オールナイトニッポンの伝説のハガキ職人の痛く不器用な青春期『笑いのカイブツ』
〈作品データ〉
2005年からNHK総合テレビで放映されていた「着信御礼! ケータイ大喜利」でレジェンドの称号を得たり、ラジオ番組「オードリーのオールナイトニッポン」の常連投稿者として活躍した「伝説のハガキ職人」と呼ばれた劇作家、放送作家のツチヤタカユキ氏の自叙伝「笑いのカイブツ」を岡山天音主演で映画化した重いヒューマンドラマ映画!中学・高校と友人もなく孤独に過ごしたツチヤタカユキはテレビの大喜利番組への投稿を生きがいにし、ついにレジェンドの称号を得る。これをきっかけにタカユキは自らのネタ帳を持参し、お笑いライブを行う劇場に乗り込み作家見習いになるが、周囲と上手く行かず、次第に孤立していく。主人公ツチヤタカユキ役を岡山天音が演じ、他片岡礼子、松本穂香、前原滉、板橋駿谷、淡梨、前田旺志郎、管勇毅、松角洋平、菅田将暉、仲野太賀が出演。
・1月5日(金)よりテアトル新宿他全国ロードショー
・上映時間:116分
・配給: ショウゲート、アニモプロデュース
【スタッフ】
監督・脚本:滝本憲吾/脚本:足立紳、山口智之
【キャスト】
岡山天音、片岡礼子、松本穂香、前原滉、板橋駿谷、淡梨、前田旺志郎、管勇毅、松角洋平、菅田将暉、仲野太賀
公式HP:https://sundae-films.com/warai-kaibutsu/
〈『笑いのカイブツ』レビュー〉
「伝説のハガキ職人」で放送作家、劇作家のツチヤタカユキ氏の自叙伝の映画化作品『笑いのカイブツ』。「ケータイ大喜利」や「オールナイトニッポン」のハガキ職人を主人公にしたヒューマンドラマで、鬱屈した、鈍重な青春記であり、華やかな一流お笑い芸人の世界やラジオやお笑いをメインにした劇場の舞台裏が垣間見える業界舞台裏もの、いや、業界の一隅で喘ぐ不器用な青年の苦味を味わうメランコリーなドラマである。
テレビの「ケータイ大喜利」や深夜のラジオ番組でハガキ職人として頭角を表すが、不器用で人間関係が不得意が故に放送作家として上手く行かない鬱屈した日々を送る中、ついに憧れの人気芸人から手を差し伸べられ、上京し、構成作家見習いにありつく、というツチヤタカユキの事実ベースのヒューマンドラマ。まず、岡山天音が演じるツチヤタカユキの才能がありながら人間関係を中心とした不器用さでの上手くいかなさ、立ち回りの悪さ、鬱屈、痛々しさ、狂いっぷりは見事。
ツチヤ氏の汚い部屋の様子やオカンとのやり取り、人気お笑いコンビ「ベーコンズ」の西寺の周辺の人気芸人とその周辺の舞台裏の雰囲気など、リアルに伝わる。原作を知らなくても仲野太賀が演じる「ベーコンズ」の西寺というのがオードリーの若林であることが早い段階で何となく伝わり、そこからメジャーな芸人の氷山の一角の水面下で起きていた人間模様と見ると味わい深さがある。
ただ、ツチヤタカユキ氏の実話ベースのストーリーなので、鬱屈した若者の狂気じみた日常からホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』のアーサーやガス・ヴァン・サント監督作品『ラスト・デイズ』の主人公(カート・コバーンがモデル)が被ったり、匂わせたりはするが、結局はその境地まではいかない。
その上、境地に至らない所か、よく考えてみると才能はあるし、著名人から手を差し伸べられるチャンスはあったりするので『ジョーカー』のアーサーやアキ・カウリスマキ監督の数々の映画のボンクラな主人公と比べるとかなり恵まれている。そこでことごとく空振るツチヤタカユキに悲哀はあるけど、それ以上はない、所詮寸止めの狂気になってしまっているのが映画作品としては残念。
だからこそツチヤタカユキであって、狂気未満の青春記としてはクオリティは高い。あらゆる意味で痛々しい人を主人公にした映画を見るのが大丈夫なら見逃さない方が良い。