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2025/03/18 09:55

【離脱感0の没入体験】自然の”生きる”声を聴く『光る川』

(C)⻑良川スタンドバイミーの会

一足先に3月22日(土)よりユーロスペース他全国順次公開の『光る川』を試写させていただいた。1つの作品の中でここまで”離脱感0”で108分没入できる作品は近年稀にみる高密度・高繊細な仕上がりだ。「自然を体験できる」という甘い表現ではなく、10cmほどの距離にある自然の臨場感と解像度と、あまり聞き馴染みのない生々しい自然の音が、観客を離脱させない表現力に繋がっている。劇場で観ることによる集中が活かされるこの映画、是非鑑賞して欲しい。


【目次】
昔話の定番路線から外れる新展開
自然が起こす反響スピーカー
離脱感0なる表現力


■概要
物語の根幹を⽀える⼥性・お葉を演じるのは NETFLIX『シティーハンター』くるみ役で注⽬を集めた華村あすか。お葉との悲恋 の相⼿・朔にモデルとしてのみならず2022年NHK朝の連続テレビ⼩説「舞いあがれ︕」章兄ちゃん役などで俳優としても活躍の場を広げている葵揚。物語の眼差しとなる少年・ユウチャとお葉の弟・枝郎を⾦⼦監督の師である瀬々敬久監督の作品 『春に散る』にも出演した⼦役の有⼭実俊が⼀⼈⼆役で演じている。また、⾜⽴智充、堀部圭亮、根岸季⾐、渡辺哲といったベテランから、⾦⼦作品に⽋かせない⼭⽥キヌヲ、そして『リング・ワンダリング』に続く出演であり、現在⽇本映画に引っ張りだこの俳優・安⽥顕まで、多彩な顔ぶれが揃った。 原作は岐⾩出⾝の作家・松⽥悠⼋の「⻑良川スタンドバイミー⼀九五〇」。⾦⼦⾃⾝⻑編映画としては初めての原作ものとなったが、⻑良川流域の⼟地・⺠話・伝承からインスピレーションを受け、物語を⼤きくふくらませていった。撮影は 2023年9⽉、全て岐⾩県内で⾏われた。いつも凄みのあるロケーションで⾒るものを圧倒する⾦⼦作品、それは監督⾃⾝が何度も⾜を運んで探し出すもので、今回もそうしたロケハンが数⼗回にわたり繰り返された。深く引き込まれそうな⽔辺、近寄りがたさすら 感じさせる洞窟や滝、悠久の時を刻む⼭々の情景など、CG ⼀切なしの神秘的な⾃然が物語を彩る⼤きな要素となっている。 そんな作品世界に寄り添う⾳楽は、細⽥守監督作品などを⼿掛けてきた⾳楽家・⾼⽊正勝が書き下ろし、繊細に演奏している。

■あらすじ
CG ⼀切なしの神秘的な⾃然の中で紡がれる伝承と解放の物語。
⼤きな川の上流、⼭間の集落で暮らす少年ユウチャ。⽗は林業に従事し、⺟は病に臥せっていて、⽼いた祖⺟と暮らしている。 まだ⾃然豊かな⼟地ではあるが、森林伐採の影響もあるのか、家族は年々深刻化していく台⾵による洪⽔の被害に脅かされ ている。夏休みの終わり、集落に紙芝居屋がやってきて⼦どもたちを集める。その演⽬は、⼟地にずっと伝わる⾥の娘・お葉と⼭の⺠である⽊地屋の⻘年・朔の悲恋。叶わぬ想いに打ちひしがれたお葉は⼭奥の淵に⼊⽔、それからというもの彼⼥の涙が溢れかえるように数⼗年に⼀度、恐ろしい洪⽔が起きるという。紙芝居の物語との不思議なシンクロを体験したユウチャは、現実でも家族を脅かす洪⽔を防ぎ、さらには哀しみに囚われたままのお葉の魂を解放したいと願い、古くからの⾔い伝えに従って川をさかの ぼり、⼭奥の淵へ向かう...


昔話の定番路線から外れる新展開


(C)⻑良川スタンドバイミーの会

日本人に馴染みがある「むかしむかし、あるところに・・・」の昔話の展開は誰もがある程度予想がつくだろう。この作品においてもオープニングのビジュアルのタッチといい、大自然に囲まれた雰囲気といい、まさに昔話によくある条件に当てはまる。そんなオープニングから何事もなく、波風立たぬごく普通の暮らしが存在する一家の物語だが、昔話・言い伝えのような話が出てくる。ここで面白いのはそのような”昔話”を連想するような漂流物との出会いがフックとなっているのも、物語に入り込みやすい仕掛けなのかもしれない。

(C)⻑良川スタンドバイミーの会

私たちが知る昔話は大抵、悪役が強情のまま動いてしまい、バチが当たる流れが王道だがそうではない。予想していた昔話の展開から”良い意味”でズレているため、観客を飽きさせない流れになっている。「子どもは悪いことしちゃダメよ」という物語のメッセージでなく、人の想いを大切にする心やその姿勢などが上手くある種の”教え”として表現されているので、子どもだけでなく大人にも観てほしい作品だ。ある意味、このご時世に沿った柔軟な考え方を持つべきだというメッセージも込められているようにも感じ取れる。どんな昔話を頭に浮かべるかは、観てからのお楽しみだ。


自然が起こす反響スピーカー


(C)⻑良川スタンドバイミーの会

透き通った空気が自然のスピーカーの役割をする。本作は2023年夏に岐阜県でオールロケされた作品で、ビジュアルとしても自然に魅了されるシーンが多々ある。しかし、私がこの作品に最も魅力を感じたのは”音”だ。森のざわめきや川のせせらぎのような聞きなれた音だけでなく、「剥がれる音」と「叫ぶ声」がこの作品ならではの特徴を発揮する。

まずは「剥がれる音」。とあるシーンで、1本の大木を倒すシーンがある。そこでは徐々に木の一本一本の繊維が重量によって引き剥がされる音が聞こえる。その音は遠くから録音する音でなく、剥がれる繊維の真横で収録したような生々しい音だ。さらに、折れた木をさらにカットする際も、また違った繊細で細かい塊が裂けるような「剥がれる音」が映画館内に響き渡る。聞き馴染みのない音と、その生々しさはこの作品で物凄くこだわって音取りされていることが、素人ながらにも理解できた。なぜならその「剥がれる音」が、山全体にこだまするほどだからだ。その音は一般的な音響機材を備え付けている映画館でも、立体音響技術Dolby Atmosのような存在感と奥行きを感じさせ、引き込まれること間違いない。

(C)⻑良川スタンドバイミーの会

そしてもう一つ。「叫ぶ声」は中盤以降に里の民と山の民の会話時に起こる。本来は屋外の会話だったとしても、人と人との会話程度では響き渡ることはないが、この森での会話は透き通っていると言わんばかりに響き渡る。障害物の少なさと、空気の綺麗さの掛け合わせで自然がスピーカーになっているように思える。これは劇場で体験すべきポイントの1つである。セリフよりも自然が作り出す音の方が多く感じるため、余計に人の声が際立った表現になっている。


離脱感0なる表現力


(C)⻑良川スタンドバイミーの会

邦画に置いて、ファンタジー要素が入ってくると必ずと言って良いほど”離脱する(没入感がなくなる)”現象が起こる。ディゾルブのような効果で"明らかに"シーンが変わる瞬間に区切りがついており、「ここから別の世界の話ですよ」と言った分かりやすい切り離し方をする表現が多いからである。しかし、本作はそういった離脱感を一度も感じなかった。離脱感が出るはずの箇所が、つなぎ目が見えないほど滑らかでかつ引っ掛かりがない。これ以上はネタバレのシーンであり、その滑らかさを体感してもらいため、これ以上多くは語れないのが心苦しい。この作品において、自然と物語の調和が如何に大切かがそのシーンの一瞬に凝縮されているため、ハードルを上げてでも観てもらいたい。

(C)⻑良川スタンドバイミーの会

『光る川』 

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2025年3⽉22⽇(⼟)ユーロスペース他全国順次公開
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【クレジット】
華村あすか 葵揚
有山実俊 / 足立智充 山田キヌヲ
髙橋雄祐 松岡龍平 石川紗世 平沼誠士 星野富一
堀部圭亮 根岸季衣 渡辺 哲
安田 顕
脚本・監督︓⾦⼦雅和
⾳楽︓⾼⽊正勝
共同脚本︓吉村元希
美術監督︓部⾕京⼦
撮影︓⼭⽥達也
照明︓⽟川直⼈
⾳響︓⻩ 永昌
スタイリスト︓野⼝ 吉仁 ヘアメイク︓鎌⽥英⼦ ⼭下奈⺒
助監督︓⼟屋 圭
カラーグレーディング︓星⼦ 駿光
OP アニメーション︓⾼橋昂也 原作︓松⽥悠⼋(「⻑良川 スタンドバイミー⼀九五〇」より)
エグゼクティブ・プロデューサー︓中⾕ 克彦 酒井 興⼦
企画・プロデュース︓森岡道夫 福原まゆみ
プロデューサー︓松本光司 ⽚⼭武志
製作︓⻑良川スタンドバイミーの会
制作プロダクション︓プロジェクト ドーン
配給︓カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト︓https://www.culture-pub.jp/hikarukawa/
公式 X︓@re_river_movie
(C)⻑良川スタンドバイミーの会
助成︓ ⽂化庁⽂化芸術振興費補助⾦(映画創造活動⽀援事業) 独⽴⾏政法⼈⽇本芸術⽂化振 興会 【2024 年/⽇本/カラー/1.85︓1/5.1ch /DCP/108 分】

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