映画コラム〜第37回東京国際映画祭 入江悠監督インタビュー〜
こんにちは。
rin2です。
今年もいよいよ、この季節がやってきました!東京国際映画祭!
今年の監督特集は、入江悠監督。
今年大きな話題を呼んだ「あんのこと」をはじめ、「AI崩壊」や「ネメシス」など、これまで数々のヒット作を手がけてきた入江監督。
私自身も、これまで監督の作品に刺激や感銘を受けてきました。
「22年目の告白〜私が殺人犯です」では、二転三転する展開に最後までぐっと引き込まれ、「ネメシス」シリーズのエンタメ性にどっぷりハマり、「あんのこと」に衝撃を受けてきた私の映画人生。
振り返ると、節目節目で監督の作品に触れてきたなと思います。
ここで少し、私が感じている入江監督の魅力を語らせてください。
監督の作品は、時代劇にエンタメ、社会派作品と、ジャンルは多岐に渡りながらも、いつも登場人物の存在がどこかリアル。
どんな内容でも、登場人物に共感したり、自分の身近にも、登場人物のような人が実際にいるような気がしてきたりする不思議な感覚が、必ずと言っていいほど湧き上がってきます。
「22年目の告白〜私が殺人犯です〜」は、凶悪な連続殺人犯を題材にしたお話かつ、大どんでん返しとも言える衝撃的な結末が待っています。
残虐な殺人事件についても、容赦なく描かれる衝撃作ですが、見ている人が登場人物それぞれの喜怒哀楽を体感していくような構成になっていて、いつの間にか物語の世界をリアルに感じるほど浸ってしまいます。
物語後半、藤原竜也さん演じる主人公が車で山へ向かうシーンからは、まさにノンストップ。
物語の核心に迫りだす中で、すべての登場人物の緊張感を、体感せずにはいられません。
ラストに向かって、被害者たちの苦しみも殺人犯の抱える闇も、どんどんあぶりだされていく。
映画という限られた時間の中でも、作中の時間の流れが所々変に端折られないリアルな展開で、登場人物の言動やその周りにある環境も、いい意味で生活感がある。
その分、殺人事件のシーンは、見た後もしばらく思い出してしまうくらいには怖いのですが、殺人犯も被害者も、どんな人も決して特別な存在ではなく、平凡に生きている私たちと紙一重の存在なのだと考えさせられます。
この作品は、年間約400本映画鑑賞する私の頭の中に、ずっと鮮明な記憶として残り続けているお話の1つです。
そして、今年大注目の「あんのこと」。
実話を基に描かれる、1人の女性・杏のお話。
これが実話だということに、強い衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。
母親からの虐待、貧困、薬物、売春など、社会問題をすべて1人で背負い込んでいるかのような人生を送る杏。
杏が彼女なりにもがく中で、今まで出会わなかった人たちに出会い、少し希望が見えたと思っても、またすぐに絶望せざるを得ない何かが起きて…
最後に杏が行き着く先まで含めて、終始ずっと苦しい展開の続く物語。
見ているだけで辛くなってしまうこのリアルさも、やはり観客に物語を体感させる仕掛けが散りばめられた、監督の演出から来るのだと思います。
今作は、ある意味ドキュメンタリーのような淡々とした展開で、余計な音やセリフを排除した静かな作品。
映像も、杏の視線そのままを映し出したシーンと、杏を俯瞰して眺めるような彼女の全身を映したシーンとのバランスも絶妙。
杏の見聞きしたものや感じたものを、観客にも体験してほしいという、作り手側の熱意が本当によく伝わってきます。
入江監督は、作中で起こる出来事そのものよりも、杏のような女性が、この日本に確かに存在したことを、多くの人に知ってもらいたかったのかなと思いました。
この他にも、「AI崩壊」では少しだけ未来に本当に起こるかもしれない、AIを利用したテロが描かれたり、「ネメシス」では、ハードな展開ながら、登場人物1人1人にどこか人間臭さがあったり…
作中で起こる非現実的な出来事も「これが今、私の目の前で起きたら…」と想像せずにはいられなくなり、個性あふれる登場人物たちも、なぜか自分の身近にいるような気がしてくる。
観客に物語を自分事として体感させてくれる作品が多いからこそ、見た後も心に残り続けるものが多いのだろうなと思いました。
そんな魅力満載の入江監督に、東京国際映画祭開幕直前に、今の想いを伺ってきました。
はじめ:Nippon Cinema Nowの特集が入江監督に選ばれたこと、改めておめでとうございます。まずは選ばれた心境をお聞かせください。
入江:自分でいいのかな?という思いが率直な感想ですが、フィルモグラフィーを振り返ると、メジャーからインディペンデント作品まで様々な映画を撮ってきました。どういう作品を撮ろうか、いつも迷いながらではありますが、“監督の作品”を特集していただける点においては、東京国際映画祭の「懐の広さ」を感じました。このような機会は人生に何度もあることではありませんので、今までやってきたことやこれからの方向性を考えるきっかけにしたいと思います。
はじめ:ありがとうございます。入江監督は海外でも撮影していたり、旅行も好きだという記事を拝見しました。今後も海外での撮影が視野に入れていますか?
入江:そうですね。海外の撮影はとても楽しくて、機会があればいつでも行きたいと思っています。海外のスタッフの方やキャストの方と仕事すると、今まで自明だったことが、再確認する必要性に迫られることもあります。「なぜこのシーンを撮るのか」や、「このシーンはどういう意図があるのか」を全て言語化しなければならないなど、新しい発見が生まれます。外国で映画を撮るのは、自分で気づかなかったことを教えてもらえる点もあり、単純に旅行が好きなので、今まで知らなかった場所に行って、一緒にものづくりする純粋な楽しさもあります。SR埼玉ラッパー以降、約15年間日本の映画界をみてきて、日本の映画作りの制度や慣習が身についてきてしまいます。対して、一歩海外に行くと全く当たり前のことではなくなります。特に「聖地:X」を韓国で撮影したときは、韓国の労働環境・映画界の豊かさを感じ、日本の映画人も学ぶ点がいっぱいあると感じました。そういった発見に出会えるのはやはり大きいですね。
Rin2:入江監督の作風やジャンルは多岐にわたる印象がありますが、今後どのようなジャンルに挑戦したいですか?
入江:様々なジャンルに興味があります。子供の頃から映画の世界に入ろうと決めるまでに、アクションやSFも観てきたので、あまり狭めずに挑戦しています。2025年1月に公開の「室町無頼」は時代劇ですが、時代劇も好きでよく観ていました。時代劇は映画として撮るのは初めてで、撮影中はずっと京都に滞在していました。京都の撮影所で、京都の映画人と一緒に作品を作るのは新しい挑戦で、「何か新しい時代劇をみんなで作ろう」という気持ちで取り組んでいました。
Rin2:作品を撮る中で、一貫して心がけていることはありますか?
入江:今、改めて考えるとパッと思いつかないっていうのが率直なところです。自身でも時々考えることはありますが、それは自分で決めてしまうとつまらない気もしていて。結果的に自分が死ぬ時に、誰かが「この監督はこうやりたかったんだな」のように気づいてくれたらそれでいいかなと思います。道を狭めないことで、様々なジャンルを横断したり、題材にふれたり、挑戦ができると思っています。
はじめ:コロナ禍の当初、ミニシアターに客足が減ってしまった問題を解決すべく、我先に手を挙げてクラウドファンディングへの声掛けをされたかと思います。ミニシアターは入江監督はどのようなものでしょうか。
入江:今までの経験や訪れた先の人々との関係性によって異なりますが、もともと映画監督として認めてもらった最初の作品が「SRサイタマノラッパー」で、日本全国ミニシアターで上映していただいたからこそ、道を開けました。今ほどインディペンデントの映画を上映してくれる映画館は多くありませんでした。今まで15年間様々な映画を出てきましたが、約半分はミニシアターで上映していただけるような作品で、ミニシアターという“文化的な価値”は守っていきたいと思います。舞台挨拶で訪れる映画館に面白い館長やスタッフさんが沢山いて、顔が見える映画館はまたシネコンとは違った良さがあります。「あの人がこういう気持ちで作った映画館なんだ」というような、愛着を感じます。
はじめ:以前はビフォーコロナとコロナ禍、今はポストコロナになっていますが、今後ミニシアターと考えている取り組みはありますか?
入江:一昨日、名古屋のミニシアターに舞台挨拶した際にお聞きしたのは、結局ミニシアターが抱えている問題や課題はそれぞれ違うんですよね。個別に各映画館の人と話して、「最近はどうですか?」「どういうことをやりたいと思っていますか?」と、直接聞き回る活動に変わってきています。共通するのはコロナ前のお客さんの数によって戻らない現実があるので、ミニシアターの抱えている問題はまだ何も解決はしていません。焦らずに、少しずつできることをしていきたいなと思いました。
はじめ:来年1月公開「室町無頼」は「あんのこと」とは全く異なる印象だと感じました。「あんのこと」は社会的問題である”トー横問題”なども触れている印象もありましたが、「室町無頼」も社会的問題に何か関係しているのでしょうか?
入江:社会的問題は作品を撮れば、勝手に映るものだと思います。「室町無頼」は時代は室町時代ですが、主演の大泉洋さんやスタッフさんが作る以上、“今”というものが反映されることは必然かと思います。意識をしなくても現代社会の“何か”が映画に映り込んでしまうものだと思います。東京国際映画祭の特集上映の一作に選んでいただいた「太陽」は、SFで近未来の日本の社会を描いてますが、コロナ禍で分断があったという点に置いてもリンクするところがあります。SFであろうと時代劇であろうと、“今”が反映されるものなんだという感じがしています。
はじめ:最後に「あんのこと」について質問です。実話を元にした作品ですが、この作品を撮ろうとしたキッカケはなんですか?
入江:新聞記事を読んで、衝撃を受けたのがキッカケです。「この人のことを知りたい」「この人を理解したい」という直感的な感じでした。もしかすると私と同じ東京のどこかで、女性がこのような人生を歩んできて、このような結末を迎えていることに対して、“全く無知だった自分”に突きつけられた感じもありました。キャスティングの河合優実さんについても決まっていなかったのですが、脚本を書き始めた時にプロデューサーの方から河合優実さんを紹介いただきました。彼女のことは前から存じ上げていましたので、ぴったりな役どころだと思いました。
枠にとらわれず、とにかく自分で形にしたいと思ったものを作り続けていく…
ミニシアターの存続など、映画界全体を盛り上げていきたい…
そんな監督の、映画に対する愛情と情熱を強く感じるインタビューとなりました。
個人的に、最後、監督が「あんのこと」について『 "全く無知だった自分"に突きつけられた感じ』と仰っていたのが、とても印象的。
私自身も、この作品は、誰もがあんにも、あんの周りの人にもなり得るお話だなと思って、深い余韻が残った作品でした。
監督自身が衝撃を受け、深く考えながら作り上げた作品だからこそ、多くの人の心に残る作品になったのだなと思いました。
様々なジャンルの作品を撮り続けながらも、毎回しっかり観る人の心に残る作品を作り続けられる、監督の秘訣に少しだけ触れられた気がした今回のインタビュー。
穏やかな口調で語られる強い思いに、内心何度も興奮し、私自身の映画愛も深まるとても濃い時間になりました。
東京国際映画祭での、入江監督作品の上映スケジュールはこちら
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◆2024.10.31◆
13:15〜 あんのこと(2024年)
16:40〜 太陽(2016年)
◆2024.11.04◆
13:05〜 SRサイタマノラッパー(2008年)
15:45〜 SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム(2010年)
18:40〜 SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者(2012年)
チケットは、東京国際映画祭公式ホームページ(https://2024.tiff-jp.net/ja/)にて、好評発売中。
監督の初期作品、SRサイタマノラッパーはシリーズ全作一挙上映予定。
監督の原点と魅力に触れられる、充実のラインナップです。
入江監督ファンはもちろん、まだ監督の作品に触れたことのない人にも、今回の映画祭で是非、監督の情熱を体感してほしいです。