懐古 アメリカ映画の「1979年」
昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。 「1960年」を初回に、前回「1978年」まで19回にわたって当時の名作に触れてきた。 今回は、家族の絆を描いた「クレイマー、クレイマー」や、社会問題をテーマにした「チャイナ・シンドローム」、「ノーマ・レイ」、そして新たなSF映画の誕生となった「エイリアン」が公開された「1979年」(昭和54年)の話題作をご紹介したい。
「クレイマー、クレイマー」 監督:ロバート・ベントン
第52回 アカデミー賞・作品賞受賞
女房が突然 ‘自分を取り戻したい’ と家を出たため、仕事と幼い息子の子育てを強いられた男の悪戦苦闘ぶりを感動的に描いている。


結婚8年目を迎えるテッド(ダスティン・ホフマン)とジョアンナ(メリル・ストリープ)のクレイマー夫妻には、7歳になる息子ビリー(ジャスティン・ヘンリー)がいたが、ある日突然、ジョアンナが、 ‘自分自身を見つめたい’ と家出してしまう。それまで仕事人間だったテッドは、家事と育児に追われておおわらわの毎日。それにも慣れ、やっと息子との愛情が確立できたかと思った矢先、今度は妻がビリーを引き取りたいと要求してくるのだが...。
テッドの父親修行を象徴するのが、フレンチ・トーストの作り方で、妻が出て行って初めて作った時はとても食べられる代物ではなかった。 しかしラストでは父と子のチームワークで見事な出来栄えになっている。このエピソードを代表とする微笑ましさが、深刻な内容を和らげている。
ダスティン・ホフマンの抑えた演技、メリル・ストリープの目を真っ赤に腫らした熱演はさすがというほかないが、当時8歳のジャスティン・ヘンリーが素晴らしい。まったく自然体の演技で、彼の好演が本作を成功させた最大の要因であることは間違いない。 時代を超えて、いつの世にも見直したい感動作である。
「チャイナ・シンドローム」 監督:ジェームズ・ブリッジス
チャイナ・シンドロームと呼ばれる原子力発電所の最悪の事故、炉心融解の恐怖を描いた社会派ドラマ。


ロサンゼルスのテレビ局の人気ニュース・キャスター、キンバリー(ジェーン・フォンダ)は、カメラマンのリチャード(マイケル・ダグラス)とともに最新の原子力発電所の取材に出かけるが、突然、所内に振動が起こり、制御室が大騒ぎとなる。キンバリーは、放射能漏れが発覚し原子炉の運転が停止される一部始終をフィルムに収めたが、局のプロデューサー、ジャコビッチ(ピーター・ドゥナット)に押さえられて、放送は出来なかった。不満なリチャードは、そのフィルムを物理学者に見せる。一方、発電所の初老技師ジャック(ジャック・レモン)は、不安な予感を抱いていた。
この映画が公開された年、映画を地で行くような事故が起きている。アメリカ・ペンシルベニア州のスリーマイル島の原子力発電所で、事故による深刻な放射能漏れが発生したのだ。幸い、最悪の事態であるメルトダウン(炉心融解)は起こさないまま原子炉は活動を停止したが、あまりにも現実そのものの映画内容に、本作は大きな話題となり大ヒットを記録した。
又、本作公開から7年後の1986年、ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で、スリーマイル事故をはるかに凌ぐ最悪の事故が勃発した。部分的なメルトダウンを起こして大量の放射能が流れ出し、多くの死者を出してしまったのだ。そして我が国にも...現実は軽々とフィクションを超え、しかも問題は何ら解決していない。この不幸で悲しい現実とどう向き合えばいいのだろうか...
「地獄の黙示録」 監督:フランシス・フォード・コッポラ
ベトナム戦争を背景に、未開の風土の中で倫理や価値観を見失っていく人々の姿を描いた戦争超大作で、壮大な叙事詩ともいえる。


1960年代末のベトナム。サイゴンのホテルから情報司令部へ呼び出されたウィラード大尉(マーチン・シーン)は、特殊部隊の作戦将校カーツ大佐(マーロン・ブランド)の暗殺を命じられた。カーツは現地人部隊を組織、訓練するためにジャングルの奥地に潜入したが、後方との連絡を断ち、自らの王国を築いてその支配者に君臨しているという。ウィラードは4人の部下と共に巡回艇で河を遡っていくが、危険区域通過の護衛を依頼すべく、空軍騎兵隊のキルゴア大佐(ロバート・デュヴァル)を訪ねるのだが...。
この映画はベトナム戦争をアメリカ側のみから描くことに徹している。
撮影は76年3月に、フィリピンのジャングルを切り開いてセットを作ることから始まった。
だが、膨大な機材の搬入や、ヘリ、ボートの調達に時間を要したうえ、台風が撮影現場を直撃した。
数カ月の撮影中断を経て再開されたものの、実質238日、中断期間を含めると14カ月かかったと言われている。
又、コッポラ監督はノイローゼに陥り、マーチン・シーンは心臓発作で入院したりと、苦闘の連続であった。
ドラッグとロックに逃げ場を求めた、最前線の兵士たちの狂気を見事に映し出しており、ワーグナーの「ワルキューレ」、ドアーズの「ジ・エンド」、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」といった音楽の使い方も実に効果的である。
「ノーマ・レイ」 監督:マーティン・リット
無知で自堕落な女工員が、組合活動を通じて自分に自信を持つようになり、堂々たる女性に成長していく姿を描いた人間ドラマ。秀作である。


アメリカ南部の保守的な町で紡績工場に勤めているノーマ・レイ(サリー・フィールド)は、2人の子供がありながらだらしない生活を送っている。ノーマの父親バーノン(パット・ヒングル)と母親リオナ(バーバラ・バクスレー)も、同じ紡績工場で働いているが、年老いて疲労困憊である。そんなある日、ニューヨークに本部がある紡績工員労働組合から派遣されてきたユダヤ人のルーベン(ロン・リーブマン)が現れ、組合の無いこの工場に組合をつくるべく運動を始めた。彼の熱心な行動に心を動かされたノーマは、やがて彼の協力者となって組合結成に熱中するのだが...。
サリー・フィールドが演技開眼した作品であり、彼女のキャリアのターニング・ポイントともなった。男にちょっとルーズだが、労働組合運動に目覚めて、ユニオンのプラカードを掲げて一人立ち上がる姿が感動的だ。スター然していないのも功を奏し、見事アカデミー主演女優賞に輝いた。
「エイリアン」 監督:リドリー・スコット
宇宙空間で異星人と遭遇した宇宙船乗組員の恐怖を描いたSFアクションの傑作。


西暦2122年のこと。宇宙貨物船ノストロモ号は恒星系での任務を終え、地球に帰還するところだ。乗組員はダラス船長(トム・スケリット)、機関長ブレット(ハリー・ディーン・スタントン)、一等航海士ケイン(ジョン・ハート)、科学者アッシュ(イアン・ホルム)、技師パーカー(ヤフェット・コットー)、そして二等航海士リプリー(シガニー・ウィーヴァー)、操縦士ランバート(ヴェロニカ・カートライト)の7名である。帰還途中、ノストロモ号は謎の緊急信号を傍受した。発信源である惑星に向かい、発信元の宇宙船を調査したところ、床一面に卵状の物体があり、そこから異様な生物が飛び出して乗組員の一人の顔面に付着する。
世にもグロテスクで、見る者に吐き気をもよおさせるようなモンスターが登場した。
緊迫感と恐怖に満ち溢れ、初めは乗組員の腹から飛び出し、変態を繰り返しながら成長していく怪物の醜悪さに、見る者はみな度肝を抜かれたはずだ。
エイリアンの剥き出しの歯、垂れ流される唾液、おぞましいばかりの寄生の仕方、爬虫類と機械をミックスさせたような独特の形態が、逆にリアリティを増幅させている。
リプリーを演じたシガニー・ウィーヴァーは、それまで無名の脇役女優であったが、男性をリードして闘うという新しいヒロイン像を熱演し、本作がスター女優への貴重なステップとなった。
ランバート操縦士に扮したヴェロニカ・カートライトは、63年「鳥」に、子役で出演していたのを知る人は少ないのでは?...
「オール・ザット・ジャズ」 監督:ボブ・フォッシー
カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
ブロードウェイ・ミュージカルの演出家を主人公に、ショー・ビジネスの世界の表裏を描いた、ボブ・フォッシーの自伝的映画。


幼い頃からショー・ビジネスの世界で成功を収めてきた舞台演出家兼振付師のジョー・ギデオン(ロイ・シャイダー)は、新作のミュージカルのアイデアに苦心していた。酒と女に溺れたジョーは、ボロボロの身体を多量の薬でカバーし、不規則な生活を続けていた。過労で心臓発作を起こしたジョーは、ベッドの上でこれまでの人生を振り返る。
それまでの伝統的なミュージカル映画のような、歌って踊ってというシーンは少ない。
配役もミュージカルとしては異色で、主人公の演出家を演じるのは、それまで渋くて頼りになる男という印象が強かったロイ・シャイダーである。
又、 ‘死の天使’ として登場するのは、 ‘キングコングの恋人’ としてのみ、その名を知られていたジェシカ・ラングである。
彼女は本作をきっかけに演技派女優の道を歩き始めたのだ。
共演陣は、CCH・パウンダー、リーランド・パーマー、ジョン・リスゴウ、キース・ゴードンといった面々。
「アルカトラズからの脱出」 監督:ドン・シーゲル
1963年に閉鎖されるまで、脱出不可能と言われていたアルカトラズ刑務所からの脱出を試みた男たちの実話を、サスペンス・タッチで描く。


サンフランシスコ湾内のアルカトラズ島へ、囚人フランク・モリス(クリント・イーストウッド)が送り込まれた。ここの刑務所は厄介な受刑者ばかりが収容されており、冷酷なウォーデン所長(パトリック・マッグーハン)の下、厳重な警備体制が敷かれていた。主な囚人たちは、絵を描くのが趣味のドク(ロバーツ・ブロッサム)、ネズミをペットにしているリトマス(フランク・ロンジオ)、話好きのチャーリー(ラリー・ハンキン)、そして図書館の係員をしている黒人イングリッシュ(ポール・ベンジャミン)らである。今まで各刑務所で脱獄を繰り返してきたフランクは、ここアルカトラズでも、ある兄弟と協力して、周到な脱獄計画を進めていくのだが...。
本作は脱獄までのプロセスを丹念に描写、その中で紡ぎだされるサスペンスの数々は、何度見ても唸らされる。絵を描くことを取り上げられた囚人ドクが、斧で自ら指を切断するシーン、ナイフを手にフランクを狙うウルフ(ブルース・M・フィシャー)を食い止めるイングリッシュ、紙粘土で造った人形を身代わりに仕立て、脱出準備を行うシーンの緊迫感など尋常ではない。
イーストウッドのキャラクターに代弁されるが如く、静かな淡々とした作品で、決して派手なものではないが、ドン・シーゲル監督の確かな演出が存分に味わえる逸品だ。
ポール・ベンジャミンが、イーストウッドを助ける最高に渋い演技をみせており、数少ない二人の会話も胸につまる。
上記に挙げた以外の作品では、「ヤング・ゼネレーション」、「ジャスティス」、「チャンス」、「悪魔の棲む家」、「ロッキー2」、「テン」、「スター・トレック」、「メテオ」、「チャンプ」といった作品が印象深い。
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投稿を表示洋画さん。
ついに映画史も1979年まで来ましたね。この辺になると私でも知っている映画や観たことのある映画が沢山あります。
ご紹介の作品の中では、「ノーマ・レイ」と「オール・ザット・ジャズ」が未見です。
「クレイマー、クレイマー」のフレンチ・トーストは、思い出すだけでほっこりしますね。
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投稿を表示「クレーマー、クレーマー」のビリーは良かったですね。