【蔵出しレビュー】テキサスの大学野球部員らによる夏休み最後の四日間の青春群像劇!『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』
※9月13日から公開のリチャード・リンクレイター監督作品『ヒットマン』にあわせて、リチャード・リンクレイター監督の過去作品のレビューをUPしました。尚、文章は公開当時のものを一部加筆・訂正したものです。
■エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に
《作品データ》
『スクール・オブ・ロック』や『6才のボクが、大人になるまで。』を手掛けたリチャード・リンクレイター監督による新たなる青春群像劇!9月からサウスイーストテキサス大学に入学するジェイクはその四日前に野球部・チェロキーズの寮に入寮し、野球部の先輩たちと一足早い大学生活を早速漫喫する。そんな最中でジェイクはフィネガンに女子寮へ連れて行かれ、演劇を学ぶ女子学生ビバリーに一目惚れをする。主人公・ジェイク役をブレイク・ジェンナーが演じ、他ゾーイ・ドゥイッチ、ライアン・グスマン、タイラー・ホークリン、グレン・パウエル、ワイアット・ラッセルなどが出演。
・公開日:2016年11月5日
・上映時間:116分
・配給:ファントム・フィルム
【スタッフ】
監督・脚本・製作:リチャード・リンクレイター
【キャスト】
ブレイク・ジェンナー、ゾーイ・ドゥイッチ、ライアン・グスマン、タイラー・ホークリン、グレン・パウエル、ワイアット・ラッセル
原題:Everybody Wants Some!!/製作国:アメリカ/製作年:2016年
〈『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』レビュー〉
6歳の少年が18歳の青年になるまでの12年間を追う形で作った『6才のボクが、大人になるまで。』を手掛けたリチャード・リンクレイター監督。その次の手は大学のボンクラ野球部員の新学期前の四日間を撮った一見小さなスポットの作品だが、
『アメリカン・グラフィティ』や『スタンド・バイ・ミー』にも並ぶ最高の青春映画だった!!
1980年8月28日から31日とまさしく新学期(9月1日)に入るまでの四日間を切り取った青春ドラマ。ずばり、高校生の夏休みを描いたリチャード・リンクレイター監督作品『バッド・チューニング』の大学生版。その『バッド・チューニング』は男子も女子も先輩らの後輩へのいじめが凄まじかったが、本作は多少のいじめがありながらも基本的には先輩・後輩分け隔てなく、ナンパし、酒をのみ、ディスコやクラブでバカ騒ぎをしというおおらかな青春群像を繰り広げている。
『アメリカン・グラフィティ』や『バッド・チューニング』と比べての最大の違いは、主人公らが比較的“大人”であるということ。酒はもちろん、セックスもやりたい放題。リチャード・リンクレイター監督作品としてもその弾け具合が半端なく、『6才のボクが、大人になるまで。』などで抑えていた物が一気に弾けた感じ。
これを『6才のボクが、大人になるまで。』で見せたドキュメンタリータッチで作っている。なので、『6才のボクが、大人になるまで。』の続編という見方も正しく、また『バッド・チューニング』の続編として見ると高校生版と大学生版との違いは当然だが、23年間のリチャード・リンクレイター監督の制作のクオリティーのレベルの差に痛切を感じ取れる。
それは1980年の8月末に設定した時代背景にもある。これは2つある。ドナルド・レーガンがアメリカの大統領に就任(1981年1月)する前のアメリカであること。もう1つは同じく1981年に始まるMTVが始まる前のアメリカであること。その2つが始まる前の夜明け前のアメリカを捉えた青春群像映画であり、ラストシーンがより意味深に感じられる。そう考えると『6才のボクが、大人になるまで。』にも勝るとも劣らない深さがこの映画にはある。
音楽に関しても期待通り。タイトルがそもそもヴァン・ヘイレンの3rdアルバムの曲からとっていることから、冒頭にナックの「マイ・シャローナ」を始め、チープ・トリックやブロンディなど1980年前後のロックが多くかかる。ただし、ロックばかりだった『バッド・チューニング』と違い、ディスコソングやニュー・ウェイブ、パンクなども混ぜた辺りにのセンスにリチャード・リンクレイター監督の全体的なレベルアップを感じる。
筆者は野球部ではなかったが、夜な夜な友人宅で飲み明かし、ディスコやクラブやライブに通いまくったので、シンパシーがビンビン。そして、一見平凡に見えるラストに時代的背景を考えながら心を撃たれる。