元エリート警視監のセカンドライフと静かな田舎町をざわつかせるサスペンス『室井慎次 敗れざる者』
■室井慎次 敗れざる者
《作品データ》
1990年代後半から2000年代にかけてテレビドラマ、映画で話題になった織田裕二主演の「踊る大捜査線」シリーズ第7弾のヒューマンドラマ&サスペンス映画!かつて、警視庁でエリート街道を走っていた室井慎次は定年前に警察を退職し、地元秋田の古民家で事件の被害者家族・加害者家族の支援をしたい思いから、事件関係者の子供を引き取り、一緒に暮らしていた。ある日、室井が耕す畑の近くから異臭を感知し、地元の警察官と一緒に掘り起こすと、白骨化した遺体が掘り起こされ、静かな町に続々と警察官が駆けつけることに。主人公・室井慎次役を柳葉敏郎が演じ、他に福本莉子、齋藤潤、前山くうが、前山こうが、松下洸平、矢本悠馬、生駒里奈、丹生明里、松本岳、佐々木希、筧利夫、甲本雅裕、遠山俊也、西村直人、赤ペン瀧川、升毅、真矢ミキ、飯島直子、小沢仁志、木場勝己、稲森いずみ、いしだあゆみが出演。
・10月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
・配給:東宝
・上映時間:115分
【スタッフ】
監督:本広克行/脚本:君塚良一
【キャスト】
柳葉敏郎、福本莉子、齋藤潤、前山くうが、前山こうが、松下洸平、矢本悠馬、生駒里奈、丹生明里、松本岳、佐々木希、筧利夫、甲本雅裕、遠山俊也、西村直人、赤ペン瀧川、升毅、真矢ミキ、飯島直子、小沢仁志、木場勝己、稲森いずみ、いしだあゆみ
・HP:https://odoru.com/
《『室井慎次 敗れざる者』レビュー》
「踊る大捜査線」シリーズとしては2012年公開の『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』以来12年ぶり、室井慎次を主人公とした作品としては2005年の『容疑者 室井慎次』以来19年ぶりの作品となる『室井慎次 敗れざる者』。正直、かつてのテレビドラマ作品の久しぶりのスピンオフ映画で「踊る大捜査線」の同窓会映画かなと考えて軽い気持ちで見たら、確かに同窓会映画的なノリもあったが、それだけでは終わらせず、かつて警視監だった男が辿り着いた人間の温かさに溢れるセカンドライフや室井が預かる少年・少女らの揺れる心情にも触れたドラマや秋田の田舎の近隣住民との摩擦など、
これまでの「踊る大捜査線」シリーズにはなかった深い味わいが楽しめる!
スマホの電波すら届いていない秋田の田舎を舞台に、突如起こった変死体からの刑事ドラマとなるが、主人公の室井慎次は警察を引退した身のOBなので積極的に捜査に当たらず、血のつながりがない少年・少女らとの暮らしや折り合いが悪い地元民とのやり取りが展開される中から室井のかつての部下らから事件捜査に強く関わるよう引っ張られる。捉えようによっては刑事ドラマorサスペンスとしての進捗のテンポはよろしくないが、そこで室井慎次が葛藤してい来ながらまたまた新たな事が起こるというのが本作である。なので元警察のエリートのセカンドライフと「踊る大捜査線」シリーズの刑事ドラマが同居する作りになっていて、その塩梅が絶妙。
割合としては6:4か7:3で室井慎次のセカンドライフの方が強めの作品で、その手触りは近年のクリント・イーストウッド主演映画『グラン・トリノ』や『人生の特等席』、『運び屋』のような仕上がりと言いたい。そこに「踊る大捜査線」シリーズで織田裕二が演じる青島俊作とやり合ってた頃の室井慎次を思い起こしながら見ると、本作の室井慎次は人と人との繋がりや温かさに重点を置いたキャラクターとなっている。元々、テレビドラマ版の頃から厳しい雰囲気の室井が時折地元秋田ネタを絡めたゆるい雰囲気のシーンをチラリと見せていたが、本作はそれが大爆発したようにヒューマンドラマ色が強い作風になっている。
こうした室井慎次のドラマに事件遺児の高校2年と小学校低学年の少年、途中から16歳の少女が加わり、古民家シェアハウスの暮らしを見る。進路に思春期恋愛と多感な高2とまだまだ腕白さが残る小学校低学年の男の子と室井慎次のやり取りはまさしく血の繋がりがない擬似親子といった趣。
もちろん、「踊る大捜査線」シリーズなので、歴代の「踊る〜」のキャラの出演や名シーンのプレイバック挿入など、「踊る大捜査線」シリーズのレガシーを存分に活用。また、矢本悠馬が演じた地元駐在の乃木をコメディリリーフとして起用したり、劇場版2作目のレインボーブリッジの案件をこするようにネタにしたり、「踊る〜」シリーズらしいコメディ演出が見られる。
もう一つ特筆したいのが、各飲食のシーンが非常に綺麗で丁寧であること。鍋物を食べるシーンやオムレツ、高2の思春期恋愛の弁当、そしてかつての同僚とウイスキーを酌み交わすシーンなどどれも印象に残る。室井が農作業をやっていることもあって気合が入った食卓シーンが多いが、普通にカレーのシーンもあり、グルメというよりは等身大の美味しい食卓といった感じで好感が持てる。
後編に当たる『室井慎次 生き続ける者』の方がサスペンス、アクション色が強めな気もするが、ヒューマンドラマが強めの元エリート警視監のセカンドライフとしてもあらゆる角度でクオリティが高い。