男と女の溝に目を向けてはいけない⁈
みなさんこんにちは♪
『ポップコーン片手に🍿』かこです😄
今回のコラムは、劇場公開と同時に一部配信もスタートした『12日の殺人』です。
さてどのような内容なのでしょうか、早速いってみましょう!
なお本コラムはネタバレをしていますので、
鑑賞予定のかたはご注意下さい。
テーマは "未解決事件"
フランスのアカデミー賞に相当するセザール賞2022で、最優秀作品賞、最優秀監督賞をはじめ見事最多の6冠に輝いた本作。殺人事件の解決を目的としただけでなく、捜査によって心身ともに影響を受けた刑事たちの内面を描いた作品でもあります。
監督/ドミニク・モル
主演/バスティアン・ブイヨン
ブーリ・ランネール
ーあらすじー
10月12日の夜、女子大生クララが焼死体で発見された。捜査の担当者は昇進したばかりの刑事ヨアンとベテラン刑事マルソー。2人はクララの周囲の容疑者となり得る関係者に聞き込みをするが、男たちは全員クララと関係を持っていたことが判明する。殺害は明らかに計画的な犯行であるにも関わらず、容疑者を特定することができない。捜査が行き詰まるなか、ヨアンは事件の闇へと飲み込まれていく。
あらすじにもあるように、
女子大学生クララが焼死体で発見、犯人と思われる男性は全員クララと関係を持っていた。
この部分だけ聞くと、クララが尻軽だから、相手にする男性が悪い、よくある男女間の問題、
など様々な意見に別れるだろう。しかしあまりにもショッキングな殺害方法、現場を見たら誰もが犯人や事件の真相を知りたいと思うのではないだろうか?私もそこを刺激された一人だ。
が、冒頭のテロップでも表記されるように本作は未解決事件、事件の解決だけを期待してしまうと不完全燃焼で終わってしまう。
今回クララ殺害事件の担当をするのが、若手刑事ヨアンとベテラン刑事のマルソー。
二人ともやや熱血だが、ヨアンは生真面目、マルソーは頑固、と言ったところだろうか。
マルソーは妻が不倫し妊娠、夫婦関係が崩壊寸前で起きた事件。性に対し自由奔放なクララと妻の不倫相手を重ねているのか、あり得ない発言をするのだが、捜査を進めることで、妻が不倫に走ったことを正当化しようとしているように思えた。
男性容疑者のクララに対する接し方についてはクララではなく、おそらく妻と置き換えている。お前が不倫相手か!と言わんばかりに敵対心を丸出しにする。そして後輩の結婚に対してはネガティブな発言、ここまで来ると事件の事実だけを見ることは難しくなるだろう。
マルソーの偏った心に強烈な事件の捜査はやはり酷だった、次第に影響を受け生活全てが事件に支配されてしまう。そして何に対しても憎しみだけが募ってしまうのだ。
事件の影響を受けたのは相方のヨアンも同じだった。捜査に行き詰まると夜、趣味の自転車を猛スピードでトラックを何周もする。
同じ場所を走るだけでは新しい発見などは無いわけで、その様子は解決しない事件とリンクしていた。それに心が健康ならもっと色々な方面に目を向けられるはずだ、それが出来ないのは事件の影響で心も疲弊しているのだろう。
次第に判明していくクララの数多い異性関係も、容疑者かもしれない男たちはクララのことを"セフレ"としか思っていない。彼女がその気になった、押しが強いなど、今ありがちな同意の有無に通じるものがあるが、もはや死人に口無し、何とでも言えるのだ。
取り調べを受けたことを、家族や恋人には言わないで、と自分を守ることばかり、そんな容疑者たちを捜査のために隠さなければならない事も、同じ男性としてヨアンの心を蝕んでいく。
ある日、捜査協力のためヨアンに会ったクララの親友が「確かに彼女は自由なところもあったでも悪く言わないで、何故殺されたかわかる?それは女の子だからよ!」と泣きながら言い放つシーンがある。
男尊女卑を意味しているのか、とにかくどんな理由があったとしても人を殺していい訳がない。あまりにも核心を突いた女性の気持ちをヨアンが受け止めたかたちとなった。
ここで物語は3年後に切り替わる。
クララの命日が近づく頃、あることがキッカケで再び捜査が始まるのだ。新たにチームに加わった女性刑事もいる。
ヨアンが女性刑事に、何故現場という危険な場所に居るのか?と聞いたところ、本部に行っても男性が有利、人を殺すのも捜査するのも男性なのはおかしなこと、まるで男性の世界ね、と諦めに近い表情で答えた。
これはかなり鋭い視点で、ここでようやく事件解決の本質をとらえた人物が現れたと思った。
その本質とは何か、「男と女の溝」だ、彼女は仕事で溝を埋めようと現場を選んだのだ。
被害者クララ、クララと関係のあった複数の男たち、刑事ヨアンとマルソー。思いかえすと全て男女間の溝が原因で事件が起き、男女間の溝を見て捜査をしているのだ。
これは事件だけでなく恋愛に対しても埋めることのできない溝で、生きていく上で永遠のテーマなのだろう。
以前同僚だったマルソーがヨアンに、同じ場所を走らずたまには違う場所を自転車で走った方がいいとアドバイスをしていた。
その通りにヨアンが青空の下、爽快に自転車を走らせるシーンがある。とても穏やかな表情をしている。
未解決事件と謳っているように、本作で犯人は明らかになっていない。
事情聴取をした中に犯人がいた可能性もあるし、全く的外れな捜査だったという事もある。
しかし、違う道を自転車で漕ぎ出したヨアンの姿を見ると、ようやくマルソーを理解することができ、あらゆる溝や負のループから抜け出したことが分かる。気持ちの変化が事件の解決に繋がることを願うばかりだ。
正直なことを言うと、前作に比べるとインパクトが弱かったのは確かだ。しかし刑事のメンタル面の変化などを丁寧に描いているところや、
事件を通して女性の立場的理不尽さ等が描かれていて良い作品だった。
それに考察や心情を読むのが好きな私には興味深い内容だった。もちろんドミニク・モル監督の次回作も楽しみにしている。
本作鑑賞後に思い出した作品があるので簡単に紹介すると、まず1本目は「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」ローラと本作クララの行動や徐々に暴かれる性格に似ている点がある。
次は「ゾディアック」とても好きな映画だが、事件のアプローチや真相はいかに?といったゾクゾクする感じが似ている。
最後はアカデミー賞脚本賞の「落下の解剖学」
犯人云々より、関わる人たちの心情を描いた作品、という点で通じるものがある。
そして『12日の殺人』の前作「悪なき殺人」
こちらも良作!伏線回収や登場人物の繋がる様子がとても面白い。
英題だとONLY THE ANIMALS、内容から察すると動物だけが知っている、という事だと思うが実は今回も所々である動物が出くるのだ。
もしかしたらその動物が犯行の一部始終を目撃していたのかもしれない…
(悪なき殺人はSTAR CHANNEL MOVIESで配信)
インスタグラムでも本作について考察レビューをしています。遊びにきてください☺
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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