押山清高監督作品『ルックバック』に感じられたもの
■ルックバック
〈作品データ〉
「チェーンソーマン」などを手掛けた藤本タツキ原作で「少年ジャンプ+」にて2021年7月19日に公開された長編漫画を押山清高監督により劇場アニメ映画化された青春ストーリー。小学4年生の藤野は学級新聞に4コマ漫画を描き、クラス中から称賛を受けていたが、担任の先生の発案で隣のクラスの不登校児・京本にも4コマ漫画を描いてもらうことに。すると、次の学級新聞で京本の4コマ漫画を見た藤野は衝撃を受け、画力を上げるためにより絵と漫画制作に没頭する。主人公・藤野の声をテレビドラマ「不適切にもほどがある!」の河合優実が演じ、京本役を『あつい胸さわぎ』や『カムイのうた』の吉田美月喜が演じる。
・6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
・上映時間:58分
・配給:エイベックス・ピクチャーズ
【スタッフ】
監督・脚本:押山清高
【キャスト】
河合優実、吉田美月喜
公式HP:https://lookback-anime.com/
〈『ルックバック』考察〉
今回、スクリーンにて複数回見た。藤本タツキ原作、河合優実主演、押山清高監督作品の『ルックバック』は実写映画からの切り込みをも許容し、
複数回見たくなる作品に仕上がっている上に、2回目から新海誠監督作品の影がチラついて見えてきた。
まず、気になったのはピンクや黄緑、黄色といった
パステルカラーを色彩の中心に据えたカラー設計である。
そりゃ、1970年代以降の作品なんだからカラーで当然で、それ自体は珍しくはないが、その色彩の使い方は独特と言えよう。感覚的には70年代や80年代に流行った山下達郎や大瀧詠一、大貫妙子といったアーティストのアルバム作品のジャケットに近い。その上ポイントになるのは近いのはあくまでも色彩だけで、世界観は別という所にある。
それと、これはどちらかというとアニメ映画としてよりも藤本タツキ原作への評価になるが、力が入った背景の絵や『バタフライ・エフェクト』や『ラ・ラ・ランド』といった映画作品への影響を感じる辺りは藤本タツキの原作の面白さをアニメ映画でも上手く伝えられた、と考えられる。
これらは初見から感じられたが、複数回見ると藤野の最初の4コマ漫画のオチの元ネタがレオナルド・ディカプリオ主演の『ドント・ルック・アップ』っぽいものと感じたり、あと特に藤野に出会って、外に遊びに出るようになった京本の変化はイタリア映画の名作のフェデリコ・フェリーニ監督作品『道』のジェルソミーナに感じられたそれに近い。偶然だが、今年1月に見たヨルゴス・ランティモス監督作品『哀れなるものたち』のエマ・ストーンが演じた主人公・ベラにも同様のものが感じられたが、これは当然影響ではなくシンクロニシティか?
あと、アニメ映画としての感触としては、雨や室内の廊下の光沢などの背景画の力の入りように対して、
新海誠監督の『言の葉の庭』を初めて見た時のことを思い起こさせた。
しかしながら、『言の葉の庭』の時と違って、藤本タツキの原作とあって展開、後半のSF的な仕掛けが面白く、『言の葉の庭』のように背景画のみに頼るようなことをしなかったことを挙げたい。つまり、絵だけでなく中身そのものも十分に楽しめる。尤も、新海誠監督も皆さんご存知の『君の名は。』で革命的なレベルアップを果たし、アニメ映画界のトップランナーの一人になったが、今回の押山清高監督の『ルックバック』は少なくとも『言の葉の庭』以上の手応えを感じている。
その上、昨今の新海誠監督作品のような企業とのコラボも現段階ではないので、非常にクリアな、岩清水のようなアニメ映画に仕上がっている。それでいながら、藤野と京本が都市に遊びに行くシーンは不思議と新海誠監督の『君の名は。』の東京のシーンに感じられたハイティーンや20代の細やかな青春という部分で通じるものがある。
メインの舞台が東北の秋田や山形と地方を使うあたりもどことなく新海誠監督作品の匂いに近い。
今後、押山清高監督の長編、中編映画作品は要注目したい。
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投稿を表示小川さんの最後の一言、めちゃくちゃ刺さりました。確かに日本のアニメ監督に並ぶ、1人になりそうですね!
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