ジャック・ニコルソン風味の囚われのアーサーとアナログレコードのB面楽曲の味わい『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
〈『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』レビュー〉
2019年公開作品で、多くの方が年間映画ベストテンのトップ、もしくは上位に選ぶほど世界中の映画ファンを熱狂させたホアキン・フェニックス主演、トッド・フィリップス監督作品『ジョーカー』。あの映画1本だけでも十分完成されているのにも関わらず、その続編作品として世に送り出した『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。本作はストーリーの“起承転結”の“起承転”までが前作『ジョーカー』とはまるで性質・方向性が異なる映画なので、前作の後半から終盤の部分の発展型を期待したファンからすれば大いに失望しかねないが、本作の性質をしっかり掴みとれば前作ほど熱狂、興奮とはいかないまでも
『ジョーカー』の続編としてはしっかりと楽しめる。
まず、本作は前作『ジョーカー』のラストから2年後の話で、約7割がアーサー・フレックが収容されているアーカム州立病院内でのエピソード、2割が法定シーンで構成されている。アーカム州立病院は病院とはいっても常に刑務官のような警備員が厳しく収容者を見ている施設で、裁判を控える犯罪者達の拘置所兼精神病院といった感じ。そして裁判所での裁判のシーンも併せてだが、およそ9割以上のシーンにおいて、アーサーは警備員や警察などに常に監視されながらの行動になる。
この不自由さが本作の味わいであり、中盤までのアーサーに勢いがないという本作の弱点にもつながる。逆に言えば、『ジョーカー』はアーサー/ジョーカーに対して行動の制限がなかったから色々と思い切りの良さがあり、この部分からしても本作は前作と比べてどうしても見劣りしてしまう。
こうした中で、レディ・ガガが演じるリーの存在や行動、アーサー&リーのミュージカルシーンによってアーサー、というか本作のストーリーそのものに色をつけ、独自性まで出している。ミュージカルシーンはレディ・ガガの起用が最大限に活かされたもので、ホアキン・フェニックスもそれなりの歌とダンスを披露し、ミュージカルが好きならばちゃんとした見所になっている。が、ミュージカル演出全般が苦手な方には目障りに映り、いわば諸刃の剣の演出である。
中盤から法定シーンが何回かあり、このシーンが出る度にアーサーが徐々にジョーカーらしさを取り戻す。法定から病院に戻る度、そして再び法定に戻る度に収容者たちや傍聴者、世間に対する悪のカリスマ性を帯びる。この時のミュージカルシーンの使い方はアーサーの空想・願望を映像化したもので、これは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『シカゴ』のミュージカルシーンにも通じる演出で、そこにもジョーカーらしさがある。
また、ザジー・ビーツが演じるソフィー・デュモンや、ミゼットのゲイリー・パドルズといった前作の重要人物と対峙するシーンもあり、よりアーサーの内面が深掘りされている。
アーカム州立病院全体の雰囲気や薬を服用するシーン、収容者たちのカリスマになる当たりなどミロス・フォアマン監督作品『カッコーの巣の上で』のオマージュが多々感じられ、ロバート・デ・ニーロの様だった『ジョーカー』に対して、本作のアーサーは『カッコーの巣の上で』のジャック・ニコルソンに被る。
それと母親とアーサーの関係における『サイコ』のノーマン・ベイツの匂わせも前作以上に感じられる。
似たような作りのシリーズ作品が量産されることが見受けられる昨今の映画界において、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は異なる味わいの続編作品で、その点で思い切った方向転換である。CDどころか、配信・サブスクの音楽事情から分かりにくいかもしれないが、
カラッとした『ジョーカー』がアナログレコードのA面なら、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』はB面であり、A面楽曲とはまた違ったB面楽曲の良さを味わってほしい。
■ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
《作品データ》
2019年に公開し、世界を熱狂の渦に巻き込んだホアキン・フェニックス主演、トッド・フィリップス監督作品『ジョーカー』の続編に当たるミュージカル&法定ドラマ&犯罪者のヒューマンドラマ!テレビの生放送中に人気コメディアンのマニー・フランクリンを殺害した“ジョーカー”ことアーサー・フレックは事件から2年後、アーカム州立病院のE棟に収容され、鬱屈とした日々を送っていた。ある日、アーサーは病院内の音楽室で歌うリーが気になって接触し、以降度々二人で行動をとるようになる。アーサー役をホアキン・フェニックス、リー役をレディ・ガガが演じ、他にブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナー、ザジー・ビーツ、スティーヴ・クーガン、ハーリー・ローティー、リー・ギル、ケン・レオン、ジェイコブ・ロフランド、ビル・スミトロヴィッチ、シャロン・ワシントンが出演。
・10月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国順次ロードショー【PG12】
・上映時間:138分
・配給:ワーナー・ブラザース映画
【スタッフ】
監督・脚本・製作:トッド・フィリップス/脚本:スコット・シルバー
【キャスト】
ホアキン・フェニックス、レディ・ガガ、ブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナー、ザジー・ビーツ、スティーヴ・クーガン、ハーリー・ローティー、リー・ギル、ケン・レオン、ジェイコブ・ロフランド、ビル・スミトロヴィッチ、シャロン・ワシントン
原題:Joker: Folie à Deux/製作国:アメリカ/製作年:2024年
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投稿を表示こんにちは。
前作はアナログレコードのA面ならば
本作はアナログレコードのB面という表現に唸らされてしまいました。
言い得て妙です!素晴らしい!
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