『用心棒』との面白い類似点がある時代劇『三匹の侍』
『三匹の侍』と『用心棒』はリンクしている
と、最近のわたしの研究で分かってきた。そもそも五社英雄は「打倒黒澤明!」と吠えていたそうだが、『三匹の侍』を観ると、オマージュだらけのような気がしてきた。それで、「三匹の侍」「用心棒」「類似点」で検索してもヒットせず、この点についてどなたも書いておられないので書いてみることにした。ネタバレが含まれるので、それがお嫌いな方はご覧になった後でお読みになることをお勧めする。絶対に見て損はしない94分だから、未見の若い映画ファンの人は、ここから先は読まずにとりあえず他に観るものがないのなら、観てください。
1.プロット
まず、『用心棒』と『三匹の侍』がどういう話なのか、できるだけ短くあらすじを書いてみる。
『用心棒』は、二組のやくざの暴力に苦しめられている村に、どこからともなく浪人の三船敏郎が現れ、居酒屋の亭主東野栄治郎の助けを借りつつ、やくざを叩きのめし、再びどこへともなく立ち去る話。
『三匹の侍』は、悪代官の重税に苦しめられている村に、どこからともなく浪人の丹波哲郎が現れ、槍の使い手の長門勇と、代官の用心棒役から寝返った平幹二朗の助けを借りつつ、悪代官を叩きのめし、再びどこへともなく立ち去る話。
勧善懲悪、村人を悪人から助けるヒーローというプロットは同じ。
もしわたしが時代劇を監督するなら、このプロットをそのまま使うと思う。元ネタはダシール・ハメットの『血の収穫』というハードボイルド小説である、というのは映画ファンに知られた蘊蓄。「悪を懲らしめる」というプロットが美味しい。結局映画もドラマもコミックも勧善懲悪が面白いのよ。
『三匹の侍』では、丹波哲郎が藤原釜足たち3人の百姓から飯をもらう場面がある。これは『七人の侍』で百姓が侍に報酬としてコメを食わせるということにつながる。
そもそも百姓のために戦う侍という構造自体、『七人の侍』と同じ。
2.オープニングとエンディングのスワップ
『用心棒』のオープニングでは三船敏郎が「枯れ枝」を放り投げて、枝が向く道を行く。
『三匹の侍』のエンディングでは丹波哲郎が「かんざし」を放り投げて、先が向く道を行く。
これは五社監督は絶対に意識して撮っているはず。黒澤がアタマに持ってきたのなら、オレは締めくくりにやってやろう。
ちなみにこのかんざしは小道具として生きている。『用心棒』では、東野英治郎が三船に隠し持たせる包丁にあたる。
3.囚われのヒロイン
『用心棒』のヒロイン、司葉子は賭場の元締めである馬目の清兵衛一家に囚われる。
『三匹の侍』のヒロイン、桑野みゆきは百姓たちの水車小屋に囚われる。
百姓たちは年貢の減免を代官に交渉するために、代官の娘の桑野みゆきを人質にしており、この水車小屋に通りがかりの丹波が現れる。
囚われの身のヒロインは必ず主人公によって解放される。そのことで関係性を持つ。
『用心棒』の司葉子は三船に助けられるが、三船に宛てた礼状が後に三船を苦しめる。
『三匹の侍』の桑野みゆきは丹波に助けられるが、百姓を咎めない代わりの条件が後に丹波を苦しめる。
4.半殺しの目に合うヒーロー
『用心棒』では、司葉子の三船宛の礼状が仲代達矢にばれて、やくざの小屋に監禁され、そこでジャイアント馬場たち(本当は羅生門綱五郎)から三船は半殺しの目に合わされる。
『三匹の侍』では、桑野みゆき解放に際して、百姓の罪を問わない代わりに丹波が代官から百叩きの刑を受け、半殺しの目に合わされる。
バットマンも、ウルトラマンも、ウルトラセブンも、一度は死にかけるものだ。
といったように随所に『用心棒』への目配せが感じられてしまうのである。
『三匹の侍』はフジテレビのディレクターだった五社英雄らの演出によるテレビドラマシリーズが先に放送された(1963~64年)。このテレビドラマ版の第1シリーズの第1話『剣豪無宿』(脚本は柴英三郎で映画版も手掛ける)が原作である。残念ながらテープは消失しており、現在これを見る術はない。
ところで、『用心棒』がスカッとするエンディングを迎えるのに対し、『三匹の侍』はそうではなく「もやもや」が残る印象がある。その要因は2つある。
『用心棒』では悪党はすべて死ぬが、『三匹の侍』では生き残る。悪代官は斬りかかろうとする丹波の前に立ちはだかる娘、桑野みゆきの父の命乞いによって九死に一生を得るのである。
『三匹の侍』では藩主行列の時に、百姓が訴状を藩主に上梓しようとするが、代官の手勢に企てたその百姓たちは斬られてしまう。訴状は斬られる覚悟を決めた百姓が直前に川に流す。それは奇遇にも丹波らに拾われる。そして代官を懲らしめた後、百姓の元へ行って「お前たちの仲間が命に代えた訴状だぞ、誰か訴状を藩主に出す奴はおらんのか」と言うが、誰もその勇気はなく、うつむいて受け取ろうとすらしない。
誰かが受取り、藩主行列に向かって走っていく百姓の後ろ姿を見て、丹波がにやりと笑って終わっていれば『用心棒』同様にスカッとできただろう。しかし五社監督はあえてそのような結末にすることはなく、あまりに現実的な描写で終わる。
しかし、わたしはこう捉える。
百姓の窮状を知った娘によって、命を救われた代官は必ず改心するはずだと。
『三匹の侍』はわたしの選ぶ日本映画オールタイム・マイベストに選出。
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投稿を表示桃田さんの日本映画マイベストの一本が『三匹の侍』!!
さすがです!!ほんとに痛快ですよねっ
自分も(は?)五社監督は文芸作品より、こういう痛快な作品の方が好きですっ
『用心棒』との類似点、相違点の解釈、面白く拝見しましたっ
自分は『用心棒』が日本映画マイベストの一本なのですが、こうやって比べていただいて、それぞれの面白さが改めて見えてきた感じです。久々に『三匹の侍』見たくなりました!
ありがとうございます!!
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