令和を生きぬく侍と時代劇撮影所の黄昏のSFコメディ『侍タイムスリッパー』
■侍タイムスリッパー
〈作品データ〉
『拳銃と目玉焼』や『ごはん』など自主制作映画を手掛ける安田淳一監督が数年かけて作られた現幕末の侍が現代にタイムスリップするSFコメディ映画。幕末、会津藩士の高坂新左衛門は京都で長州藩士を討つべく付け狙い、狙った男と刀を交えた瞬間に落雷にあい、現代の時代劇撮影所にタイムスリップをし、迷い込んだ時代劇撮影所で騒動を巻き起こす。主人公の高坂新左衛門役を山口馬木也が演じ、他冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、紅萬子、福田善晴、井上肇、田村ツトム、安藤彰則、庄野崎謙が出演。
・8月17日(金)より池袋シネマ・ロサ他9月13日(金)より全国拡大公開!
・上映時間:131分
・配給:新未来映画社
【スタッフ】
監督・脚本・撮影・編集:安田淳一
【キャスト】
山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、紅萬子、福田善晴、井上肇、田村ツトム、安藤彰則、庄野崎謙
〈『侍タイムスリッパー』レビュー〉
公開初日は8月半ばの土曜日で、メイン館が池袋シネマ・ロサ、関東での上映がシネマ・ロサと川崎のチネチッタのみと商業自主制作映画あるあるな公開状況だったが、SNS等での口コミが広がり、9月13日から全国のTOHO系とMOVIX系の62館のシネコンで拡大公開が決まったSFコメディ映画『侍タイムスリッパー』。幕末の侍が現代の時代劇撮影にタイムスリップする1アイディアからSF、コメディ、時代劇、映画・ドラマ制作映画、殺陣師・「斬られ役」へのこだわり、さらにはうっすらと恋愛まで入れる等いろんな要素を見せながら
現代を生きぬく侍のいとおかしな作品に仕上がっている。
現代にタイムスリップからの展開は幕末の侍でなくても映画を見ている観客さえも驚くほど非常に早く、撮影所近くの寺への居候から時代劇の「斬られ役」志願&殺陣師への弟子入りというようにスパスパと進む。江戸時代の侍が令和の現代にタイムスリップし、令和の現代の日本のあらゆる文化に触れる戸惑うや驚いたり、ぎこちない動きを見せる様子は見る者の笑いを誘い、それは最後まで一貫しているのでコメディとして楽しめる。
侍の新左衛門は京都の時代劇撮影所でのやり取りや主な仲介役になる撮影所の助監督の山本優子の献身のフォロー、居候させてくれた西経寺住職夫妻との触れ合いなどで徐々に令和の日本の生活にアジャストしていく。この部分が物凄く強引にストーリー展開を強行突破していきはするが、物事・ストーリーをスムーズに進ませるためにやむを得ない。中盤に冒頭の伏線回収に関わる大きな変化があり、以降新作時代劇映画への抜擢、撮影と順調に大きな流れになる。特に終盤の殺陣は圧巻で、アクション的な見せどころになる。
それと、前半から見られる京都の時代劇撮影所のテレビドラマ・映画の時代劇作品制作の作品としても存分に楽しめる。その中で沙倉ゆうのが演じる撮影所の助監督の動きをよく見る映画であるが、『侍タイムスリッパー』のスタッフとしても助監督や小道具、制作も兼ねているのでそこもリアルで楽しめる。この他、殺陣師関本役の峰蘭太郎も実際に東映京都撮影所・専属演技者の「斬られ役」出身で「殺陣技術集団・東映剣会」の役員・会長を歴任した形なのでこれまたリアルというか、この撮影所での諸々のシーンは限りなく本物に近いモキュメンタリーと言いたいぐらいで、
映画制作映画としては屈指のクオリティーである。
また、この時代劇撮影所&殺陣師・「斬られ役」エピソードはこの業界について回る斜陽もしっかりと描き、そこが滅びゆく運命にある侍や会津藩士の運命にも被るので、時代劇撮影所&殺陣師・「斬られ役」と侍・会津藩士らの黄昏の二重奏にもなっている。
本の少し引っかかる部分はあるにはあるが、侍と令和のカルチャーギャップコメディとしては最高だし、時代劇撮影所&殺陣師・「斬られ役」の憂鬱とそれでも侍が侍としてまだまだ映画界を生き延びるかもしれないと思える希望が湧いて来る。昨今でも豊川悦司主演の『仕掛人・藤枝梅安』二部作や白石和彌監督による時代劇映画『碁盤斬り』、北野武監督による新解釈時代劇映画『首』など、時代劇はまだまだ日本人・日本映画に生き残っている。この映画を機に
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投稿を表示祝拡大上映🎉。地元にも来てくれるといいのですが☺️
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