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似顔絵で綴る名作映画劇場『夫婦のあり方を見つめ直したいあなたへ 』

夫婦のあり方を見つめ直したいあなたへ

 夫婦のカタチはさまざまです。

純愛もあれば、激しく求め合い傷つけ合うことも。「夫婦愛」を描いた幾多の作品が、私たちに結婚や人生について考えさせてくれました。そんな気になる映画をご紹介しましょう。


『グレン・ミラー物語』(1954)

イラスト 志賀コージ

綺麗な歯並びも印象的な人でした。

子供の頃、テレビで何度も観て感動したのが『甦る熱球』(1949)という映画です。

実在したアメリカの野球選手で、投手として活躍するも、誤って猟銃の弾が自分の足に当たるという不慮の事故で片足を失ってしまった男の実話を映画化したものです。失意のどん底の夫を献身的に励まし、8年の歳月をかけて選手として復活させる妻を演じたのが、“笑顔の人”ことジューン・アリスンです。この人が出てくると、どんな試練や苦難にも前向きであろう、という気分にさせます。

そして、5年後に再び夫婦役でジェームズ・スチュワートと共演したのが、この『グレン・ミラー物語』です。ジャズファンでなくとも一度は耳にしたであろう名曲の数々。あの偉大なるミュージシャン、グレン・ミラーの伝記映画であり、心温まる夫婦愛の物語なのです。

スラリとした長身のジェームズ・スチュワートと、小柄なジューン・アリスンの名コンビは、当時の日本人がいまだ憧れの眼差しで見つめていた古き良きアメリカの香りもいっぱいに、どこまでも清らかに魅せてくれました。

私の大のお気に入りの名曲『ムーンライト・セレナーデ』を筆頭に、全編を通じて流れる珠玉のスタンダードナンバーたちにうっとり。“スウィングジャズ”の入門編としても大いに楽しめて、心が“揺さぶられる”名作です。

 

 

『酒とバラの日々』(1962)

イラスト 志賀コージ

アルコールの魔物に取り憑かれた平凡なサラリーマンの夫。寄り添う妻もいつしか酒の罠に堕ちていく。夫婦ともに依存症となる。都会を離れ、妻の父親の元で酒断ちの平穏な暮らしをする二人。しかし、それも長くは続かなかった。嵐の晩、窓辺に映るのは、酒に浸り、笑いはしゃぐ、痛ましいまでの夫婦の狂酔の姿。夫は義父を裏切り、隠していた酒瓶を転げるようにむさぼるのだった。アリ地獄から這い出そうともがく二人。掴めども掴めども消えゆく、安らぎと幸せの幻。辛くて、苦しくて、そして切ない闘いは、いつ終わるともなく続くのでした。

 

夫婦を演じたのは、ジャック・レモンとリー・レミック。特にジャック・レモンは、そのキャリアの中で傑作コメディ映画への出演が多いことから、“コメディの人”というイメージが強いかもしれません。しかし、この『酒とバラの日々』に代表されるように、シリアスな作品でも幾多の忘れがたい秀作、名作があります。その柔軟で幅広い演技、特に、私たちと同じ目線の平凡な市井の人を演じる時のペーソス溢れる優しい温もりに、多くの人が心を重ね合わせたことでしょう。

そして、ヘンリー・マンシーニ作曲のこの永遠の名曲には、心もユラユラと陶酔します!

 

 

『クレイマー、クレイマー』(1979)

イラスト 志賀コージ

ダスティン・ホフマン&メリル・ストリープ。当代きっての名優たちが奏でる珠玉の名作。

 

仕事第一の広告マンの男。徹夜明けで帰宅すると、7歳の息子を残して妻は家を出てしまう。何故だ? と困惑している間もなく、仕事に育児にと目の回る日々が始まる。いくつもの問題と衝突を繰り返しながらも、父と息子の絆は着実に芽生えていた。

もはや息子の存在が全てとなった。彼は変わった。妻をないがしろにしていた自分にも気づいた。一年以上が過ぎたある日のこと。妻が突然現れると、親権を要求し、裁判も辞さないと言う。やがて、法廷での争いが始まり、夫婦は双方の落ち度を責め、自らを主張する。

妻の寂しさも、夫の献身の姿も理解したが、子供は断じて渡せない。互いの弁護人からの容赦のない言葉の矢が二人の全身を突き刺す。身を切る以上に心が傷ついた。

これが裁判なのか? 二人が望むものは何だったのか?

 

悲しみの中で失うものと得るもの。その例えようのない重さが人を成長させるのだとしたら、それはあまりに辛く切ないもの。映画のラストは、まさにそのことを象徴するように胸に迫ります。眼を真っ赤にしたメリル・ストリープに向かってダスティン・ホフマンがかけたひと言。こころが震え、ハラハラと涙しました。

 

 

『ゲッタウェイ』(1972)

イラスト 志賀コージ

10年の刑で服役していた男が、ある政界実力者との裏取引によって、わずか4年で仮釈放となる。その引き換えに、とある銀行を襲って50万ドルを奪うことが条件であった。

銀行強盗の“仲間”としてあてがわれたうさん臭い男2名と、自分の妻も含めた4人での決行。首尾よく金を奪うが、その金を独り占めしようとする“仲間”の男による裏切りが起こり、計画の歯車が狂い始める。そして、政界実力者による裏取引の真の目的とそこに潜む秘密を知り、血で血を洗う大殺戮へと突き進むのであった。強奪した大金と共に、夫婦の決死の逃避行が。果たして夫婦は逃げ切れるのか⁈

 

男として、アクションスタアとして、まさに脂の乗り切った時期のスティーブ・マックイーン。その洗練された身のこなしと、ショットガンの扱いの見事さは、他の追随を許さない“孤高の美学”と言えます。その妻役には『ある愛の詩』(1970)で一躍人気者となったアリ・マッグロー。“正統派の美人”というわけではないのですが、何とも言えない不思議な色気に溢れた人です。撮影当時、まだ人妻であった彼女と“いい仲”になったマックイーンは、この後、実生活でも夫婦となりました。“Getawey”しながら“Get”しちゃいましたね(笑)。

 

 

『トゥルーライズ』(1994)

イラスト 志賀コージ

『ターミネーター』のⅠ・Ⅱでシュワちゃんとコンビを組んだジェームズ・キャメロン監督。

彼の手腕が光る、手に汗握ってハラハラドキドキ! そして大いに笑える快作です‼

 

シュワちゃんが演じるのは、秘密諜報機関の凄腕のスパイの男。だが、その身分は家族にも隠していて、妻と娘にはコンピューター会社で働く一介のサラリーマンという事にしている。そんな“二重生活”を送るある日、彼に、テロリストの動きを探り、その暗躍を未然に防ぐというミッションが下る。テログループへの巧みな接近を通じて任務の遂行にまい進するのだが、こともあろうに、愛する家族を巻き込んでの大ピンチを招いてしまう。ここからド迫力の大活劇が展開され、息もつかせぬノンストップのアクションで観る者を圧倒します。当時、世界最高額の巨費を投じて製作された一大エンターテインメントは、肩の力を抜いて楽しめる、必見の超娯楽大作となり大ヒットしました。

 

映画の中盤で、妻の浮気を疑うシュワちゃんが、彼女を捕らえてホテルの一室で尋問する場面があります。もちろん顔を隠し、ボイスチェンジャーで声を変えて。言葉巧みに誘導すると、妻はあられもない黒の下着姿となり、ポールダンスを披露するはめに。羞恥心を押し殺しながら不慣れなセクシーダンスをこれでもかとぎこちなく舞うそのの姿にシュワちゃん言葉を失う。次第に興に入ったかのように妖艶さを増す妻。ジェイミー・リー・カーティスの名演技に大爆笑です‼

 

 

『アイズ ワイド シャット』(1999)

イラスト 志賀コージ

スタンリー・キューブリックの遺作となった問題作。

当時、実際の夫婦であったトム・クルーズとニコール・キッドマンを配してのエロくてミステリアスでキワドイ映画です。日本では「成人指定」となりましたが、このキャステイングの妙と大胆さは、さすがキューブリックと唸らせます。

 

ニューヨークでセレブな医師である男は、妻と娘と暮らしている。平穏な日々を過ごしているように見える夫婦だが、心の中には互いへの疑念が芽生え始め、どこか倦怠感を抱いている。夫は、妻が他の男との情交に酔いしれている姿を妄想してしまう。そして、友人が漏らしたあるひと言から「秘密の仮面パーティー」の存在を知り、やがてその禁断の世界へのめり込んで行く。そこで体験した背徳の渦は、この夫婦の未来をどこに流れ運んでしまうのだろう?・・・

 

ミステリアスな映画です。そして、いつもながらに、劇中で使用される音楽の秀逸さに感嘆の想いです。キューブリックの音楽センスにはいつも舌を巻きます。全編に漂う妖しい毒気と禁断のエロチシズムが、人の心の仮面をはぎ取るように胸を搔きむしります。

原作は1932年に発表された短編小説。二十世紀初頭のウィーンを舞台にした物語を現代のニューヨークに置き換えています。その分、「背徳感」や「非現実感」のような部分にあまり落差を感じさせないのがやや気になります。ニューヨークではもっとひどいパーティーが日常的に行なわれているんじゃないのか⁈ そんな“妄想”にかられました(笑)。

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