懐古 アメリカ映画の「1977年」
昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。
「1960年」を初回に、前回「1976年」まで17回にわたって当時の名作に触れてきた。
今回はスティーヴン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」や、ジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ」などの宇宙主題作品、或いは「ジュリア」や「アニー・ホール」等の女性映画が注目された「1977年」(昭和52年)の話題作をご紹介したい。
「スター・ウォーズ」 監督:ジョージ・ルーカス
数多くの熱狂的ファンを生んだSF大作であり、壮大なスペース・オペラに酔いしれる。
元々「スター・ウォーズ」であったが、大ヒットのあと9部構成となることが発表され、「エピソード4/新たなる希望」という副題がつけられた。


銀河帝国の打倒を目指すレイア姫(キャリー・フィッシャー)は帝国軍に捕らえられ、親衛隊長ダース・ヴェイダー(デヴィッド・プラウズ)の拷問を受ける。脱出カプセルで逃げ出したC-3PO(アンソニー・ダニエルズ)とR2-D2(ケニー・ベイカー)の2体のロボットは、小惑星タトゥーインでヴェイダーに父を殺された若者ルーク(マーク・ハミル)と出会い、元共和国の老騎士ケノービ(アレック・ギネス)と共にレイア姫の救出に向かう。ケノービはさらに密輸船長のハン・ソロ(ハリソン・フォード)を仲間に引き入れる。
最新SFXが作り出す映像世界、冒険活劇の定番ストーリーに神話的構造が編み込まれ、大人も子供も楽しめるシンプルで力強いドラマになっている。
アカデミー賞では「視覚効果賞」、「衣装デザイン賞」、「作曲賞」、「美術監督・装置賞」を受賞している。
「ジュリア」 監督:フレッド・ジンネマン
アメリカの劇作家リリアン・ヘルマンが、第二次世界大戦前の思い出を記した物語を原作に、2人の女性の友情を描いたドラマ。


幼なじみのリリアン・ヘルマン(ジェーン・フォンダ)とジュリア(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は、成長してからも親友として付き合いを続けていた。イギリスの大学を出たジュリアは、反ナチ運動に参加するようになり、リリアンはウィーンの暴動でジュリアが重傷を負ったと聞いて直ぐに彼女を訪ねたが、連絡は取れなかった。やがて劇作家として成功したリリアンは、片足を失い松葉杖をついているジュリアとベルリンで再会するのだが...。
愛人であり、厳しい師でもあったハードボイルド作家ダシール・ハメット(ジェイスン・ロバーズ)との愛の生活の中で、リリアン・ヘルマンがたどる精神形成の道程を描きながら、彼女の目を通して、ジュリアという戦乱の中に生きた女性像を描いている。
ジェーン・フォンダとヴァネッサ・レッドグレイヴは当時、思想的な立場は違うが実際に反戦運動の闘士であり、特にフォンダは、赤狩り時代に民主主義のために闘ったヘルマンの役を熱望し、本作にかける彼女の意気込みは相当なものだったと某誌に記述されている。
一方のヴァネッサは本作でアカデミー助演女優賞を受賞するのだが、 ‘パレスチナ人民と反ファシストのために闘う’ といった政治的発言が波紋をよんでおり、アカデミーの受賞式でも同様の発言をし、物議を醸している。
「未知との遭遇」 監督:スティーヴン・スピルバーグ
地球を訪れた宇宙人と人間とのコンタクトを題材にしたSFファンタジー。


インディアナポリス一帯に原因不明の停電事故が発生し、電気技師のロイ(リチャード・ドレイファス)はすぐに調査に向かった。その途中、小高い丘の上を通過していくUFOを目撃した彼は、その日から何かに憑かれたように山の形の模型を作り始める。その頃、フランス人のUFO学者ラコーム教授(フランソワ・トリュフォー)は、インドで記録された天からの不思議な音楽を分析し、それを使ってUFOとの交信を試みていた。ロイは、その現場デビルズ・タワーこそが、自分が作ろうとしていた山とそっくりであることに気づき、そこへ向けて出発するのだが...。
UFOが夜空を乱舞する場面をはじめ、様々な幻想的な映像が特殊技術を駆使して作られているのは、当時としては驚異的なことだった。
圧巻は、マザー・シップ(UFOの母船)が降臨するシーンで、思わず息を飲んでしまう。
撮影は、スピルバーグの劇場映画デビュー作「続・激突!カー・ジャック」(74年)で組んだヴィルモス・ジグモンド(本作でアカデミー賞・撮影賞を受賞)。
又、友好的な異星人との交流で、音楽によるコミュニケーションが使われたのが素晴らしい。
音楽監督は第一人者のジョン・ウィリアムスである。
本作のクライマックスに深い感銘を受けた人は、おそらく劇場でご覧になられたのでは...。
輝くばかりのUFOの母船、そして光と音の一大ページェントに、魂まで清められるほどだった。
異星人との交信に使われた「5つの連音(5音音階)」のメロディーも、心地よく耳に残っている。
「アニー・ホール」 監督:ウディ・アレン
大都会ニューヨークに生きる男女の出会いと別れを、ユーモアとペーソスで綴るウディ・アレンの傑作ラヴ・ストーリー。 *第50回 米アカデミー賞作品賞受賞。


ニューヨークのナイトクラブで活躍するコメディアン(漫談師)のアルヴィー(ウディ・アレン)は、テニスクラブで歌手志望のアニー(ダイアン・キートン)と知り合った。神経質な性格のアルヴィーは、長く精神科医に通っている。一方のアニーは屈託がなく、会話もユニークな女性で、間もなく2人は一緒に暮らし始める。同棲生活は最初は快適だったが、次第にお互いの短所ばかりが目につくようになっていった。そんな頃、アニーがカリフォルニアで仕事をするチャンスを摑み、2人の仲に決定的な危機が訪れる....
この映画は、脚本家兼監督として映画界にデビューした異才のニューヨーカー、ウディ・アレンが、得意の話術を生かして見せた自伝的要素の濃い作品である。当時の恋人ダイアン・キートンとの私生活が、本人同士の共演もあって、ドラマと重なり合っている。
ダイアン・キートンが新しいヒロイン像を知的に溌溂と演じ、見事アカデミー主演女優賞に輝いた。
マニッシュな独特のファッションまで生み出した彼女は、当時のファッション・リーダーとして注目を集めた。
「愛と喝采の日々」 監督:ハーバート・ロス
人生の転機に正反対の道を選んだ2人のバレエ・ダンサーが、久方ぶりに再会する。
プリマとして成功した女性と、結婚して引退した女性の対照的な生き方を通して、親と娘の二世代にわたり人生の意味を問いただしていく。


かつては同じバレエ団でプリマドンナの座を競ったディーディー(シャーリー・マクレーン)とエマ(アン・バンクロフト)だったが、ディーディーはウェイン(トム・スケリット)との結婚を機に引退して家庭に入り、エマは生涯をバレエに捧げる決意をした。時を経て2人は再会、ディーディーの娘エミリア(レスリー・ブラウン)がエマのバレエ団に入ることになるが、やがて2人は互いの人生にジェラシーを感じ始める。一方、ニューヨークでめきめきと頭角を現したエミリアは、やがてソ連から亡命してきたバレエ団員のユーリ(ミハイル・バリシニコフ)と知り合う。
何といっても名女優2人の熱演が素晴らしい。
バーで出くわしたディーディーとエマが口論となり、互いに長年、胸の内に秘めていた感情のすべてをさらけ出す。短い言葉のやりとりから、やがて汚い言葉で罵り合うまでの2人の表情の変化、このシーンは見事というほかない。
そして激しい口論で終わらないところは、当時のフェミニズムを反映させている。
「ニューヨーク・ニューヨーク」 監督:マーティン・スコセッシ
ジャズ・ミュージシャンと女性シンガーの愛と別れを描いたセミ・ミュージカル。
ライザ・ミネリの華やかなショーマンシップと、ロバート・デ・ニーロの凝ったサックス奏者ぶりに思わず引き込まれる。


1945年のニューヨーク。失業中のサックス奏者ジミー(ロバート・デ・ニーロ)は、ホテルのダンス・ラウンジでフランシーヌ(ライザ・ミネリ)と出会い、恋仲になった。2人は一緒に小さなクラブのオーディションを受けて合格するが、彼女のマネージャーのトニー(ライオネル・スタンダー)は有名バンド(フランキー楽団)との全国巡業を勧めたため、別れ別れになる。
花形歌手となったフランシーヌはジミーと再会、彼を自分のバンドのメンバーに加え、やがて結婚した。しかし、音楽性の違いが2人の生活をダメにしていく...
何と言っても本作のテーマ曲を聴くだけでシビレてしまう。
トミー・ドーシー楽団の演奏も心地よいが、ダイアン・アボットの歌う「ハニー・サックス・ローズ」が実に素晴らしい。
彼女は言わずと知れたデ・ニーロ元夫人。76年「タクシー・ドライバー」(やはりマーティン・スコセッシ監督)では、ポルノ映画館の売店の女という端役だったが、このとき既に2人は結婚していた。(のちに離婚)
音楽映画としてはありがちなストーリーを、あえて映像化したスコセッシ監督の狙いは、音楽シーンの再現にあったのか...彼はニューヨーク・クィーンズ区の生まれで、本作の巻頭シーンの、対日戦勝利に沸く「ニューヨークの紙吹雪」を幼い頃に体験しているとか。
「ブラック・サンデー」 監督:ジョン・フランケンハイマー
8万人の大観衆で埋め尽くされたスタジアムを、飛行船を使って爆破しようと企む国際テロリスト、対するイスラエル特殊部隊やFBIの攻防。この重厚なサスペンス・アクションの面白さは半端じゃない。


1976年11月。パレスチナ過激派組織「黒い九月」の面々が、新たなテロ計画のためベイルートに集まった。その計画は大勢の米国人が集まる場所での大量殺戮を行うというもの。リーダーの女闘士家ダーリア(マルト・ケラー)は計画実行後に全世界へ向けて発表する声明を、テープレコーダーに吹き込み始めた。そこへイスラエルの秘密情報局特殊部隊モサドが突入、銃撃戦の中、指揮を執るカバコフ大佐(ロバート・ショー)は、侵入した部屋でシャワーを浴びていたダーリアを見逃した。全裸で怯えていた女性が首謀者とは思わなかったのだ。カバコフは録音テープを持ち帰り、テロ計画が新年早々に実行されると分析、FBIのコーリー(フリッツ・ウィーヴァー)の協力を得て計画の全貌を知るため奔走する。一方ダーリアは、ベトナム戦争に出兵していた元米海軍のランダー少佐(ブルース・ダーン)と手を組んだ。ランダーは今、アメフトのスタジアムでTV中継用の飛行船を操縦している機長である。ランダーは戦場で多くの殊勲を上げていたが、ベトナムで捕虜になって精神を病み、帰国後も強制的に離婚させられたり、復員施設で冷酷な仕打ちを受け、母国への強い恨みを抱いていた。母国への復讐を誓うランダーと、米国内で大規模テロを画策する「黒い九月」の思惑が一致した瞬間だった...。
前半は中東レバノンでの「黒い九月」の暗躍ぶりが描かれる。特に首謀者のダーリアという女性は肝っ玉が据わっている。
後半は、大きな文字で「GOOD YEAR」と書かれた巨大飛行船がマイアミに登場する。
新年早々のスーパーボウルの試合会場の上空に、この飛行船が姿を現すシーンが実に不気味だ。
ブルース・ダーンは ‘何かにとり憑かれたような役’ を演じると、実に上手い。
表向きは普通の男だが、内面にはちょっと想像できないような執着というかコアを抱えている...そんな役柄だ。
主演はロバート・ショーで、骨太なイメージの強い彼は、イスラエル特殊部隊の大佐役は適役。
本作でも随所に的確な戦略と迅速な行動を発揮、テロ組織に屈しない強靭ぶりを見せている。
上述以外の作品にも、甲乙つけ難い傑作が公開されている。
世界中にディスコ・ブームを巻き起こし、ジョン・トラヴォルタを一躍トップスターに押し上げた青春映画「サタデー・ナイト・フィーバー」。
リチャード・ドレイファスがアカデミー主演男優賞を受賞した「グッバイガール」。
ある日突然、無人の車が人を襲うサスペンス映画「ザ・カー」。
クリント・イーストウッドが、はみ出し刑事(デカ)を好演した「ガントレット」。
海洋スペクタクル・アドベンチャー「ザ・ディープ」....等々
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投稿を表示「ブラックサンデー」その夏の大作としてラインナップされていて、2時間30分とアクション映画としては超長尺。わては試写会で見ることができて、当時としては結構、荒っぽいシーンがありました。スペクターの一味だったR・ショーは一転、モサドの諜報部員となり、黒い九月の残党のテロを阻止するスリリングな展開、ホント面白かった・・・さんざん宣伝していたにもかかわらず公開時は「サスペリア」になっていて「なんで?!」
アラブゲリラを敵視しており、劇場に恐喝があり公開にふみきれなかったんですって。ハリウッドはこの時代、イスラエルを善、アラブを悪とした映画が多数つくられましたが、ほぼ未公開に。これらの作品は水準以上ものだったらしいです。ブライアンデ・パルマの「フューリー」もヤバいと思われましたが無事公開されました。
いまもイスラエルは暴れまくっておりますが・・・
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投稿を表示お久しぶりです。趣味は洋画さんの年で区切った映画紹介は、その頃の自分を思い出させてくれるタイムマシーンみたいな記事です。
この年はもう大学生でしたかね。洋画さんもご存知のとおりSFが大好きだったので『スター・ウォーズ』を観てその世界に歓喜し、『未知との遭遇』を観てマザー・シップの壮大さに畏怖したものです。
『ガントレット』も劇場で観ました。映画の出来としては、それまでのイーストウッド主演作と比べて大味だなと思いましたが、派手な銃撃で家がつぶれる場面ではゲラゲラ笑っておりました。設定に少し無理がありましたが、アクションはなかなか見所があって楽しかったです。
『ブラックサンデー』は”黒い九月”の名前で上映した映画館を爆破するという強迫があって、日本国内では上映中止となりました。カバコフ大佐を演じたロバート・ショウはモサドの敏腕指揮官という人物像をらしく演じていました。ブルース・ダーンが”何かにとりつかれる役”がうまいというのは私も同感です。観た限りの作品でも『ザ・ドライバー』の逃走専門の運転手、ライアン・オニールを捕まえることに執念を燃やす”刑事”や『サイレント・ランニング』で地球に唯一、残された植物を守ろうとする温室ドームにドームを爆破して地球に帰還するよう命令が届いたあとに仲間を殺してでも爆破を阻止した主人公など、そういう人物が多いですね。
これから時代が進むに連れて、どういう映画が出てくるのか楽しみに待っています。