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じょ〜い小川
2025/01/20 21:46

検証!昭和と令和の『阿修羅のごとく』

《Netflixドラマ『阿修羅のごとく』レビュー》

2025年が始まり、Netflixにて早速配信された是枝裕和監督最新作『阿修羅のごとく』(以降、令和版と記す)。「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」、「パパと呼ばないで」などを手掛けた向田邦子原作で、昭和54年と55年にはNHKの「土曜ドラマ」で和田勉演出でのテレビドラマ(以降、昭和版と記す)を、平成にも森田芳光監督による映画版が作れたが、今回は日本だけでなく世界的に見ても指折りの巨匠と言える是枝裕和監督によるNetflix配信ドラマとしてリメイクした。それもオリジナルに当たる昭和版と同じ7話構成で、時代設定、登場人物も同じ。

ということから、

昭和版の鑑賞が必須

と判断し、U-NEXTで配信されていた昭和版を7話までしっかりと見てからNetflixにて令和版を見たので、二つを比較しながら令和版の特徴を挙げていく。

Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」は2025年1月9日(木)より世界独占配信

1.台詞、展開は昭和版の“ほぼ”完コピ


この令和版『阿修羅のごとく』、

1979年という時代設定や登場人物、人物相関だけでなく、それぞれ起こる出来事やさらには台詞まで昭和版と同じである。

それは序盤の三女・滝子が電話ボックスから細かく昭和版を再現している。電話ボックスのガラスドアに書く「父」という字から、電話を受けた巻子の電話直後の家族との会話など、ほぼほぼ同じ。“ほぼほぼ”と書いたのは巻子の息子の宏男の台詞のラノベのタイトルを言うタイミングがやや早く、早口言葉みたいになっていたことや、里見家の置き電話が令和版の方が昭和版よりもちょっと地味になっていたなど、

ファミレスのテーブルにある「間違い探しゲーム」の最後の1つを見つけるぐらいのミリ単位の違いはある。

が、大半は完コピ(完全コピー)と言っていいぐらい同じである。鷹男の「桃太郎みたいにおじいさん、おばあさん〜」のくだりも、鷹男が鏡餅を割るアクションや台詞、長女・綱子の差し歯が取れるハプニングも全く同じ。

 

こうした完コピ演出は2006年公開の市川崑監督の『犬神家の一族』(完コピ元・1976年版『犬神家の一族』)、2007年公開のミヒャエル・ハネケ監督の『ファニーゲームUSA』(完コピ元・1997年公開『ファニーゲーム』)と森田芳光監督の『椿三十郎』(完コピ元・黒澤明監督作品『椿三十郎』)、2013年公開の山田洋次監督作品『東京家族』(完コピ元・小津安二郎監督作品『東京物語』)などで、元の作品の展開と台詞の完コピ映画はあるにはある。強いて言えば、令和版は『東京物語』の台詞、設定、演出を大部分踏襲してリメイクし、平成版に置き換えた『東京家族』の演出に非常に近い。

では、本作はキャストのみを替えた完コピドラマなのかというと

そうではない。

四女・咲子の彼氏のボクサーの陣内英光に関するエピソードとこれに絡んで6話と7話に大幅な違いがある。そこに脚色としての是枝裕和が伺えるが、他は昭和版のエピソード、台詞を、令和版の新たなるキャスティングで演じている。

Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」は2025年1月9日(木)より世界独占配信

2.大きく違う昭和と令和のキャストの雰囲気


令和版は昭和版の展開、台詞をほぼ完コピしてはいるが、キャスティングに関しては是枝裕和監督は

「今が旬の俳優で演じる」

とコメントにある。

特にメインとなる四姉妹のキャスティングは宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず。

Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」は2025年1月9日(木)より世界独占配信

中でも宮沢りえは『花よりもなほ』の主演、尾野真千子は『そして父になる』のメインキャスト、広瀬すずは『海街diary』のメインキャストと蒼井優以外はいわゆる是枝組の女優。他にも夏川結衣や國村準、溝口奈菜も是枝裕和監督作品に出演経験がある俳優だが、滝子役の蒼井優をはじめ、松坂慶子や本木雅弘、松田龍平、内野聖陽など是枝裕和監督作品初出演組も少なくない。要になるキャストは是枝組に任せつつ、昭和版のいしだあゆみよりも眼鏡地味三十路女性の滝子が似合う蒼井優やちょい役ながらボクサーの息子の母親役で異様なインパクトを放つ高畑淳子など初主演組も旬の俳優を使っている。

しかしながら、昭和版のキャスティングを見ると、佐分利信、緒形拳、加藤治子、風吹ジュンなど実に重々しい。これに対して、國村準、本木雅弘、宮沢りえ、広瀬すずはポップであり、そこがそのまま昭和、令和を表している。

ちょっと個人的な話を挟むが、ボクの母方の兄妹は6人いて、女性が母を含めて3人いて、さらに三男の嫁(叔母→加藤治子っぽいおばちゃん)が加わり、彼女らが母の実家の集まりや法事などで顔を合わせるとまさしく昭和版『阿修羅のごとく』の綱子や巻子の集まりといった雰囲気で(滝子や咲子っぽいのはいない)、

昭和版の綱子と巻子が出るシーンや四姉妹会議のシーンは既視感というかデ・ジャブのような懐かしさがあった。

 

そこで、このボクの母や叔母連中が令和版の四姉妹のように可愛くじゃれ合う感じになるかというと、輪廻転生してもならないと断言出来るし、同時に昭和版の彼女たちには逆立ちしても出せない雰囲気である。

それは昭和版の佐分利信&緒形拳と令和版の國村準&本木雅弘の対比でも同様である。昭和版の恒太郎役の佐分利信は黙っているだけで重圧感を感じさせる超重鎮。銀行なら頭取か会長、ヤクザなら組長しかやらない晩年の佐分利信だから出せる佇まい。これは國村準にはどう逆立ちしても難しいが、代わりに子供と遊園地で遊ぶシーンや喫茶店で一緒にホットケーキを食べるシーンなど微笑ましさは佐分利信には不可能だったと思うし、それこそが國村準の味で、令和版の味わいになる。モックンこと本木雅弘と緒形拳の違いも同様。緒形拳は昭和版撮影前後の1978年に『鬼畜』、1979年には『復讐するは我にあり』と共に日本映画史に燦然と輝く作品で主演を務めて全盛期の真っ只中。これに対して本木雅弘も映画出演作こそは多くないが『おくりびと』や『永い言い訳』で主人公をポップに演じていた。このポップさが令和版で見せる新たなる里見鷹男像となる。やはり昭和版の緒形拳のような重さや強い父親像はないが、その分部下との不倫疑惑に昭和版よりも「やってそう…」と匂わせるものがある。

もう一人挙げるなら、やはり昭和版の風吹ジュンと令和版の広瀬すずの違い。風吹ジュンは特に前半ではどことなく「はすっぱ」さが感じられた。これに対して令和版の広瀬すずが演じた咲子からは「はすっぱ」というよりかはいつもの広瀬すずのような無邪気さに置き換わっていた。風吹ジュンも後半では「はすっぱ」さがややなりを潜めるので、後半は風吹ジュンも広瀬すずもそう大差がなく感じられた。

全部取り上げたらきりが無いが、このそれぞれの時代のキャストの味わいこそが昭和版、令和版の個性である。


3.チョイスが光る昭和版の音楽とオリジナルにこだわった令和版の音楽


この『阿修羅のごとく』の最大の違い、


それは音楽にある。

 

昭和版のテーマ曲はメヘテルハーネの「ジェッディン・デデン」(Ceddin Deden〈祖父も父も〉)。メヘテル(メフテル)とはトルコの軍楽で、これがオープニングとエンディングだけでなく、各話随所でかかり、これこそが昭和版『阿修羅のごとく』の顔とも言える。チャルメラのようなけたたましい音を奏でる管楽器のズルナと重いリズムを刻む太鼓のダウルをメインにした曲はサーカスのパレードのような曲で、昭和の懐かしさとどこか据えたような臭いがするような感覚に包まれる。

さらに昭和版は他のポップス、ロックの楽曲の使用も秀逸。日本では尾藤イサオによる日本語カバーが有名な「Don't Let Me Be Misunderstood」のサンタ・エスメラルダによるラテン・ポップ版が咲子が働く喫茶店のシーンでかかったり、3話と4話の母・ふじに関わる重要シーンでレインボーの「Gates Of Babylon」を大胆に使ったり、他にもYMOの「テクノポリス」やマレーネ・ディートリッヒの「ジョニー」など新旧問わずあらゆるジャンルの楽曲を巧みに使用。昭和版の音楽担当というのが誰だか不明だが、演出の和田勉のチョイスだとしたら和田勉演出作品の妙として他の作品も見たくなる。

 

これに対して、令和版ではインストゥルメンタル・バンドのfox capture planが全面的に音楽を手掛けた。オープニングも劇中のBGMも悪くはないが、正直印象に残らない。この昭和版のゴリ押しな音楽と令和版の妙に奥ゆかしいBGMの存在というのも、ある意味、昭和と令和の違いかもしれない。


4.室内光の違い


もう一つ挙げるなら、昭和版と令和版では室内シーンの明るさもかなり違う演出が見受けられた。

昭和版は全般的に明るい。いかにもテレビドラマのホームドラマ仕様という感じの明るさで、昭和のテレビドラマらしさがある。
これに対して、令和版はどことなく全般的に暗めに撮影している。これは是枝裕和監督作品全作に共通しているが、是枝裕和監督作品は基本的にはドキュメンタリータッチの撮影である(時代劇作品の『花よりもなほ』を除く)。これによって、里見家のダイニング、キッチン、リビングが映されるのシーンは生活臭が漂う感じがある。

Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」は2025年1月9日(木)より世界独占配信
Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」は2025年1月9日(木)より世界独占配信


これに関しては時代云々よりも手掛けた監督、演出の違いが反映されたものと考えられる。


以上、長々と二つの時代の『阿修羅のごとく』を比較してきたが、これ以外にもまだ書ききれていない部分もあるし、何よりも森田芳光監督による平成版/映画版『阿修羅のごとく』は今回省いたので、こちらはまた別の機会に書きます。


《作品データ》

昭和54年、55年にNHK「土曜ドラマ」で放映された向田邦子原作、和田勉演出のテレビドラマ「阿修羅のごとく」を是枝裕和監督が完全リメイク!図書館の司書の三女・滝子は父・恒太郎の素行を興信所に調べさせ、愛人がいることが発覚。このことを長女・綱子、次女・巻子、四女・咲子とも共有するが、彼女たち自身も不倫の影がちらついていた。長女・綱子役を宮沢りえ、次女・巻子役を尾野真千子、三女・滝子役を蒼井優、四女・咲子役を広瀬すずが演じ、他國村隼、松坂慶子、本木雅弘、松田龍平、藤原季節、内野聖陽、夏川結衣、戸田菜穂、瀧内公美、城桧吏、野内まる、高畑淳子、福島永大、三浦獠太、溝口奈菜が出演。

・2025年1月9日(木)よりNetflixで世界独占配信

【スタッフ】

監督・脚色・編集:是枝裕和

【キャスト】

宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず、國村隼、松坂慶子、本木雅弘、松田龍平、藤原季節、内野聖陽、夏川結衣、戸田菜穂、瀧内公美、城桧吏、野内まる、高畑淳子、福島永大、三浦獠太、溝口奈菜

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1 件の返信 (新着順)
はじめ バッジ画像
2025/01/22 12:54

改めて先日お話しましたが、比較面白いですね~👏