すと同時に血を流した。どうしてもオモチャに見えてしまう包丁はCGで本物に近づけた。
◆最後に監督から一言
黒沢監督
楽しい現場でしたが、映画のストーリーは救いようのない話し。それでも主人公の一抹の希望や自由、晴れやかな気持ちを感じてほしい。友人にもそう伝えてください。ちなみにメイキング映像は本編より長いです。
長文を読んで頂き
ありがとうございました😄
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投稿を表示監督、私も一度拝見したんだけど、その時前田敦子ちゃんと並んでたから、凄くお顔が大きいのねって印象よ笑
監督作品、これ以外も最近は『蛇の道』や『cloud』もこれからあるね。
ノッテるよね!
この田畑智子の写りが若い頃の樹木希林に見えたんですが、私だけ?
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投稿を表示おお〜!!!!!
めちゃんこ面白そう!!!!!
こういうの大好きなんですよね😍😍😍
幽霊なのか幽霊じゃないのか…ミステリー要素が溢れてますね❤️🔥
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投稿を表示いよいよ菊川に行く日が来ましたか。
黒沢清監督の作品は個人的には当たり外れがあるので、
当たればいいな…
(ぶっちゃけ打率低い)
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