女優三人が紡ぎ出す母娘三代愛と葛藤の日々
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【2025 - No.26】
〜ギジェルモ・アリアガ作品集 Vol.2〜
𝐆𝐮𝐢𝐥𝐥𝐞𝐫𝐦𝐨 𝐀𝐫𝐫𝐢𝐚𝐠𝐚 𝐖𝐨𝐫𝐤𝐬
(Cover photo: Everett Collection/ Aflo)
あの日、欲望の大地で
アメリカ·メキシコ·アルゼンチン 107分 2008年
別に統計データがあるわけでもなくあくまでも私の感覚に過ぎないのだが、父と息子もしくは父と娘を描いた作品に比べると母と娘を扱ったものは明らかに数が少ないように思う。もし仮に母と娘の関係性に男親との間には見られぬ何か複雑な感情が存在するのだとしたら、それらをストーリーに反映した脚本を書けるライター自体が稀と云うのが或いはその理由なのかもしれない。従って本作において脚本家ギジェルモ・アリアガがそのハードルの高い主題に敢えて挑み、自らメガホンを握って取り組んだことは高く評価出来る
主人公マリアーナを中心に据えた母娘三代のドラマが現在と過去二つの時制で同時進行する流れはいかにも重奏構成を得意とするアリアガらしい語り口だ。オレゴンが舞台の現在部分は寒々しいブルーの色調、ニューメキシコが舞台の過去部分は乾いたデザート(砂漠)の色調でハッキリと区別されている点は、前者がマリアーナの、後者がマリアーナの母だったジーナの心情を表していると考えられ、この両パートが違和感なく次々と転換していくタイミングの絶妙さは見事である
マリアーナ、ジーナそして若きマリアーナはそれぞれ繊細な心の内奥表現を必要とされる難しい役柄だが、これをシャリーズ・セロン、キム・ベイシンガー、ジェニファー・ローレンスの三人は揃って過剰にならない抑えた演技で応じ、俳優としての実力を示した。特にアリアガから「メリル・ストリープの再来」と評されたローレンスは淡々としたなかに芯の強さを窺わす女性像で強いインパクトを残した
癌の治療により乳房を切除したジーナが姦淫の罪を犯してまでも(彼女は敬虔なクリスチャンだ)夫や子供を裏切ってまでも女として生きようとした姿は、不倫の善悪的な正論は抜きに共感するところはある。彼女の最期を地獄の業火と受け留めるか、愛の炎と受け留めるかは観る人にもよろうが私はジーナのなかに後悔の念は無かったような気がしている
先日観た「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」もそうだったがここでも携帯電話やPCの類は一切画面に出てこない。これはつまりアリアガ本人がメールやSNSなどではなく対話こそ人間関係構築の根幹と捉えたうえでの彼なりの拘りなのかもしれない。また、ラストで口にされるさりげない台詞に僅かな希望が見出せる幕切れも「メルキアデス」と同様だ。これも謂わば「アリアガ印」のひとつなのだろう。やたらとエモーショナルになりすぎず、終始落ち着いた展開で登場人物を描き切った力作である
★★★★★★★☆☆☆

原題 The Burning Plain
監督 ギジェルモ・アリアガ
脚本 ギジェルモ・アリアガ
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 クレイグ・ウッド
音楽 ハンス・ジマー 他
出演 シャリーズ・セロン, キム·ベイシンガー
受賞 2008年ヴェネツィア映画祭新人俳優賞
公開 2009.09.18 (米)/ 2009.09.26 (日本)
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"アモーレス・ペロス" (2000)
