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DISCASレビュー

じょ〜い小川
2024/08/27 21:35

【蔵出しレビュー】日本の限界集落で起こった三者三様の絶望的なサスペンス『楽園』

※8月30日から公開の吉田修一原作、江口のりこ主演、森ガキ侑大監督作品『愛に乱暴』にあわせて、吉田修一原作の過去作品のレビューをUPしました。尚、文章は公開当時のものを一部加筆・訂正したものです。

■楽園

(c)2019「楽園」製作委員会

《作品データ》

『64-ロクヨン-』や『友罪』の瀬々敬久監督が「悪人」や「怒り」の吉田修一原作の「犯罪小説集」を映画化したサスペンス映画! 12年前に少女誘拐事件が起こった地域で、再び同様の事件が発生する。捜索隊は少女を捜索する中で母子でリサイクルショップを営む青年・中村豪士を疑い、悲劇が起こる。

青年・豪士役を綾野剛が演じ、他杉咲花、村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか、石橋静河、根岸季衣、柄本明、佐藤浩市が出演。

・ TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー中!

・配給:KADOKAWA

・公式HP:https://rakuen-movie.jp/


《『楽園』レビュー》

『64-ロクヨン-』(前編)(後編)や『友罪』など重く見応えがあるサスペンス映画を手掛けるようになった瀬々敬久。今回は「悪人」や「怒り」を原作した吉田修一の原作を映画化し、

日本の田舎で不器用に暮らす青年やアラフィフが地域の人々に追い詰められ、現代性が高いドラマに仕上がっている。

(c)2019「楽園」製作委員会

ストーリーは3章構成で、綾野剛が演じる在日のリサイクルショップの青年や少女誘拐事件が起きる直前に被害者の少女と一緒にいた紡、そして佐藤浩市演じる集落の出身ながら東京・千葉で働き、妻と実家に住む両親を亡くしたことをきっかけに集落に出戻って養蜂を営む田中善次郎、主にこの3人を中心にし群像劇に仕立てている。前作の『友罪』も群像劇だったがその繋ぎ目が分かりにくかったが、本作では3つの章構成で、しかも途中で時間が12年や1、2年ぐらい飛んでいたにもかかわらず、僅かながらの繋がりを見せるサスペンスになっている。

(c)2019「楽園」製作委員会

言葉がつたなく、内向的で、他から引っ越してきた在日の青年・豪士や出戻りのアラフィフ善次郎、幼い頃の事件に関係した罪悪感がトラウマになっている紡など生きていてどこか不器用な人々が地域で追い詰められる所が絶望的。長野県の限界集落と呼ばれる地域を舞台にはしているが、「限界集落」とか「過疎化」をテーマにしているわけではなく、追い詰められる不器用な人々の「居場所」=「楽園」と見ている。

 

豪士を追い詰める時の群衆心理はよく表れ、今どきのネット・SNS社会や何かしら犯してしまった著名人に対するマスコミの仕打ちともかぶり、今の日本・日本人らしさが表れている。

(c)2019「楽園」製作委員会

善次郎の追い詰められ方は若干いきなりな感じはあったが、出戻りという余所者扱いと僅かな不満から起こったひびが徐々に大きくなりエスカレートしていく。クラシック音楽のボレロのように、若しくは小さな火種が大きな炎になるような理不尽な仕打ちは「村八分」を見事に描いている。

(c)2019「楽園」製作委員会

杉咲花が演じる成長した紡のエピソードは他のメインキャラと比べると東京に逃げ、村上虹郎が演じる同級生の男性との微妙な関係など悲惨さは薄く、絶望映画的観点からはポイントは下がるが、地元に訳あって帰る旅に柄本明演じる行方不明になった少女の祖父から力一杯罵声を浴びせられたり、事件を思い出したり、それなりに追い詰められてはいる。

(c)2019「楽園」製作委員会

一緒にいた人間が不幸な目に遭い、それがトラウマとなるくだりは瀬々敬久監督作品『友罪』の生田斗真が演じた元新聞記者の青年・益田と通じるものがあり、また演じている杉咲花の上手さも相乗し心の傷を持つ女性のエピソードとして重みがある。

 

もう一つ一服の清涼的なエピソードとして善次郎と片岡礼子演じる夫を亡くしてシングルマザーの久子との微妙な関係も微笑ましい。善次郎だけでなく久子も不器用な大人で一筋縄ではいかない展開が良い。そういえば、綾野剛が演じる豪士にも紡との蜘蛛の糸のような繋がりがあり、異性さえもいなかった『ジョーカー』のアーサーと比べてしまうと悲壮感が和らいでいる。

 

そうは言いつつも

キャラクターによっては壮絶な落とし所を見せる絶望的なサスペンスとしては見応え十分。普段居場所がない方なんかは共感性が強い、現代の日本映画である。

(c)2019「楽園」製作委員会
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