法廷映画の傑作に迫る その⑥
ミュージック・ボックス(1989年・アメリカ、カラー、124分)
今まで5度、法廷映画の傑作をご紹介してきたのですが、本作はちょっと異色です。
謎が謎を呼ぶ展開、ラストの衝撃的事実に、思わず息をのみます。
戦犯の罪に問われた父のために、法廷で闘う女性弁護士の苦悩を描いた社会派ドラマで、ジェシカ・ラングが娘であり弁護士でもあるという厳しい立場のヒロインを堂々と演じている。
シカゴに住むマイク・ラズロ(アーミン・ミューラー=スタール)は、共産主義を嫌ってハンガリーからアメリカに移民してきた。ある日、彼がユダヤ人虐殺の犯人であるという理由で、ハンガリー政府が身柄引き渡しを要求してきた。マイクの娘で弁護士のアン・タルボット(ジェシカ・ラング)は父の無実を信じ、周囲の反対を押し切ってその弁護を引き受ける。一方、特別捜査部のジャック・バーク検事(フレデリック・フォーレスト)は、マイクの移民を不法だとし、身柄の拘束を要求した。裁判が開かれ、新たな事実が浮かび上がった。マイクが移民の際、身分を警察官ではなく農民と偽ったこと、同じハンガリー移民のゾルダンという男に大金を送金していたこと、そしてマイクはユダヤ人虐殺の先兵である特殊部隊のミシュカという男と同一人物であるということ等々である。マイクに不利な状況下ながら、アンは着実な反証によって、検察側の証人を切り崩し、論破していく。だが、アンの心には父への疑念が残ったままだった。アンはゾルダンが事故死していた要因を突き止めるため、ハンガリーへ飛ぶが...。
ジェシカ・ラング演ずるアンは父親の無実を信じているが、裁判で思いもよらない証言が次々と出てくる。しかし持ち前の才気あふれる反証で、それらを覆しにかかる。
一体、どこに真実が隠されているのか...
監督はギリシャ生まれのコスタ・ガブラス。
社会性あふれるテーマを、一流の娯楽映画にまで昇華させることの出来る希有な作家だ。代表作に「Z」(69年)、「ミッシング」(82年)、「背信の日々」(88年)などがある。
主演のジェシカ・ラングは出演時40歳。
「キング・コング」(76年)でデビューしたものの正当な評価はされず、揶揄的なジョークで嘲笑され、長く不遇の時代を経験している。映画界から忘れられていた彼女は、「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(81年)の名演技で見事にカムバックした。その後は演技派女優として、「トッツィー」(82年)、「女優フランシス」(82年)、「ケープ・フィアー」(91年)等でトップ女優の地位を確立、「ブルー・スカイ」(94年)ではアカデミー主演女優賞を受賞している。
<因みに前述の「トッツィー」では助演女優賞を受賞>
最近は新作への出演がなくなったようだが、往年の彼女は ‘笑顔が魅力的’ で、好きな女優さんのひとりだった。
それにしても「ミュージック・ボックス」とは何ぞや。
ラスト近くになって「ミュージック・ボックス」が姿を現すが、そこには意外な真実が隠されている。
ベルリン国際映画祭で、最高賞の金熊賞を受賞。