「バービー」とグレタ・ガーウィグの世界
現在映画館で上映中の「バービー」。
アメリカの歴史ある女の子向けおもちゃである「バービー人形」の世界を、マーゴット・ロビー主演で実写で再現した異色の作品です。
予告編見ても、原色ピンクのド派手な世界。
いかにも女の子向けのキラキラ映画に見えて、普通だったら自分に向いた映画じゃないかな…と思ってパスしちゃうところですが。
いや、観ねば!と思ってしまうのは、監督がグレタ・ガーウィグだから。
グレタ・ガーウィグは女優出身。
2017年の「レディ・バード」以降は監督/脚本にも進出し、今回の「バービー」は3本目になります。
これまでの2本とも、非常に才気走って個性的な傑作なんですよ。
明るいユーモア感覚と鋭い社会批判、シニカルな風刺精神、アバンギャルドな実験性。
映画としての冒険に満ちた、とても刺激的な映画を作る作家なのです。
だから「バービー」も単なるキラキラムービーであるわけがない!のです。
監督デビュー作である「レディ・バード」は、シアーシャ・ローナン主演で、田舎町を出て都会へ行きたい女子高生の卒業へ向けての1年間を描いた青春映画。
髪を赤く染めて本名を嫌がってレディ・バードと名乗り、「特別」でありたいと願う女の子が、母親との確執を経て成長していく。
大きな出来事は起こらない、本当に等身大の青春を描いていく中で、アメリカの田舎町で若い女性であることの様々な側面が、少しずつ見えてきます。
でもそれも、真面目くさった形ではなくてね。明るく、毒舌ギャグを織り交ぜながら、オフビートなハイテンポで描いていく。
映画としての快感が高いのです。
2作目は「ストーリー・オブ・マイライフ/私の若草物語」。
古典的な少女小説の名作「若草物語」の映画化です。
前作に引き続いて、シアーシャ・ローナンが主演。フローレンス・ピュー、エマ・ワトソン、ティモシー・シャラメらが共演しています。
古典の映画化で文芸作品になりそうなところだけど、独自の視点で疾走感ある物語になっています。
「若草物語」と言えば四姉妹のドラマだけど、本作では主人公が作家になる、自己実現の過程に焦点が当てられているんですね。
女性にとって、自立して身を立てるなんて娼婦になるか女優になるくらいしかない…とされていた19世紀を舞台に、男に頼らず自分を表現していく主人公を描く。
現代に通じるテーマ性を持った映画になっています。
それぞれ題材は大きく違うのですが、女性を主人公に、男性優位の社会の中で女性であることを描いていくという点では、共通するものになっています。
シニカルなギャグに笑い、映画的な高揚を楽しみながら、思わぬ気づきに出会ってハッとさせられる。それがグレタ・ガーウィグ監督の作風ですね。
特に僕は男性なので、女性から見た世界のあり方に気づかされて、本当にドキッとさせられるんですよね。
だから「バービー」も、男性にこそ観て欲しい。
堅苦しいフェミニズムがどうのこうの…ではなくて、楽しく笑いながら、思わぬ発見が得られると思いますよ。