世界を揺るがしたアメリカのセクキャバ嬢のロマンスと現実『ANORA アノーラ』
■ANORA アノーラ

《作品データ》
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』『レッド・ロケット』などのショーン・ベイカー監督が、ニューヨークを舞台に、若きストリップダンサーのアノーラが、自らの幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘する等身大の生きざまを描いたコメディドラマ。アノーラ役は新星マイキー・マディソン。アノーラに夢中になるロシア新興財閥の息子イヴァン役に、ロシアの若手俳優マーク・エイデルシュテイン。第97回アカデミー賞では計6部門にノミネートされ、作品、監督、主演女優、脚本、編集の5部門を受賞した。
・新宿ピカデリー他全国ロードショー中!【R18+】
・配給:ビターズ・エンド、ユニバーサル映画
・公式HP: https://www.anora.jp/
《『ANORA アノーラ』レビュー》
『タンジェリン』や『レッド・ロケット』など、トランスジェンダーや元ポルノ俳優など現代の日陰者を主人公にした群像劇やラブコメを得意とするショーン・ベイカー監督の最新作『ANORA アノーラ』。今回も風俗店のキャストを主人公にしたロシアの金持ち息子とのラブコメで、展開が読みにくい斜め上を行く展開、ラストのカタルシスはいかにもショーン・ベイカー監督作品らしさが発揮された作品で、賞云々とは関係なく、
同監督のこれまでの作品が好きなら間違いなく楽しめる。

六本木の「セクキャバ」のような風俗店で働く店のキャストのアニーことアノーラが客としてやって来たロシア人のイヴァンに気に入られ、勢いで結婚し、さぁどうなる、という話。主人公アノーラからすれば千載一遇のラッキーなシンデレラストーリーになるかと思いきやといった感じで、江戸時代や明治時代の吉原の花魁のサクセスストーリーみたいに行かないあたりは「ですよね〜」と言いたくなるぐらい現実味がある。また、そこからの終盤の展開は「あ、そう来る?」と言いたくなる見る者の虚をついたもので、そこもこれまでのショーン・ベイカー監督の脚本らしさが伺える。

ロシアの金持ち息子のイヴァンのボンクラっぷりや、主人公アノーラのギリギリで生きるヒロイン、また似たような感じの同僚や駄菓子屋で働く友人など、出て来る登場人物の大半が愛おしく、この辺も『タンジェリン』や『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、『レッド・ロケット』といったショーン・ベイカー監督作品と共通したものである。また、イヴァンの父親の企業もオリガルヒという財閥だからか必要以上には出さないが、イヴァンのセレブさの裏づけには十分で、後半のイヴァンの両親の反応も分からなくはない。

ニューヨークの風景はビーチ周辺を中心としたもので『ロボット・ドリーム』にも通じるどこか物悲しい雰囲気も少しあったり、ラスベガスのシーンには『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』らしいバカっぽさもあり、それぞれの場所も活かされている。
ショーン・ベイカー監督としてはごく平常運転な作品で、日陰者のラブコメを存分に楽しめる!

