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2025/11/11 12:25

第11回 米アカデミー賞・作品賞受賞「我が家の楽園」

87年前の映画だが、登場人物の表情がみんな豊かで生き生きとしている。

当時の社会の矛盾を突いた、痛烈な風刺喜劇と言えなくもないが、アカデミー会員たちはこそって、この良質コメディを作品賞に押し上げたのだ。

 

「我が家の楽園」(1938年・アメリカ、モノクロ、126分)

                          監督:フランク・キャプラ

まず、登場人物の多さと、その間柄を理解するために、最初に整理しておきたい。

 

〇マーティン・ヴァンダホフ老人(ライオネル・バリモア) *本作の主人公

 昔は実業家だったが、金儲けだけの人生が虚しくなり、今は好き勝手に暮らしている。

〇ペニー・シカモア(スプリング・バイイントン

 ヴァンダホフの娘。元々は絵描きだったが、今はひたすらタイプライターで戯曲を書いている。

〇ポール・シカモア(サミュエル・S・ハインズ

 ペニーの夫。ヴァンダホフ家の地下で花火を作っている。

〇エシー・カーマイケル(アン・ミラー

 ヴァンダホフの孫娘。バレーを習いながらお菓子を作っている。

〇エド・カーマイクル(ダブ・テイラー

 エシーの夫。花火と菓子の販売人、兼、素人印刷屋。シロホンを演奏する。

〇デピナ(ハリウェル・ホッブス

 ポールの花火作りの助手。昔は氷の配達人だった。

〇コレンコフ(ミシャ・オウア

 元レスラーのロシア人でバレー教師。エシーにバレーを教えている。

〇ポピンス老人(ドナルド・ミーク

 ヴァンダホフ一家に途中から住むことになる。玩具の発明をしている。

〇アンソニー・P・カービー(エドワード・アーノルド

 ウォール街にある金融業兼・大軍需会社カービー社の社長。

〇トニー・カービー(ジェームズ・スチュワート

 アンソニーの息子で、カービー社の副社長。アリスに結婚を申し込む。

〇アリス・シカモア(ジーン・アーサー
 エシーの妹。トニー副社長の秘書であり、恋人。

〇ジョン・ブレイクリー(クラレンス・ウィルソン

 大手不動産会社を経営。カービー社から依頼され、土地の買収を進める。


野心家の金融業者社長アンソニー・カービー氏は、軍需工場拡張のために周辺土地の買収を進めている。立退料につられて大半の人々が引っ越す中、ヴァンダホフ老人が住む一家だけは首を縦にふらない。ヴァンダホフ老人は ‘人生は楽しく自由に生きよう’ という考え方で、金にはまったく興味のない風変わりな男である。一家には様々な家族や、同居人が一緒に生活しているが、老人の孫娘であるアリスは、大会社カービー社の副社長トニーの秘書をしている。アリスとトニーは恋人同士で、ある日、トニーがプロポーズするが、トニーの両親は庶民のアリスとの結婚に反対した。一方、ヴァンダホフ老人は大賛成だ。アリスはカービー夫妻を自宅に招待するが、そこへトニーもやって来る。ヴァンダホフ家の陽気なはしゃぎぶりに、カービー夫妻は面食らうのだが...。

恰幅のいいカービー社長とヴァンダホフ老人のやりとりが実にユニークである。
最初は高慢で頑固一徹のカービーが、ヴァンダホフ老人の、人生を悟りきった言葉に徐々に影響を受け、表情が変わっていくサマが絶妙だ。
ラスト、2人がハーモニカを吹くシーンは思わず胸が熱くなる。

 

そしてスプリング・バイントンの抑えた演技(アカデミー助演女優賞ノミネート)、ジーン・アーサーのはじけぶりは、とても「シェーン」(53年)の貞淑な妻役のイメージにほど遠い。

 

何と言っても主人公ヴァンダホフ老人を演じたライオネル・バリモア(1878 ~ 1954)の演技に魅了される。飄々とした表情と語り口が実に素晴らしい

彼の存在感は独特で、さすが ‘バリモア一家’ の長たる所以だ。

ただ、名演技の彼が本作でアカデミー賞(主演)にノミネートすらされなかったのが不思議だ。

それは共演したジェームズ・スチュワートやジーン・アーサーにも当てはまる。

 

当時は、コメディーでの表面上軽い演技よりも、シリアスで重い演技のほうが、アカデミー会員たちに有利に作用したのかもしれない。

事実、この年のオスカーは、主演男優賞に「少年の町」のスペンサー・トレイシーが、主演女優賞に「黒蘭の女」のベティ・デイヴィスが選ばれている。

ただ、アメリカの楽天主義を反映させた映画として、アカデミー作品賞を受賞したのは当然の結果だったのだろう。

監督のフランク・キャプラは、「或る夜の出来事」(34年)、「オペラハット」(36年)に続いて、本作で3度目のアカデミー監督賞に輝いている。

作品賞受賞に大きく貢献したことは言うまでもない。

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