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2025/09/14 23:30

懐古 アメリカ映画の「1978年」

昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。

「1960年」を初回に、前回「1977年」まで18回にわたって当時の名作に触れてきた。

 

今回はベトナム戦争終結から3年、「ディア・ハンター」や「帰郷」といった戦争の意味を問う作品や、世界的人気を誇るヒーロー「スーパーマン」が公開された「1978年」(昭和53年)の話題作をご紹介したい。

 

「ディア・ハンター」 監督:マイケル・チミノ

 

週末に鹿狩りを楽しんでいた若者たちが、戦争という狂気の中で変貌していく姿を描いた反戦映画。

1968年、ペンシルベニア州の小さな町から3人の若者が徴兵されて、狂乱のベトナム戦線へ旅立った。鹿狩りの名手マイケル(ロバート・デ・ニーロ)、彼の親友ニック(クリストファー・ウォーケン)、結婚式を挙げたばかりのスティーヴン(ジョン・サヴェージ)である。彼らは地獄の戦場で2年後に再開したが、北側の激しい攻撃に遭い、捕虜となってしまう。彼らを待ち受けていたのは、ベトコンが金を賭けて興じるロシアン・ルーレットであった。隙を見てベトコンを打ち倒した3人は脱出し、丸太にしがみついて濁流を下るが、途中で互いに離れ離れになってしまう。

 

この映画で大反響を呼んだのは、ベトコンの、ロシアン・ルーレットによる捕虜虐待シーンである。レボルバーの弾倉に1発だけ弾丸を込め、自分の番がきたら、銃口をこめかみに当てて引き金を引くというのは恐怖以外の何物でもない。スティーヴンは発狂寸前になり、数年後に、ニックはロシアン・ルーレットの射手になっているのだ。

 

上述の3人の親友スタン役でジョン・カザール、帰国後のニックと結婚の約束をしている女性リンダ役でメリル・ストリープが出演している。

 

尚、クリストファー・ウォーケンの強烈な演技に、アカデミー賞は助演男優賞をもたらした。

 

公開当時、このシーンに対する批判が高まり、 ‘ベトナム戦争の真実を歪めて描いている、ロシアン・ルーレットの場面は作りすぎだ...’  との評に対し、マイケル・チミノ監督の答えは ‘ドラマを盛り上げるためにそうしたのであり、私はドキュメンタリーを作ったわけではない’ というものだった。

第51回、アカデミー賞・作品賞受賞

 


 

「インテリア」 監督:ウディ・アレン

 

ウディ・アレンが初めて笑いを排除して作り上げた、家族の崩壊を描くシリアスドラマ。

結婚して30年以上になる弁護士のアーサー(E・G・マーシャル)と、高名なインテリア・デザイナーのイヴ(ジェラルディン・ペイジ)との間に、突然危機がおとずれる。妻の完璧さに疲れたアーサーが、別居を切り出したのである。イヴは自殺未遂を起こし、3人の娘たちもショックを受ける。長女のレナータ(ダイアン・キートン)は人気女流詩人、次女のジョージ(メアリー・ベス・ハート)は作家、三女のフリン(クリスティン・グリフィス)はテレビ女優であるが、それぞれ母親に対し、細やかな心遣いを示す。そんなある日、レナータの家で行われていたパーティの席に、アーサーがパール(モーリーン・ステイプルトン)という新しい女性を連れてくるのだが...。

 

ジェラルディン・ペイジは本作でアカデミー主演女優賞にノミネートされた。

(受賞は「帰郷」のジェーン・フォンダ)

主演女優、助演女優を含むと6度目のノミネートを誇った名女優に栄冠がもたらされたのは、本作から7年後である。8度目のノミネートとなった「バウンティフルへの旅」(85年)で、遂に悲願の主演女優賞に輝いたのである。

 

レナータの夫役でリチャード・ジョーダン、ジョージの夫役でサム・ウォーターストンが出演している。因みに後者はウディ・アレン映画の常連。

 


 

「帰郷」 監督:ハル・アシュビー

 

反戦運動家としても知られるジェーン・フォンダのアイデアをもとに、ベトナム戦争の後遺症を描いたラヴ・ストーリー。邦題のとおり、ベトナムの戦場ではなく終戦後のアメリカを舞台に、戦争がアメリカ人に与えた影響を主題にしている。

1968年、ロサンゼルス。国家利益のための戦争と信じきって、ベトナムに赴く海兵隊員の夫ボブ(ブルース・ダーン)を送り出した妻のサリー(ジェーン・フォンダ)は、基地付属病院で負傷帰還兵たちの看護人として働きだした。負傷兵のなかに下半身が麻痺し、精神的にも頑なに閉じこもるかつての同級生ルーク(ジョン・ヴォイト)の姿を見つけたサリーは、献身的な看護を続ける。やがてサリーとルークの関係は、看護婦と単なる患者という関係を超え、精神的な交流が芽生えていく。

やがて前線にいるボブからサリーに連絡が入った。 ‘香港で一緒に休日を過ごそう’ というものだったのだが...。

 

戦争の傷を優しさで見せたジョン・ヴォイトが、アカデミー主演男優賞を受賞。

一方のジェーン・フォンダも体当たりの熱演で、同・主演女優賞を受賞、授賞式では手話によるスピーチを行い、大きな感動を呼んだ。

 

ビートルズのバックナンバーが作品にほどよくマッチしている中、一般人には理解し難いレベルの ‘戦争の悲惨さ’ を、本作は勇気と優しさをもって描いている。

 

他の主な共演俳優は、ロバート・キャラダインペネロープ・ミルフォードロバート・ギンティチャールズ・サイファースといった面々。

 


 

「フューリー」 監督:ブライアン・デ・パルマ

 

スパイ戦に巻き込まれた超能力者たちの悲しみと苦悩、そして怒りを描いたSFスリラーの傑作

元諜報員ピーター(カーク・ダグラス)の息子で、超能力者のロビン(アンドリュー・スティーヴンス)が、白昼堂々の大芝居に紛れて誘拐された。その仕掛人は、ピーターのかつての同僚のチルドレス(ジョン・カサヴェテス)で、スパイ組織の絡んだ事件であるらしいことが分かる。一方、シカゴのハイスクールに通う17歳の少女ギリアン(エイミー・アーヴィング)の身辺にテレキネシス現象<物理的な接触なしに、意思の力だけで物体を動かす超能力>が現れ、彼女が超能力を持っていることが明らかになる。一見、無関係なこの2つの事件が、やがて一本の糸で結ばれていくのだが..。

 

SFスリラーとはいうものの、超能力者たちの想像を絶する力には驚くばかりだ。

シカゴの「パラゴン精神分析研究所」なる施設が登場するが、ここが一つのキーポイントとなる。

ピーターの恋人ヘスター(キャリー・スノドグレス)がこの施設に勤めているし、マッキーバー医師(チャールズ・ダーニング)や女医(キャロル・イヴ・ロッセン)も絡んでくる。

 

チョイ役でダリル・ハンナがデビューを果たしているが、彼女はまだ高校生だった。
だが4年後、82年「ブレードランナー」のレプリカント役で俄然注目を浴びる女優となる。

 

本作は「キャリー」(76年)と同じように、超能力を持つ少年を中心に、彼を利用しようとする諜報機関と息子を取り戻そうとする父親、同じように超能力を持つ少女が絡み、SFXを駆使した超能力場面が見ものである。70年代にはこういう ‘掘り出し物’ の映画がたくさんあったのだ。

 


 

「グリース」 監督:ランダル・クレイザー

 

前年、「サタデー・ナイト・フィーバー」で人気スターの座に躍り出たジョン・トラヴォルタが、得意のダンスを披露する青春ミュージカル。人気シンガー、オリヴィア・ニュートン=ジョンの出演も話題となって、78年の全米興行成績トップに君臨した。

1950年代のアメリカ。夏の浜辺で別れを惜しんだダニー(ジョン・トラヴォルタ)とサンディ(オリヴィア・ニュートン=ジョン)は、偶然にもサンディがダニーと同じライデル高校へ転校してきたことで再会する。やがて夏休み気分の抜けきらない学生たちの間に、ニュースが伝わった。それはライデル高校が、テレビ局の主催する全米高校ダンス・コンテストの会場に指名されたというもの。不良グループのリーダーであるダニーは再会を喜んだが、クールな態度を変えられず、仲間の前でサンディにつれなく振舞い、彼女はひどく傷ついた。喧嘩や行き違いを何度も繰り返しながらも、やがて2人は和解し、卒業カーニバルに仲良く参加するのだが...。

 

元々は舞台ミュージカルで、1972年にオフ・ブロードウェイで初演され、数か月後にブロードウェイに移り、80年代に入っても上演されている。(90年代にもリバイバル上演)

 

もう47年前の作品だが、物語の設定は1950年代の高校が舞台である。どうりで冒頭の浜辺のシーンに流れる音楽が、「慕情」(55年/音楽監督はアルフレッド・ニューマン)のテーマ曲だったのも頷ける。
さらに往時を象徴するファッションを見るのも楽しい。女の子も男の子も、若い高校生たち(実際は成人俳優だが)が着ている服は大半が明るい原色で、活気みなぎるダンスにも効果的な印象。
ラストの遊園地での迫力ある踊りのシーンもゴキゲンだ。

 


 

「スーパーマン」 監督:リチャード・ドナー

 

1938年にコミックで登場して以来、世界的人気を誇るヒーロー、スーパーマンの活躍を描くSFアクション。

壊滅寸前の状況の惑星クリプトンの科学者ジョー(マーロン・ブランド)は、幼い一人息子カルにすべてを託し、地球めがけて彼を脱出させる。北アメリカに着陸したカルは、ジョナサン(グレン・フォード)とマーサ(フィリス・サクスター)のケント夫妻に拾われ、クラークと名付けられて成長した。育ての父の死を契機に北方へ旅立ち、若者となったクラーク(クリストファー・リーヴ)は、ビジョンとして現れたジョーから自らの出生の秘密、能力と使命を知らされた。やがて彼は大都会メトロポリスのデイリー・プラネット新聞社へ入社、ロイス・レイン(マーゴット・キダー)という女性記者と知合う。それ以降、クラークは様々な場面でスーパーマンとして正義と真実を守るための闘いを続ける。

 

ノスタルジー趣味を盛り込みつつ、スーパーマンに扮したクリストファー・リーヴのナイーブな個性が役にマッチしていたのが印象的。その彼も2004年10月10日、心不全により52歳の若さで旅立っている。1995年の乗馬競争中の落馬で脊髄損傷を負い、首から下が麻痺し、以降リハビリに専念したことは世界的に報道された。

 

日本でも、 ‘鳥だ、飛行機だ、スーパーマンだ’ のコピーが流行し話題となった。

 


 

「ビッグ・ウェンズデー」 監督:ジョン・ミリアス

 

若い頃、サーフィンに熱中していたジョン・ミリアス監督自身の思いが投影された青春映画。

水曜日にやってくると言われる巨大な波「ビッグ・ウェンズデー」に挑戦することを夢見る3人の若者、マット(ジャン・マイケル・ヴィンセント)、ジャック(ウィリアム・カット)、リロイ(ゲイリー・ビジー)は、無邪気にサーフィンと恋に明け暮れていた。しかし、次第に激化するベトナム戦争は彼らにも影を落とし、悪知恵を働かせて徴兵を逃れたマットとリロイを残して、ジャックは堂々と出征する。1968年、ジャックは無事に帰還し、3人はサーフボードの上で再会を喜び合うが、戦場に散った仲間のことを思い出して、涙を流した。その後、それぞれ社会人となった3人は、再び思い出の浜辺に集まり、海の中へと飛び込んでいく。

 

これは単なる青春映画ではない。カリフォルニアの海岸を舞台に、サーフィンというトレンディな題材を甘酸っぱくノスタルジックな友情譚に仕立てているが、1960年代という舞台背景がベトナム戦争の暗い影を落とす。

 

伝説の  ‘ビッグ・ウェンズデー’  を捉えた空前の映像が素晴らしい。きらめく大波のチューブ(トンネル)内の迫力ある実写映像を撮り上げたのは、カメラマンのブルース・サーティス。彼の功績は特筆もので、彼なくして本作のヒットはなかったであろう。

 


 

上記に取り上げた作品以外では、「天国から来たチャンピオン」(ウォーレン・ベイティ監督/バック・ヘンリー監督)、「天国の日々」(テレンス・マリック監督)、「ジョーズ2」(ヤノット・シュワルツ監督)、「パラダイス・アレイ」(シルヴェスター・スタローン監督)、「原子力潜水艦浮上せず」(デヴィッド・グリーン監督)、「コンボイ」(サム・ペキンパー監督)、「ザ・ドライバー」(ウォルター・ヒル監督)、米国・香港の合作ではあるが「ブルース・リー/死亡遊戯」(ロバート・クローズ監督/サモ・ハン・キンボー監督)ら、傑作が目白押しである。

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1 件の返信 (新着順)
飛べない魔女
2025/09/18 12:24

洋画さんの懐古シリーズは毎回楽しみです♪
今回も見ていない作品(インテリア、帰郷、フューリー)をリストに追加したので、またリストが長くなりました(笑)
「ディアハンター」は再見するべき作品リストの一つです。思い出させてくださり有難うございます(^^♪


趣味は洋画
2025/09/18 21:33

魔女さん、コメントありがとうございます。
このシリーズを楽しみと仰っていただき、率直に嬉しいです。
5千本近い作品をご覧になられている魔女さんでも、未見の作品があるのですね。

個人的には「インテリア」は再見したいと思っています。
「1978年」は上げた作品以外も、名作、傑作が多かったと思います。