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趣味は洋画
2024/12/12 14:30

懐古 アメリカ映画の1967年

昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
「1960年」を初回に、前回「1966年」まで7回にわたって当時の名作に触れてきた。

 

今回は ‘ニュー・シネマ’ の時代に入っていく1967年(昭和42年)の話題作のご紹介。

とにかくこの年は甲乙つけ難い名作が目白押しである。

 

 

「夜の大捜査線」 監督:ノーマン・ジュイソン

 

 

アメリカ南部の田舎町で起こった殺人事件を軸に、都会の黒人エリート刑事と、地元の警察署長との対立を描きながら、人種差別の根深さに迫っていく。

第40回 米アカデミー賞・作品賞受賞

 

ミシシッピーの田舎町。パトロール中の警官サム(ウォーレン・オーツ)が、路上で殺人死体を発見した。捜査が開始され、駅で張込み中の警官が、列車を待っていた黒人を容疑者として連行してくる。ところが、その黒人はフィラデルフィア警察殺人課の敏腕刑事ティップス(シドニー・ポワチエ)であり、故郷の母を訪ねた帰途であった。殺人事件を扱ったことのない署長のギレスビー(ロッド・スタイガー)は、ベテランのティップスに協力を求めたいと思うが、人種偏見の強い土地柄、彼自身も黒人に頭を下げる気にはなれなかった...。

 

常に冷静で理知的に捜査を進めるティップスを、毅然とした態度で演じたポワチエも素晴らしいが、本作で場面をさらうのは警察署長役のロッド・スタイガーだ。
ティップスの的確な捜査に舌を巻き、ついにはカブトを脱ぐが、感謝の気持ちを率直に言葉に表すことができない。そんな男の心情が ‘気をつけてな’ というラストのセリフに見事に集約され、実にさわやかな感動を呼ぶ

 

クインシー・ジョーンズの音楽に、レイ・チャールズの雰囲気たっぷりの主題歌も忘れ難い。

 

 

 

「俺たちに明日はない」 監督:アーサー・ペン

 

 

この映画こそ、アメリカン・ニュー・シネマの先駆けとなった作品。

実際にダラスを中心に暴れまわったアベック(死語?)の銀行ギャングの壮絶な青春を描いている。

 

1930年代のアメリカ南部。強盗で服役していたクライド・バロウ(ウォーレン・ベイティ)は、出所後、田舎町でカフェのウェイトレスをしていたボニー・パーカー(フェイ・ダナウェイ)と知り合い、犯罪コンビを組む。その後、前科者のモス(マイケル・J・ポラード)と、クライドの兄バック(ジーン・ハックマン)、その妻ブランチ(エステル・パーソンズ)が一味に加わり、彼らは銀行強盗を繰り返す。だが、彼らを捕えようとする警察の捜査の網が次第に狭められていく...。

 

犯行はことごとく成功していくのだが、クライドの兄夫婦が仲間に加わったことで、事態は急変していく。この展開の流れ、そしてクライマックスのスローモーション映像は名場面である。

 

アカデミー賞では、上述の主要俳優がすべて個人賞にノミネートされるなか、ブランチ役を絶妙に演じたエステル・パーソンズが助演女優賞を受賞した。

 

 

 

「招かれざる客」 監督:スタンリー・クレーマー

 

 

アメリカ社会に根強く残る人種差別問題を正攻法で描いた人間ドラマの秀作であり、当時、タブーとされていた黒人と白人の結婚問題を正面から見据えた社会派ドラマでもある。

 

世界的に有名な黒人医師のジョン(シドニー・ポワチエ)は、ハワイで知り合ったジョーイ(キャサリン・ホートン)と愛し合うようになり、結婚を誓う。2人は互いの両親の許可を貰うためにサンフランシスコへ戻ってきたが、ジョーイの母クリスティ(キャサリン・ヘプバーン)は、娘の恋人が黒人だと知って驚きの色を隠せなかった。だが、娘の嬉々とした様子に動揺は薄れ、次第に喜びに変わっていく。しかし父親のマット(スペンサー・トレイシー)は違っていた。彼は新聞社を経営し、人一倍の常識人ではあるが、自分の娘のこととなると話は別で、理屈では分かっているがスッキリしなかった。一方、ジョンの両親プレンティス夫妻(ロイ・グレンビア・リチャーズ)も、息子の嫁が白人だとわかって愕然とする。やがて、それぞれの母親は戸惑いながらも次第に理解を示すのだったが...

 

シドニー・ポワチエは本作のほかに、冒頭に取り上げた「夜の大捜査線」、「いつも心に太陽を」(67年)と、同じ年に3本の作品に主演している。

黒人俳優ポワチエが演じた人間像は、数々の困難に遭いながらも、最後にはその熱意なり人間性が認められるというもの。ところがアカデミー賞にはノミネートすらされていないのが不可解

これは3作品への出演で、票が割れてしまった結果とされている。

 

因みに1976年、ポワチエはカナダ出身の白人女優ジョアンナ・シムカスと再婚し、まさに本作を地でいっている

 

 

 

 

「卒業」 監督:マイク・ニコルズ

 

 

ベトナム反戦運動や学園紛争に揺れた60年代後半の空気を鮮やかに映し出すこの映画は、 ‘青春のバイブル’ として若い観客に支持された。 ‘青春のバイブル’、この言い回しは使い古された言葉だが、それでもやはり、本作にはこの表現が似つかわしい。

 

学問にスポーツに、賞と名のつくものはすべて取って東部の大学を卒業したベンジャミン(ダスティン・ホフマン)は、そういう評価自体に疑問を覚え、自分の境遇と将来に、説明の出来ない焦燥感を

抱いていた。そんな彼は中年女性のロビンソン夫人(アン・バンクロフト)に誘惑され、成り行きのままに密会を重ねる。しかし、夫人の娘エレーヌ(キャサリン・ロス)と出会ったことで、彼女の純真さに心打たれ、真実の愛に目覚めるのだが...。

 

有閑マダムに扮したアン・バンクロフトの妖艶さには驚かされるが、本作で本格的なデビューを飾ったダスティン・ホフマンのナイーブな演技、キャサリン・ロスの初々しさも印象的。

 

そして何といってもサイモン&ガーファンクルが歌う清々しい主題歌「サウンド・オブ・サイレンス」や、挿入歌「ミセス・ロビンソン」、「スカボロー・フェア」は名曲の域を超え、今なお不滅の輝きを放っている。

 

ひとつの笑い話が残っている。

ベンジャミン役は当初、ロバート・レッドフォードに依頼されたが、レッドフォードは「僕が女を知らない男に見えますか?」といって断った。

 

 

 

「暗くなるまで待って」 監督・テレンス・ヤング

 

 

銀幕の妖精’ として一世を風靡したオードリー・ヘプバーン

彼女が盲目の人妻に扮した、思わず息をのむサスペンスで、個人的には「ローマの休日」、「シャレード」と並ぶ彼女の傑作であると自負している。

 

夫のサム(エフレム・ジンバリスト・Jr)がカナダからニューヨークへの帰路、飛行機の中で知り合った女(サマンサ・ジョーンズ)から預かった人形には、密かに麻薬が縫い込まれてあった。そうとは知らない盲目の妻スージー(オードリー・ヘプバーン)は、夫が仕事で出かけた後、麻薬を取り戻そうとする犯罪組織の男たちの巧みな扮装と話術を信じ、彼らを自宅に入れてしまう。しかし、あることに端を発し、持ち前の勘の良さから疑念を抱いた彼女は、襲ってくる殺し屋と暗闇の中で対決する。

 

犯罪グループの首謀格ロート(アラン・アーキン)、仲間のマイク(リチャード・クレンナ)、カルリーノ(ジャック・ウェストン)らは悪知恵を働かせ、適当な理由をつけてスージーの自宅を訪れるのだが、人形は発見されない。嘘を嘘で固めた彼らの悪態が、クライマックスの対決へどう展開していくのか...。

 

ブロードウェイで大ヒットしたフレデリック・ノットの舞台劇を映画化したもの。

彼はヒッチコックの「ダイヤルMを廻せ!」の原作者でもあり、サスペンスのツボを心得ている。

 

サムを演じたエフレム・ジンバリスト・Jrは都会的センスに溢れ、米TV映画「サンセット77」での私立探偵ベイリー役があまりにも有名だった。

 

又、本作のプロデューサーは、当時オードリーの夫であったメル・フェラー

 

 

 

「暴力脱獄」 監督:スチュアート・ローゼンバーグ

 

 

実際に牢獄生活を送ったことのあるドン・ピアースの小説をもとに、権力に抵抗する囚人たちの姿を描いたアクション映画。

 

1948年、フロリダ州。泥酔してパーキングメーターを叩き壊したことで刑務所に入ったルーク(ポール・ニューマン)は、喧嘩も強く、人の嫌がる重労働もニヤニヤ笑いながらやる男。新入りながら、彼の不思議な魅力は猛者ぞろいの刑務所内でも人気の的になっていたが、囚人のボスであるドラグライン(ジョージ・ケネディ)は、そんなルークが気に入らなかった。立腹したドラグラインはボクシングの如く殴り合いでルークを倒そうとするが、体格に劣るルークも根性を見せつけて抗戦した。根負けしたドラグラインはルークを認め、逆に親しくなる。やがて2度の脱獄に失敗して半殺しの目に遭っていたルークは、懲りるどころか3度目の脱獄に挑戦するのだが...。

 

刑務所を牛耳る囚人のボスを演じたジョージ・ケネディが、アカデミー賞・助演男優賞を受賞

デビュー以来、悪役として鳴らしたが、本作以降は心優しき悪党へと変身を遂げ、70年代には「大空港」をはじめとするエアポート・シリーズで、頼れる男として大いに気を吐いた。

 

刑務所長役のストロザー・マーチン、ルークの母役のジョー・ヴァン・フリートをはじめ、クリフトン・ジェームスハリー・ディーン・スタントンアンソニー・ザービらが共演している。

 

ポール・ニューマンの旺盛な生命力を象徴する、卵の大食い競争象徴的な名場面だ。

 

上記以外の作品では、「特攻大作戦」(ロバート・アルドリッチ監督)、「裸足で散歩」(ジーン・サックス監督)、「ドリトル先生不思議な旅」(リチャード・フライシャー監督)、「モダン・ミリー」(ジョージ・ロイ・ヒル監督)などが挙げられる。

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1 件の返信 (新着順)
LOQ
2024/12/13 21:52

『 暴力脱獄 』はピーター・バラカンさんにとって、人生の1本だそうですが、同時に最悪の邦題と言っておられます。 ぼくもそう思います。

日本でこの作品の認知度が低いのもそれが原因と思います。
アメリカではポール・ニューマンと言えばまずこの作品で、訃報を受けての反響もやはりそうだったそうですから。

『 007 危機一発 』が『 ロシアより愛をこめて 』に変えて定着したように、「 クール・ハンド・ルーク 』としてリブートしてほしいです。
町山智浩さんのYouTubeでの解説が参考になります。 刑務所が不条理な世の中のメタファーというのはぼくも同感です。  『 ショーシャンクの空に 』は影響受けてるんですね。


趣味は洋画
2024/12/13 22:57

ロキュータスさん
早々にコメントいただきありがとうございます。

「ピーター・バラカンさん」...初めて知りました。
Wikiに詳しく紹介されていたので、ちょっと読んでみました。

>「 クール・ハンド・ルーク 』としてリブートしてほしいです。
はい、ボクもそう思います。
でも「暴力脱獄」が定着してしまいましたね。

>『 ショーシャンクの空に 』は影響受けてるんですね。
へえ~~、そうなのですか。
これまた初めて知りました。

何れにしても、ポール・ニューマンの男臭さがよく描かれた作品だったと思います。