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椿五十郎 バッジ画像
2023/12/14 20:52

♪ゴジラ、ゴジラ、ゴジラがやぁって来た♪ ~SF交響ファンタジー第一番~

皆さんこんにちは
椿です。
 

『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』、ご覧になりました?
もちろん、ご覧になりましたよね?ねっ??ねっ???
 

 11月3日の公開以来、快進撃を続ける本作。
 ゴジラ好き、ゴジラをあまり知らない、どちらの観客からも非常に熱い感想が随所でみられます。
 そんな感想の中に、結構な数でこんな感想が寄せられています。
 

 「ゴジラ登場の時、いつもの曲!アガった!」
 「あの曲とともに、きたぁ!!ゴジラ!!って感じ」
 「メインテーマと思われがちのあの曲の使い方、分かってて痺れた」
 

 などなど、本作の成功に音楽の影響が強く関係していると指摘する感想をかなり多く目にします。
 今回の音楽。作曲家は佐藤直紀。『ALWAYS 三丁目の夕日』『アルキメデスの大戦』『永遠の0』等、山崎貴作品ではおなじみですし、最近のヒット作映画の多くを手掛けています。
 もちろん、佐藤さんの音楽は素晴らしいのですが、ここで多くの方が言及するゴジラ音楽は、もう一つの曲を指します。過去のゴジラ映画で使用された曲。そう、皆さんが「ゴジラの音楽」としてきっと想像している、ジャーン、ジャジャジャジャッジャーン、ジャッジャッジャーン、ジャジャジャジャジャジャジャン!♪ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ♪ なあれです(笑)
 

 作曲は、伊福部昭(いふくべ あきら)。日本を代表する大作曲家で、クラシック系の純音楽、バレエ・舞台音楽の作曲の傍ら、300本以上の映画音楽を作曲。こと『ゴジラ』に代表されるスケールの大きな特撮映画の音楽をかなりの本数受け持ったため、世代を超えて多くのファンを獲得し、現代音楽作曲家の中でも屈指の人気を誇ります。音楽教育者としても著名で、世界的な作曲家である『鬼畜』『八甲田山』の芥川也寸志、『幕末太陽傳』『豚と軍艦』の黛敏郎、『黒い雨』『海と毒薬』の松村禎三、『学校の怪談』『金田一少年の事件簿』の和田薫等を育てています。本作の佐藤さんも伊福部門下。
 

 伊福部音楽の特徴は「オスティナート」と呼ばれる一定の音型を何度も反復する技法と、民族音楽に根差した力強く大地を踏み鳴らすようなリズム心の奥底に共鳴するかのようなメロディ独特の節回しにあり、人はこれを「伊福部節」と呼んでいます。一度聞けば、「あっ、伊福部音楽だ!」と心に残ること請け合いです。
 

 35本あるゴジラ作品(海外、アニメ含む)うち実際に伊福部が作曲を担当したのは11作品で、意外に半分に満たないのですが(それでもほかの作曲家に比べれば格段に多いですけども)、なのに何故ゴジラと言えば伊福部と言われるのか?
 ひとつには、平成の世にゴジラが復活し、にわかに伊福部ゴジラ待望論が出て、それに応えるような形で平成ゴジラの音楽のほとんどを伊福部が担当し、今の観客の記憶に新しいこと。
 次に、伊福部が音楽を担当していない作品にも「ゴジラ」のモチーフとして使われた作品が非常に多いことが挙げられます。アニメやアメリカのゴジラ映画にまで使用され、ゴジラと言えば伊福部、というイメージが植え付けられました。
 そして、これが最大の理由だと思うのですが、伊福部音楽は、ゴジラと、それに対峙する人間達に生命を、勇気を、怨念を見事に吹き込んでいるからだと思います。ほかの作品の優秀な作曲家の音楽もどれも素晴らしいものばかりですが、単純に「劇伴」の役目を果たしているにすぎません。(そのための仕事なので当たり前であり、批判しているのではありません。念のため)カッコいいシーンではかっこよく、ゴジラの圧を感じるシーンでは巨大感や邪悪感、コミカルゴジラにはスピーディで軽快な音楽を。それは、見事にスクリーンで展開している事象とマッチしてストレス無く、作品に没入できるように作られています。
 

 ところが、伊福部音楽のゴジラには、まさにゴジラの心情や、ゴジラの恐怖に恐れ戦く感情、ゴジラへの戦いに挑む人間の奮い立つ心を、ストレスフルなほどに観る者に体験させる強烈な魅力を持っているのです。この魅力があるからこそ、伊福部を音楽に起用し、彼の死後もなお、ゴジラ映画に伊福部音楽を使用したい監督が出て、「ゴジラには伊福部」を期待するファンを多数産んだのでしょう。
 

 『用心棒』『天国と地獄』『赤ひげ』等の多くの黒澤明映画やそのほか、やはり300以上の映画音楽や多くのテレビドラマの音楽を作曲し、自身も数本のゴジラ映画作曲の経験ある佐藤勝さんが、伊福部ゴジラを取り上げたコンサートで指揮をした時に「伊福部音楽はゴジラそのもの。譜面や聞くと単純に聞こえるが演奏するとその難しさに苦戦する」ようなことを発言していることからも分かるように、映画音楽の大家である作曲家からしても、伊福部ゴジラは特別なもの、なのです。
 

 『ゴジラ-1.0』で使用された伊福部ゴジラ音楽は、エンドクレジットで出ている『ゴジラ(54)』『キングコング対ゴジラ』『モスラ対ゴジラ』の三本から、となっています。

 前作『シン・ゴジラ』では庵野監督の趣味が炸裂し、様々な過去ゴジラの音楽と同じく東宝特撮映画『宇宙大戦争』のマーチを、当時の映画で使用された音源をそのまま使用するという快挙(暴挙?)に出ましたが、今回は本作用に、現代のオーケストラによって新たに演奏、録音されたものが使用されています。当時の演奏による荒々しいまでの響きは非常に魅力的なのですが、モノラル音源のため、迫力の乏しさが出てしまうのに比し、今作はステレオの大音響での録音になりますから、ゴジラの登場を最大限に盛り上げてくれます。
 

♪ゴジラ、ゴジラ、ゴジラがやってきた♪はゴジラのテーマではない!?
 

 54年。初代ゴジラ。ドーン!ドーン!!という巨大な地響きのような足音。続いてあの「グォォォァァァァ~ン!!」という咆哮。(伊福部はゴジラの鳴き声を発明した一人でもあります)そして『ゴジラ」というタイトルが画面いっぱいに映し出されると、音楽が流れます。そう。
 

♪ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ♪

 です。これを聞けば、誰もがゴジラを連想すると思いますし、ゴジラと言えばこの曲を誰もが思い浮かべることでしょう。
 ところが、この曲はゴジラに充てられた曲ではなかったのをご存知でしょうか?この曲は「ゴジラに立ち向かう人々」に充てられた曲なのです。54年『ゴジラ』では、この曲は冒頭と、消火活動に向かう消防車や戦車が向かう時、そう。まさに人間がゴジラという厄災に立ち向かう時に流れる楽曲なのです。

 それが証拠に、この後伊福部が担当する昭和ゴジラ作品には一切、この楽曲は登場しないのです。登場するのは伊福部がいったんゴジラ映画への筆を置いて7年後、昭和ゴジラの最期を飾った『メカゴジラの逆襲』で「ゴジラのテーマ」として復活させました。
 すでに、子供向け映画として作られたにもかかわらず、興行収入が見込めず、予算は大幅に削られてしまい、シリーズ打ち切りが決定された最後の作品に伊福部が起用されたのです。しかし、本作はシリーズ初の女性脚本家 を起用し、伊福部同様、ゴジラ映画とは距離を置いていた、初代ゴジラ監督でその後数々の東宝特撮映画を監督する本多猪四郎もメガフォンをとり、重厚な人間ドラマとゴジラ以上にキャラの立つメカゴジラの存在で昭和ゴジラシリーズの中でも屈指の見ごたえのある作品となりました。当然、子供受けは悪く、ゴジラ史上最低の興行収入を記録。ですが、ゴジラファンの多くからは支持を集めている作品です。向かうところ敵なしの悪役メカゴジラを相手に、怪獣王ゴジラがその威厳を見せ、最後はメカゴジラを打ち負かす。その怪獣王の威厳を復活させ、人類の脅威であるメカゴジラに対峙するゴジラとして、伊福部はこの楽曲をゴジラのテーマとして復活させたのです。

 その後ゴジラ映画は鳴りを潜めますが、厚いファンの要望に応え、9年の沈黙を破り、『ゴジラ』が復活。その時は伊福部音楽ではなく、続く『ゴジラ対ビオランテ』でも、すぎやまこういちが作曲。しかし、ここで、ゴジラ登場の際、あのゴジラのテーマが復活、使用されました。またすぎやまこういちにアレンジされて一つの楽曲としても使われ、あまりのカッコよさから、伊福部音楽によるゴジラ復活の機運が高まり、次作『ゴジラ対キングギドラ』で完全復活。この後4本の平成ゴジラ音楽を担当。昭和、平成のゴジラファンのみならず、世界的に、あの楽曲がゴジラのテーマとして認知されるようになりました。
 

 本来のゴジラのテーマは?
 

 本来のゴジラを表すテーマは、低弦楽器や重厚な音を出す金管木管楽器により、低く唸るようにして作られた楽曲「ゴジラの恐怖」がそれです。54年『ゴジラ』では低く地に押し付けるような響きの音楽が、ゴジラが暴れまわる間、不気味に流れており、「ゴジラの恐怖」とは言いえて妙。この音楽が『キングコング対ゴジラ』である程度完成した形で作られその後さまざまなアレンジを経て、『メカゴジラの逆襲』に至るまで、ゴジラを表現する音楽とされてきました。今現在の、ゴジラのテーマに入る前の導入部の重厚なファンファーレともいえるような
 

♪ジャーン、ジャジャジャジャッジャーン、ジャッジャッジャーン、ジャジャジャジャジャジャジャン!
 

が、ゴジラの恐怖の最終形態、とでもいいましょうか。ゴジラの巨大さ、畏怖が感じられる楽曲となっています。

『ゴジラ-1.0』で使われた楽曲
 

 冒頭に申し上げた、『ゴジラ-1.0』の感想のうち「メインテーマと思われがちのあの曲の使い方、分かってて痺れた」という言葉がありましたが、つまり本作でも、例の「ゴジラのテーマ」はゴジラの音楽としては使用されておらず、人間がゴジラに対して行う攻撃の時に、抜群のタイミングで鳴り響きます。それは映画を見て痺れていただきたい。

 ▲『モスラ対ゴジラ』から(ゴジラ-1.0で使用されたバージョン)

 換わりに、ゴジラを現す曲で使用されたのが『モスラ対ゴジラ』で使用された「ゴジラの恐怖」のアレンジバージョン。この『モスラ対ゴジラ』では、ゴジラの敵が平和の使者モスラであることから、ゴジラが悪役となって、非常に人相の悪いゴジラが登場し、音楽もゴジラの狂暴さを表すため非常に暴力的なアレンジが施されています。それを本作では、ゴジラのテーマとして使用したのですから、ゴジラの恐ろしさが余計にひきたったわけです。
 
『SF交響ファンタジー』
 

 伊福部昭が作曲したクラシックの純音楽に『SF交響ファンタジー』という作品があります。この作品は第一番から第三番まであり、これまで伊福部が担当してきた東宝特撮映画につけられた楽曲を編成もパワーアップして組曲風に作られた作品です。
 テクノバンドの雄、ヒカシューの井上誠ら、伊福部昭が作曲した特撮映画の音楽マニアたちが集まり、伊福部に、特撮映画の音楽をまとめた組曲を作ってほしい、と懇願。固辞されると「ならば、俺たちで作る」と言ったところ「いや、それは困る」と、渋々伊福部が作ったのがこの三曲。
 出来上がった曲は、押しかけたファンたちも驚嘆するほどの大迫力な曲となります。この曲で初めて、ゴジラの恐怖である重厚なファンファーレ♪ジャーン、ジャジャジャジャッジャーン、ジャッジャッジャーン、ジャジャジャジャジャジャジャン!からの、ゴジラのテーマである♪ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ♪への流れが確立されます。平成ゴジラ以降、ゴジラのテーマというのは、この流れが一般的になります。その元祖がまさに、この『SF交響ファンタジー』という純音楽になります。
 

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 ちなみに、この一連の流れのゴジラのテーマは『SF交響ファンタジー第一番』の冒頭で聞くことができます。
 この曲の第一番はこのゴジラのメインテーマから『キングコング対ゴジラ』の原住民の合唱で使われる、キングコングのモチーフの曲につながっていきます。今回の『ゴジラ-1.0』では、このキングコングのモチーフのところまで使用されています。
 また、先ほどご紹介した『モスラ対ゴジラ』で使用された楽曲部分では、途中で「マハラモスラ」という楽曲の、モスラのモチーフが使用されたところまで使用されているので、ゴジラ音楽の好きなゴジラファンのうるさ方から「なんで、話と関係ないキングコングの原住民のメロディまで使うのか?」「モスラのテーマが鳴っているが、何か意味があるのか?」という文句が結構出ているのですが、私が見るには、特に深い意味はなく、場面にバッチリあっているから使用しただけなんだと思うのです。選曲の妙で、素晴らしい効果的なシーンとなっていると思うんですがねぇ・・。

 この『SF交響ファンタジー』ですが、第一番はやはりゴジラのテーマが冒頭に使われているためか、大人気であちこちのオーケストラによって演奏されており、耳にする機会が非常に多いです。冒頭はゴジラのテーマ、フィナーレには『シン・ゴジラ』の「ヤシオリ作戦」でのBGMでも使用された『宇宙大戦争』マーチで派手に締めくくられるとあって聞き手のアドレナリンを最高潮にあげてくれる作品となっています。

 直近である11月26日、一橋大学管弦楽団が、学園祭のイベントとして学内で無料のコンサートを催すそうですが、この中に、この『SF交響ファンタジー第一番』が演奏されます。生のオーケストラで聞く『SF交響ファンタジー』かなりアゲアゲな気分になること請け合います。組曲『宇宙戦艦ヤマト』をはじめ、カップリングされている曲も聞きごたえあるものばかり。お時間ある方は是非足を運ばれてはいかがでしょうか

 最後に『SF交響ファンタジー第一番』の動画を置きます。アマチュアオーケストラ「オーケストラ和響」さんの演奏で。私、この演奏、生で聞いておりますが、大変に熱い演奏になっています。アマチュアですから、多少の弱みもありますが、若いメンツによる演奏で素晴らしいと思います。 
 

 

 
  
  

  

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