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私の好きな映画

じょ〜い小川
2024/10/02 23:06

不穏、不条理、奇抜、不可解に満ち溢れたヨルゴス・ランティモス監督の3つのラビリンス『憐れみの3章』

■憐れみの3章

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

〈作品データ〉
『ロブスター』や『女王陛下のお気に入り』、『あわれなるものたち』を手掛けたヨルゴス・ランティモス監督最新作は3つの異なるストーリーを展開するオムニバス形式の不条理ドラマ。建設関係の会社で働くロバートは上司のレイモンドにあらゆることを管理されつつ、命令を遂行するとその都度褒美の品を受けていた。ある日、ロバートはレイモンドからある理不尽な命令を受け、それを拒むと無視されるようになる。ロバート役を ジェシー・プレモンス、レイモンド役をウィレム・デフォーが演じ、他にエマ・ストーン、マーガレット・クアリー、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アティエ、ハンター・シェイファーが出演。

・9月27日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー【R15+】
・上映時間:164分
・配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
【スタッフ】
監督・脚本・製作:ヨルゴス・ランティモス/脚本:エフティミス・フィリップ
【キャスト】
ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォー、エマ・ストーン、マーガレット・クアリー、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アティエ、ハンター・シェイファー
原題:Kinds of Kindness/製作国:アメリカ、イギリス/製作年:2024年
公式HP:https://www.searchlightpictures.jp/movies/kindsofkindness


〈『憐れみの3章』レビュー〉

今年の1月にエマ・ストーン主演の『哀れなるものたち』が日本でも公開し、3月には第96回アカデミー賞において、同作品で主演女優賞など、計4部門で受賞をしたばかりのヨルゴス・ランティモス監督。そのヨルゴス・ランティモス監督が早くも新作を作り、第77回カンヌ国際映画祭のコンペディション部門でメインキャストのジェシー・プレモンスが主演男優賞を受賞し、しかもそのおよそ4ヶ月後に日本でも公開することになったオムニバス形式の不条理ドラマ『憐れみの3章』。なるほど、ジェシー・プレモンスやエマ・ストーン、ウィレム・デフォーをはじめ、ほとんどの主要キャストがそのまま3つのエピソードに違う役・シチュエーションで出演しながら、そのどれもが不穏と不条理に満ち溢れたドラマで、しかもいずれも強烈且つ痛々しい描写が必ずあり、

オムニバス形式の作品ながらヨルゴス・ランティモス監督作品らしさは十分あった!

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

3つのエピソードはジェシー・プレモンス主演作、ジェシー・プレモンス&エマ・ストーンのW主演作、エマ・ストーン主演作と微妙に異なり、さらに主要人物としてウィレム・デフォー、マーガレット・クアリー、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アティエがやはりそれぞれ違う役柄で出演する。

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ジェシー・プレモンス主演作はウィレム・デフォーが演じる上司のレイモンドからの不条理な命令に悩まされる部下ロバートの話、ジェシー・プレモンス&エマ・ストーンのW主演作はエマ・ストーンが演じる行方不明になった海洋学者の妻と警察官の夫の夫婦の話、エマ・ストーン主演作はとある新興宗教にのめり込む女性が主人公の話といずれもまるで異なるエピソードだが、どのエピソードも主人公には不可解ながら強烈な結末が待ち受けている。

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

違うエピソードながら、どの話においても主人公らは不条理、且つ無理難題を吹っ掛けられ、ジェシー・プレモンスやエマ・ストーンが演じる主人公たちは追いつめられながら無茶な要求に応えようとする。

またメインキャストらに自傷行為や事故などが目立ち、中には偶発の事故もあるがほとんどが自分の意志で起こす怪我で、そこに不穏さ、不気味さ、不可解さがある。そのどれもが相手に気を引く為の怪我というもので、これは『ロブスター』のホテルのシーンで見られた行動であり、その応用であるが、その奇抜な行動は個人的には好みだが見る人を選ぶ奇っ怪な行動である。つまり、本作はそんな奇妙、奇抜、奇っ怪さの連続の中で生活をしている。

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

感覚的にはデヴィッド・リンチ監督の一連の作品やニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ネオン・デーモン』、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の『アンダー・ザ・シルバーレイク』にも通じる世界観である。
特に新興宗教絡みの3つ目のエピソードはアリ・アスター監督の『ミッドサマー』にヨルゴス・ランティモス監督作品『籠の中の乙女』の双子要素と、屍体にまつわるシーンにカール・ドライヤー監督の『奇跡』の応用も見られながらも、奇抜・不気味な世界観を形成している。

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

そんな中で、各エピソードにギリシャ人俳優のヨルゴス・ステファンコスが演じるR.M.F.がいずれもタイトルに絡むが、これに関しては各エピソードの色付けのオマケ要素なので、あまり気にしない方がいい。特に3つ目のエピソードはタイトルを気にするとモヤモヤが止まらないし、終わってみるとガクッと来るので、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォー、エマ・ストーンらが織りなすストーリーをしっかり見てほしい。

本作をヨルゴス・ランティモス監督のエッセンスで見ると、動物の使い方、既存曲とピアノやBGMの使い方、変な踊りなどがやはり見られる。この中で音楽に注目すると、1つ目のエピソードのメインテーマに当たるユーリズミックスの「Sweet Dream」が不気味な世界観を醸し出しながら、ポイントポイントでピアノの不協和音と変なクワイアで不穏さを煽っている。2つ目のエピソードではまさかのディオの「Rainbow in the dark」が目立つ形でフィーチャーし、そのセンスに驚かされた。

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

どのエピソードもヨルゴス・ランティモス監督作品のエッセンスに満ち溢れているが、どれも50分ちょいでまとめられているのが惜しい。元々はこの3つのどれかの長編だったらしいので、どうせなら長編で、思いっきり不可解、奇抜、不穏なヨルゴス・ランティモス監督のラビリンスが見たかった。

これはこれで良かったけど、次回作こそはガッツリと長編を作ってほしい。

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
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