誘惑こそ復讐
イギリス製リベンジ・スリラー
映画『FEMME フェム』
本作はネイサン・スチュワート=ジャレットとジョージ・マッケイの演技が光る、感情の渦に翻弄される衝撃的な作品だ。
復讐、欲望、愛憎が絡み合い、私達をスリリングで予測不能な展開へと引き込んでいく。
今回オンライン試写で鑑賞させて頂き、筆者が感じた見どころを紹介する。

【あらすじ】
差別的な動機から若い男に暴力を振るわれ心身に深い傷を負ったドラァグパフォーマーが、ゲイサウナで偶然再会した男に復讐すべく、自分の正体に気づかない相手を誘惑し、深い関係になっていく中で、思いがけず愛と憎しみの狭間で複雑な感情に揺れ動いていくさまを、過激な性愛描写とともにスリリングに描きだす。
(allcinemaより引用)
【目次】
・仮面が剥がれたあと
・ジュールズの心の葛藤
・俳優の見事な演技
仮面が剥がれたあと
まず、ジュールズの華やかなドラァグクイーンの姿と、プレストンの屈強な男らしさ、それは自分を守る「仮面」だ。しかしある理由から剥がれ落ち、隠していたはずのセクシュアリティが表面化する。
注目したいポイントはその後の二人の変化だ。 本質を共有できた喜びと、再び仮面を被らざるを得ない脆さが、胸を打つ。
内容は違えど、ありのままの自分を曝け出す怖さから自身を偽って生きている人も多いのではないだろうか。「誰もが持つ仮面」という普遍的なテーマに共感できる。


ジュールズの心の葛藤
ジュールズとプレストンの間に生じる、言語化しがたい引力。人を愛する経験を持つ人であれば、理解しうる感情だろう。
本作ではそこに愛と憎しみ、復讐と赦しと言った、相反する感情が加わる。
本来の目的である復讐と、プレストンへの複雑な感情の間で揺れ動くジュールズ、その様子が鮮やかに描かれている。そして被害者と加害者という関係性以外にも、愛と憎しみの意味も曖昧になり、物語はより深い人間ドラマへ進んでいく。

俳優の見事な演技
最後のポイントは俳優の演技だ。
演じるのはネイサン・スチュワート=ジャレットとジョージ・マッケイ。
本作の素晴らしさは、二人の演技によって引き出されていると言っても過言ではない。
二人の俳優は、繊細な仕草、視線、言葉にならない間(ま)を通して、複雑な心理描写を見事に体現している。訪れる感情のコントラストを丁寧に描き出す演技は必見だ。


ジュールズが最終的に下した勇気ある決断は、彼自身のアイデンティティを再構築するためには必要不可欠だったのかもしれない。しかしその決断でプレストンもアイデンティティを失いかけた事が想像できる。
二人が怒りをぶつけ合う激しい衝突は、愛していたからこそ、ようやく心の拠り所を見つけたからこそ起きたことだ。そこには、愛と憎しみが表裏一体であることを痛感させる、痛々しいまでの感情の爆発があった。
映画『FEMME フェム』は、単なる復讐劇や恋愛映画といった枠には収まりきらない、多層的で複雑な作品だ。愛と憎しみの間で、人間はどのような選択をするのか。人間の心に潜む感情を鮮やかに描き出し、私たちの倫理観も揺さぶる、衝撃的な体験を与えてくれる。この衝撃をぜひ劇場で!
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、ロードショー
公式サイト
https://klockworx.com/movies/femme/
監督・脚本:サム・H・フリーマン
ン・チュンピン
出演:ネイサン・スチュアート=ジャレット
ジョージ・マッケイ
アーロン・ヘファーナン
ジョン・マクリー
アシャ・リード
製作:ヘイリー・ウィリアムズ&
ディミトリス・ビルビリス
撮影:ジェームズ・ローズ
編集:セリーナ・マッカーサー プロダクション
デザイン:クリストファー・メルグラム
衣装:ブキ・エビエスワ
音楽:アダム・ヤノタ・ブゾウスキ
コピーライト
© British Broadcasting Corporation and Agile Femme Limited 2022
2023年|イギリス|英語198分|カラー|シネマスコープ 15.1ch|原題:FEMME
字幕翻訳:平井かおり|レイティング:R18+|配給:クロックワークス