テレビドラマ「渥美清の泣いてたまるか」を『男はつらいよ』生誕前夜として見る(その1)
■渥美清の泣いてたまるか①
第一話「ラッパの善さん」
《作品データ》
昭和41年4月17日から昭和43年3月31日まで、およそ2年間にわたりTBS系列で毎週日曜日午後8時 から午後8時56分まで放映された渥美清(青島幸男、中村賀津雄)主演の1話完結形式の連続テレビドラマ。主人公・山口善作は陸軍でラッパ手をやり、戦後東京のタクシー会社で「泣き男」というトラブル対応係として働いていたが、ある日、陸軍時代の上司が事故で亡くなり、上司の奥さんを思い会社に掛け合うが、事態は思わぬ方向に。主人公・山口善作役を渥美清が演じ、他左幸子、小山明子、イーデス・ハンソン、穂積隆信、戸浦六宏、武智豊子、江幡高志、坊屋三郎、田中筆子、ミスター珍が出演。
・放映日:1966年4月17日
・製作:国際放映、TBS
【スタッフ】
監督:中川晴之助/脚本:野村芳太郎
【キャスト】
渥美清、左幸子、小山明子、イーデス・ハンソン、穂積隆信、戸浦六宏、武智豊子、江幡高志、坊屋三郎、田中筆子、ミスター珍
第二話「やじろべえ夫婦」
《作品データ》
昭和41年4月17日から昭和43年3月31日まで、およそ2年間にわたりTBS系列で毎週日曜日午後8時 から午後8時56分まで放映された渥美清(青島幸男、中村賀津雄)主演の1話完結形式の連続テレビドラマ。主人公・太田清は玩具メーカー「オトキ玩具」の制作・研究者を務めていた。ある日、営業部に異動するが、配達先の下請会社の賃上げ要求に巻き込まれ、騒動元の責任として社長から首にされてしまう。主人公・太田清役を渥美清が演じ、他曽我町子、森川信、南廣、四方晴美、伊志井寛が出演。
・放映日:1966年4月24日
・製作:国際放映、TBS
【スタッフ】
監督:山際永三/脚本:桜井康裕、山根優一郎
【キャスト】
渥美清、曽我町子、森川信、南廣、四方晴美、伊志井寛、中村是好
《『渥美清の泣いてたまるか』第一話&第二話考察》
今回のTSUTAYAのレンタルで一番びっくりしたのは、
渥美清が主演していたTBSのテレビドラマ「渥美清の泣いてたまるか」が全てあったことである!
このドラマは日本映画史上に燦然と輝くシリーズ映画『男はつらいよ』よりも前、さらにはフジテレビで放映されたテレビドラマ版「男はつらいよ」の直前に作られ、放映していたテレビドラマ。
・渥美清が主演(青島幸男や中村賀津雄の時もある)
・山田洋次が何話か脚本で参加し、最終話のタイトルが「男はつらい」
・『男はつらいよ』のキャストも何人か出演している
など、やはり『男はつらいよ』と関係なくはない。なので、DVDを借りて、見て、検証&考察をしてみることにした。
まず、第一話・第二話の共通項を見ていく。両話とも渥美清主演だが、両話とも渥美清が演じる男はフーテンではなく職があり、恋人もいたり、いなくても女性が近くにいたり、わりとモテている。とは見え『男はつらいよ』と同じく三枚目ではあるので、どことなく『男はつらいよ』の車寅次郎に近いものを感じる。
また、少なくとも「泣いてたまるか」第一話&第二話の渥美清が演じる主人公は何かと女っ気がある。第一話に出てくる左幸子が演じるアパートの大家兼アパートの1階にある居酒屋の女将さんのハナに好意を持たれつつ、世話焼き女房というか世話焼きホステス・マダムみたいな感じで、善作をサポートしている。
第二話に出てくる曽我町子が演じるフィアンセの町子に至っては清がどんなにドジで仕事上で失敗しても懸命に、健気に男を支える女である。
この曽我町子、後に「電子戦隊デンジマン」のカリスマ悪役ヘドリアン女王役を演じたり、昭和の特撮で重要なサブキャラを演じた女優で、この作品ではそこそこ綺麗なのに男を支えるためにチンドン屋やピエロのバイトなど汚れ仕事も平気でこなす、ヒロインというよりはコメディエンヌっぷりを発揮している。
左幸子は今村昌平監督作品『にっぽん昆虫記』で主演を張った名女優で、そこそこ綺麗ながらチャキチャキとした明るさと気立ての良さが売りという感じの女性を演じている。
そして、この2作にはどちらもハナや町子の上を行く綺麗どころの存在がいる。第一話の小山明子が演じる隊長の未亡人がそうで、善作がまるで寅さんがヒロインを見るように岡惚れをしている。第二話には話のキーマンの一人になる幼稚園教諭に清がちょっと気がある感じでもある。どちらも、『男はつらいよ』で言う所のマドンナの存在であり、特に第二話の幼稚園教諭は『男はつらいよ』四作目『 新・男はつらいよ』に出て来た栗原小巻が演じる幼稚園教諭に通じるものがある。
細かいがこの2作の一部の要素はやはり後の『男はつらいよ』シリーズでも見られる。2作とも会社の上司と揉める辺りの喧嘩っ早さや、第一話のやたらと泣く主人公・善作は『男はつらいよ』2作目『続・男はつらいよ』のやたらと泣く寅次郎にも被る。
それに、第二話に出てくる川は松戸にある「矢切の渡し」ではないだろうか?「矢切の渡し」なら『男はつらいよ』の初期の歌のシーンで出てくるが、ネットの情報ではテレビドラマ「泣いてたまるか」のロケ地は東急田園都市線青葉台駅周辺となっている。うーん、川にやたらゴルフボールがあるというのもTBSのゴルフ場が近い松戸〜流山〜野田の辺りの江戸川にも思えるんだけど、それ以上は憶測にすぎないのでロケ地の話はこの辺にしたい。
そしてなんと言っても脇役も光っている。第一話には善作が働くタクシー会社の専務役を坊屋三郎が演じている。戦前から「あきれたぼういず」の一員として活躍し、晩年も劇団東俳のCMなどに出演。筆者の世代なら「ウルトラマン80」での主人公が働く中学の校長役が印象深いが、この「ラッパの善さん」の時には既に初老のベテラン俳優の雰囲気がある。1910年生まれだから、この時56歳と考えれば年相応だが、わずかな出番でインパクトに残る。
第二話ではホームレス軍団の親分役で森川信が登場。『男はつらいよ』の初代おいちゃん役で数々の名フレーズを生んでいるが、この「やじろべえ夫婦」ではグループの牢名主的なポジションで、ガラが悪い親分といった感じである。そこが初代おいちゃんの江戸っ子気質にも繋がっているとも見える。
中身としては「ラッパの善さん」は意外性がある展開に尽きる。道路のインフラ整備、自動車の普及・需要拡大からの交通事故多発問題という社会的な背景はあるが、そちらよりもやたら情に厚い言動や、飲むと郷里で別れた桃子の話を泣きながら話すという、そして仕事の「泣き男」といい、周囲の人たちの心をやたらと動かすがそこにさらなる仕掛けがあるのがこの作品の見どころになる。
対して、「やじろべえ夫婦」には「住めば都」というテーマがある。それは主人公・清の待遇の変化だったり、後半に森川信が実際に言うセリフだったりするが、まさしくこれを軸にしている。町子の父親が清との結婚を世間体から反対したり、また清が途中で働く幼稚園での教育ママ達の言動・態度だったり、昭和40〜41年の高度成長期の日本らしい世の中の変容と主人公夫婦とのギャップを描いている。
このギャップに関しては第一話でも兵隊あがりの不器用な男と社会・世間との折り合いの悪さというのもあるし、それに社会経済成長で変容する日本と寅次郎&柴又のコミュニティの人々を描いた『男はつらいよ』にも通じる。そう考えると、『男はつらいよ』は映画とドラマだけでなく、テレビドラマ「泣いてたまるか」や一連の渥美清主演映画や山田洋次監督作品で見られる壮大な胎動期となるが、その中でもこの「泣いてたまるか」は結構重要な作品になる。