「スケアクロウ」(1973)
【追悼Gハックマン / バディ映画屈指の秀作 】
70年代以降のアメリカ映画界を牽引した名優ジーン・ハックマンが亡くなった。そこで今回は海兵隊出身者らしい大柄な身体が醸し出す独特の雰囲気により数々の作品で存在感を示してきた彼へ哀悼の意を込め、代表作「スケアクロウ」と「フレンチ・コネクション」に改めて目を通し往年の姿を回顧したい
私が「スケアクロウ」を観たのは学生時代によく通った池袋・文芸坐における「アメリカン・ニューシネマ特集」上映が最初だろう。次にTV放送で、そしてアル・パチーノ出演作を順に借りる自称「パチーノ・マラソン」を経ての再見になる。とは云えそれからゆうに30年近くは経過しているので鑑賞するのはかなり久しぶり
新天地で洗車業を始めんとする元受刑者マックスと出奔放浪の末に妻子のもとへ帰らんとするライオネル(=愛称ライオン)が西から東への米国横断過程で友情を育む展開は謂わばバディ物ロードムービーの定番的内容ではあるが、この脚本で秀逸なのは気難しくすぐにカッとなる前者が何事においても笑いを是と考える後者と行動を共にするうちに少しずつ優しさのにじむ人柄へと変化していく姿を描いている点が挙げられよう。そのことはオープニングとエンディングにおけるマックスの態度で明確に表されており、これだけ幕開けと幕引きがバッチリ決まった映画も数少ないのではと思わせる見事さにはただただ感心させられるばかりだ
自身の持つ喜劇センスを如何なく発揮したパチーノに呼応するかの如くここではハックマンが一世一代の名演技を披露。酒場で喧嘩を留まったマックスが音楽に合わせてストリップショーの真似を行う場面はまさに出色の出来栄え。長い経歴を誇るハックマンのベストアクティングに近いのではなかろうか
私からすると非の打ち所が殆どないようにも思える「スケアクロウ」。しかしながらパチーノのインタビュー本によれば当の本人は大いなる不満を抱いていたのがわかる
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「スケアクロウ」はおれの映画のキャリアでもっとも悲惨な経験だった。怠慢のいい見本だった。(中略)関係した人たちがほんとに変人ばかりだった。予算以下の仕事をしたがる連中で、寄ってたかって映画を駄目にしたんだ。脚本から消されたシーンもあった。予定より17日も早く撮影に入ってだぜ。そんなの、聞いたこともない。
(『AL PACINO』アルパチーノ+ローレンス・グローベル著 キネマ旬報社刊 153頁より抜粋)
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ハックマンとの仕事も楽ではなかったと同書で語るパチーノ。共にNYの名門アクターズ・スタジオで演技を学んだ彼らだが役柄に対する取り組み方に相違があったことはDVD収録のメイキングでも触れられていた。結果的にそうしたプロの拘りが二人の名コラボに繋がったとすれば映画ファンとしては単純に嬉しい限りでしかない
★★★★★★★★★☆
(2025-13)